2008年BBC(英国放送協会)放映
50分×3話
原作 ジェイン・オースティン
たまに我が身に襲い来るロスト・セレブ・コンプレックス(英国上流階級懐古趣味)。
今回は『高慢と偏見』に並ぶジェイン・オースティンの名作『分別と多感(Sense and Sensibility)』TVドラマ版DVDを手に取った。
映画版はアン・リー監督『いつか晴れた日に』(1995)を観ている。
緑なす広大な領地に聳え立つ豪壮なカントリーハウス。
壮麗で贅沢にして品ある調度の数々。
馬駆ける貴公子と二頭立て馬車に揺られる貴婦人。
男らしさ、女らしさを際立てるファッショナブルで機能軽視の衣装。
華やかにして陰謀めぐる舞踏会。
マナーとジェンダーの規範の中で揺れ動く男と女の心模様。
のっけから19世紀初期の英国セレブの世界に引きこまれ、寝不足になるも顧みず、3話立て続けに観てしまった。
BBCドラマの素晴らしいところは、本物志向あふれる丁寧なつくり。
そして、原作を尊重しつつも現代的な視点を取り入れて、新鮮さを感じさせるところ。
たとえば、現代先進国のジェンダー感覚あるいはフェミニズム視点からすれば、不平等で抑圧的な社会制度や風習や性役割に満ちている物語において、女性登場人物たちに原作にはないこんなセリフを言わせている。
「今度生まれてくる時は男がいいな。女はいつも座って待っているだけなんだもの」
「女は男のおもちゃでしかないのかしら」 等々
古き良き時代をただ懐かしむだけでなく、そこに潜む矛盾や不合理にも照明を当て批評精神を忘れないアンドリュー・デイヴィスの脚本が素晴らしい。
配役もピッタシ決まっている。
「分別」を象徴する姉エリノア・ダッシュウッドを演じるハティ・モラハンの凛とした美しさ。
「多感」を象徴する妹マリアンヌ・ダッシュウッドを演じるチャリティー・ウェイクフィールドの情熱的な輝き。
「多感」を象徴する妹マリアンヌ・ダッシュウッドを演じるチャリティー・ウェイクフィールドの情熱的な輝き。
本邦の役者で言えば、ちょうど是枝裕和監督『海街diary』における綾瀬はるかと長澤まさみの感じ。
紆余曲折の後、最後は姉妹と結ばれる恋男たちも揃ってカッコイイ。
エリノアと結ばれるエドワード・フェラース役のダン・スティーヴンスは、どこかで見た顔と思ったら、『ダウントン・アビー』で早逝する弁護士マシュー・クローリーではないか。
本作への出演と人気急上昇が、『ダウントン』抜擢のきっかけになったのかもしれない。
まったく、少女漫画の理想男子のような超イケメンぶり。
一方、マリアンヌと結ばれるブランドン大佐役のデビッド・モリシーは、寡黙で気骨ある軍人タイプの男に扮して、高倉健のような渋さ。
マールボロ・ハットがよく似合っている。
その上、たいへんな資産家と来た日には、18歳の年の差なんて「へ」でもなかろう。
豪邸+イケメン+シンデレラストーリー。
この黄金ルールは、フェミニズム意識の高い現代英国女性たちの琴線すら、じゃんじゃん掻き鳴らして止まないのだろう。
ソルティの琴線も鳴った。
ロスト・セレブ・コンプレックスの一番の効用は、現実逃避にある。
核使用目前のロシア×ウクライナ情勢、ミャンマー内乱、北朝鮮のミサイル発射、イランの保守勢力バックラッシュ、気候変動とあいつぐ自然災害、劣化する一方の日本の政治と経済と民主主義。
国内外のあまりの出鱈目ぶりは、まともに向き合うと鬱になるか狂気に陥りそう。
意識的に現実逃避して、精神バランスを保つ必要がある。
逃避しっぱなしもマズいけれど・・・。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損