美智子上皇妃が皇后でおられた時、「今一番何がしたいですか?」と記者に問われ、「神保町に行って、ゆっくり古本探しをしたい」といったようなことを口にされた。
「ああ、そんな簡単なこともできないんだなあ」と、庶民であることの幸福を感じたものである。
これが同じ有名人でも芸能人ならば、ちょっと変装して(あるいは化粧を落として)一人で出歩くこともできよう。都会なら目立つこともないし、今はマスク姿が主流である。
皇室の人が外出する時は必ずお車と警備がつくので、人目や時間や警備の労を気にせず、独りを楽しむことができない。
居場所が分からなくなったら、それこそ『ローマの休日』のごと、宮内庁は上を下への大騒ぎであろう。
誰にも行先を告げずに一人旅や山登りをする醍醐味の一つは、「今この時、家族や友人も含めて世界中の誰も自分の居場所を知らない」という脱俗気分を味わえることである。(携帯電話をOFFにする必要があるが)
常に周囲に保護=監視されている生活は、いくら衣食住と安全が保障されようが、ソルティには耐え難い。
美智子上皇妃が神田古書店街に行かれたのは、おそらく聖心女子大学に通っておられた独身時代の1950年代だろう。
その頃の神保町はどんなふうだったのだろう?
ソルティがはじめて足を踏み入れたのはやはり大学生だった80年代。
新刊書店と古書店が、表通りや裏通りや仲通りに隙間なくならぶ光景に圧倒された。
中古レコード店やビデオショップ、古風な喫茶店やエロ本屋などもあって、散策は楽しかった。
爾来、時たま訪れて、銀ブラならぬ神(じん)ブラをして暇つぶしするようになったが、2000年代に入ってからは出版不況のあおりか、地価代高騰のためか、はたまた後継者の不在のためか、書店数が減っている印象があった。
本屋だったところがたいがい飲食店になって、訪れるたびに街並みが変貌していた。
「時代の流れには逆らえないよな」といささか残念に思っていたが、ネットで調べてみたら、地区の書店の店舗数は150~200くらいで昔と大きく変わってはいないらしい。
減ったのは主に新刊書店で、古書店は50年以上の歴史を持つ老舗に加え、ブックカフェ形式のお洒落な古本屋が増えている。
新陳代謝しているようだ。
久しぶりに神ブラに出かけ、またしても街並みの変貌を目にした。
大きいところでは、神保町交差点にあった“意識高いマダム系”映画館・岩波ホールが無くなった。
三省堂書店の本社ビルは建替えのため、仮店舗で営業中。
たしかにブックカフェがあちこちにあって、中を覗いてみると、荒俣宏のようなむさ苦しい本の虫といった親爺連中ではなくて、知的でお洒落な今風の若者たちがコーヒーカップを手に読書を楽しんでいた。
精神世界の本が充実していることで知られる書泉グランデに行った。
4階フロアの一番目立つところにあるのは、なんとタロットカードコーナー。
いま若い女性を中心にカード占いの大ブームなのであった。
ただ、昨今のカード占いのメインは、伝統的なタロットカードよりも広く多様な領域をカーバーするオラクルカード。
「オラクル(oracle)=神託、大きな存在の言葉」を受け取るためのカード。占術としては、偶然性からメッセージをうけとる「卜術(ぼくじゅつ)」のひとつに位置づけられる。通常、40~50枚のカードとガイドブックで構成され、日本では2000年くらいから広く出版されるようになった。現在では、日本には数百種類のカードが出版されているといわれている。そのルーツは、聖書を使って占う書物占い(ビブリオマンシー)を現代風にしたものともいわれている。占いカードを代表するタロットカードは、通常、大アルカナ(Major Arcana)22枚と小アルカナ(Minor Arcana)56枚で構成され、それぞれのカードとして描かれるモチーフも決まりがある。一方、オラクルカードには枚数や描かれるモチーフの決まりがなく、それぞれのカードの著者の世界観によるところが大きい。ここが、オラクルカードの大きな特徴ともいえる。
(ウィキペディア『オラクルカード』より抜粋)
要は、カードの著者が「あたかも神託を受けたように」自分で絵柄を決めて、「あたかも神託を受けたように」一枚一枚のカードの意味なりメッセージなりを決めて、占いグッズとして売り出しているわけだ。
数世紀の歴史を持つ伝統的なタロットカード派にしてみれば、スピリチュアル&ファンタジー志向を持つ若い女性をターゲットにした“イカ×マ”商売に見えるかもしれない。
が、鏡リュウジ先生の著書『タロットの秘密』によれば、タロットカードもまた、もともと14世紀頃のイタリア貴族たちのカードゲームに過ぎなかったものが、印刷術の登場で庶民にも広がり、18世紀後半になってオカルトブームの興隆とともに秘教色を伴った占いグッズに変貌したという。
つまり、どっちもどっち、トランプ占いと変わらない。
そうとは知っていても、タロットカードの絵柄は魅力的である。
とくに、もっとも世界中で使われているウェイト=スミス版は、英国の秘教研究家アーサー・エドワード・ウェイトの指示のもと、1909年に画家のパメラ・コールドマン・スミスが描いたもので、神秘的かつ寓意的かつ芸術的なその絵柄は、深く人の心をとらえる暗示力を持っている。
パメラ・スミスは画家としてもっと高い評価――少なくともオーブリー・ビアズリーや天野喜孝レベルの――を得てもいいと思うし、他にどんな作品を描いていたか知りたい。
ちなみに、ソルティにとってタロットカードと言えば、少年時代に読んだ古賀新一の漫画『エコエコアザラク』の黒井ミサに極まる。
怖かったなあ~。
面白かったなあ~。
というわけで、書泉グランデでウェイト=スミス版を1デッキ(セットではなくデッキと言うのが英語的に正しいそうだ)購入してしまった。
大アルカナ22枚
小アルカナ56枚と合わせて78枚揃っている
アルミケースに入って1500円だった
これからアヤシイ占い師を目指して、霊感を鍛えスピリチュアルトークの修行をして、老後の副収入にしようかな。
年金はあてにならないし、そもそも額が少ないし。
神保町にアヤシイ店を開くのも面白いかもしれない。
神保町にアヤシイ店を開くのも面白いかもしれない。