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日時 2022年11月6日(日)14:00~
会場 ミューザ川崎 シンフォニーホール
曲目 マーラー:交響曲第3番 ニ短調
指揮 寺岡 清高
メゾソプラノ 中島 郁子
合唱 東京アカデミッシェカペレ
児童合唱 すみだ少年少女合唱団

 前の晩は12時前に床に就いて、たっぷり8時間は寝た。
 9時に朝ごはんを食べて、昼飯は抜いた。
 開演2時間前に最後の水分を取って、開演30分前にトイレを済ませた。
 指定予約した席は1階席の一番前列だった。
 周囲1.5mは空席。
 考えられる限り最高のマーラー第3番を聴く用意が整った。
 これから100分間、待ったなしの一本勝負が始まる。

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ミューザ川崎

 第1楽章が一番の難関。
 長いうえに構成がつかみにくい。
 荒れ狂った波に、右に左に、上に下に、ゆるく激しく、引きずり回される。
 終わったと思ったらまだ続く。
 船酔い寸前!
 最もマーラーらしい、意地悪な楽章と言えなくもない。
 この楽章の狙いは聴衆のぬるま湯的日常を揺さぶり、実存不安に突き落とすことにあるような気さえする。
 寺岡のタクトはきびきびと容赦なく突き進む。

 打って変わって第2楽章は甘ったるさ全開。
 優しいフレグランス満ちるお花畑でしばし夢心地。
 これはもしやケシの花か・・・。

 清新な気が吹き込まれる第3楽章。
 動物たちの躍動と自然讃歌はまるで「ダーウィンが来た!」
 世界は人間なしで完成していた。
 自然も大地も、なんの過不足なく調和していた。
 そこに、唐突に現れるポストホルンの響き。
 人類の登場――。
 生物界にどよめきが走る。

 人間界は深い悲しみと憂いに閉ざされている。
 世界は痛みに覆われている。
 果てしない戦争と自然破壊によって滅ぼされた大地と生き物たち。
 人々の孤独と叶えられなかった祈りが、虚空に残響のようにこだまする。
 第4楽章のメゾソプラノの荘厳な歌唱はあたかも被災地に響く鐘の音のよう。

 天使たちが歌っている。
 天使たちがはしゃいでいる。
 苦しみ多い地上から解き放たれた魂は、永遠を目指して、天使に伴われて飛翔する。
 軽やかに、明るく、屈託なく。
 ちょうど、メフィストフェレスの魔の手から逃れたファウストのように。

 そして・・・第6楽章。
 長い長い歳月を経て、大地は再びよみがえる。
 焦土に降り注ぐ最初の雨。
 廃墟を優しく照らす落日の光。
 大地にあまねく満ちる大宇宙の慈悲が、ふたたび生命の誕生を予感している。
 
地球


 第3番をライブで聴くのはこれが2回目なのだが、ソルティはこの曲の肝をつかんだような気がする。
 第3楽章のポストホルンこそ、全曲の転回点であり、前半と後半をつなぐ要である。
 すなわち、自然界への人類の登場。
 なので、このポストホルンはとっても重要。
 個人的には、傲岸なほどの自信をもってしっかりと吹き鳴らしてほしい。
 (マーラーがどういう指示を出しているかは知らないが・・・)
 何か決定的なことが世界に起きたのだ、もう後戻りはできないのだ、と聴衆に知らしめてほしい。
 その衝撃で、ここまででかなり疲れている聴衆の耳を覚醒させ、集中力を今一度呼び戻し、ドラマチックな後半部に備えさせてほしい。
 声楽が入る第4楽章からは一気呵成に進んでほしい。
 
 第6楽章は、これまで頑張って聴き続けてきたことへのご褒美みたいな感すらある。
 長い紆余曲折があったからこその歓び。
 心も身体もすべて音楽に預けて、喜ばしき降伏の中で感涙に咽ぶのだ。

金山出石寺夕焼け


 マーラー交響曲第3番を、音響のすぐれた立派なホールで、それなりのレベルのオケの生演奏で、庶民価格(1500円)で聴けるという歓びは、なにものにも代えがたい。
 平和と安全と文化的豊かさとが揃わなければ実現しない奇跡である。
 いまの日本に生まれて良かったとつくづく感じる。
 そして、この贅沢な日常ができる限り続くことを祈らざるを得ないし、クラシックを愛する者なら、やはり平和のために何かしなければならないと思うのである。

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終演後、川崎駅前の家系ラーメンでお腹も満たされた
平和ってやっぱり美味しい