1988年活人堂シネマ
109分
脚本 松本俊夫、大和屋竺
原作 夢野久作

 『薔薇の葬列』が良かったので、同じ松本俊夫監督の作品を追ってみた。
 初見かと思ったら、(おそらくリアルタイムで)観ていたことに途中で気づいた。
 印象に残らなかったようだ。

 そもそも三大奇書ミステリーの一つと呼ばれる夢野久作の原作を、ソルティは学生時代に読んだのだが、面白くなかった。
 この小説は、メタ・フィクション風の構成の難解さとか虚実入り混じりとか衒学的嗜好といった特徴が語られ、それらが精神病を患う主人公の症状であり妄想の産物のようにもとれる複雑さ。
 全般、わけがわからない。
 ただ、わけが分からなくとも、耽美的であったり背徳的であったりエロチックであったりして、作者の詩的変態性をうかがわせるものがあれば、読む楽しみも価値もある。
 一読して感じたのは、「正常な精神を持ちすぐれて頭の良いノーマルな人が、頑張ってアブノーマルな世界を作り出そうとしている」といった作為的な感じであった。
 詩的なものが足りないと思った。
 (その意味では、同じく三大奇書ミステリに上がっている中井英夫の『虚無への供物』にひけをとっている)

 難解な作品をそれなりのレベルで映像化した松本監督の労力と手腕は称賛に値すると思うけれど、やはり面白くはない。
 映像表現自体にも、原作を尊重しようという精神からであろうか、『薔薇の葬列』ほどの冒険や鮮烈は見られない。

 落語家の桂枝雀がアクの強い博士役を好演している。
 この人を抜擢したのは慧眼。
 主役の青年を演じる松田洋治は、当時から演技力では評判高かった。
 たしかに上手なのだが、当人のウエットな資質が本作の“反ドラマ性”とは合っていない気がする。
 同じ松田なら、松田龍平のほうがはまったのではないか。
 (むろん、当時龍平はまだ5歳だったのでキャスティングのしようがないが。そう言えば、松田洋治は龍平の父親である優作と『家族ゲーム』で共演していた)
   
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おすすめ度 :★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損