2022年光文社新書

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 副題は「最先端量子科学が示す新たな仮説」

 本書を読みながら、仙台に住んでいた30代の頃に出会ったディープエコロジーや精神世界関連のさまざまな本や人や言説のことを思い出した。90年代のことである。
 仙台の街中に、自然食品店&出版社『ぐりん・ぴいす&カタツムリ社』という店があった。
 経営者の加藤哲夫氏は、反原発運動やディープエコロジーの日本への紹介やHIV感染者の支援活動など、平和・環境・人権・食・市民活動・精神世界など幅広いヴィヴィッドなテーマを追究し、現場主義で実践行動していた人で、後年日本におけるNPO普及の立役者となった。
 自然、『ぐりん・ぴいす』は精神世界や市民活動(当時は「ボランティア活動」という呼称が一般だった)の情報の集積地&発信地となり、さまざまな分野の面白い人々が出入りする広場となった。
 ここにソルティも出入りするようになって、加藤哲夫氏の薫陶を受けながらいつのまにか市民活動にのめり込むようになったが、それと同時に、バブル真っ盛りの東京の20代会社員生活では触れたことのない新しい概念や思想と出会って、世界の見方が一変した。
 それが、ディープエコロジーであり精神世界であった。
 当時、周辺に飛びかっていた固有名詞やフレーズを思いつくままに上げると、

上田紀行『覚醒のネットワーク』、映画『ガイア・シンフォニー』、レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』、自然農、自然療法、マインドフルネス、個人と世界は繋がっている、心と体は繋がっている、思いは現実化する、百匹目の猿、ボディーワーク、聖なる予言、山川紘矢&亜希子、金子みすず、トランスパーソナル心理学、P・ドラッカー、ワークショップ、マヤの預言、アクエリアス革命、バシャール、NPO、ティク・ナット・ハン・・・e.t.c.
 
 三十過ぎのフリーターで、こういったものに進んで染まっていった自分を、ずいぶんと“怪しい”人間になってしまったと思った。
 「堅気=スーツを着たビジネスマン」という固定観念がまだまだ世間的にも個人的にも強かったし、ほとんどのビジネスマンは精神世界にも市民活動にも見向きもしなかった。(例外は経営コンサルタントでオカルティストであった船井幸雄の周辺くらい)
 
 田坂広志は1951年生まれ。東京大学工学部卒業、原子力工学博士。
 立派な肩書が並ぶプロフィールからは具体的にどういう仕事をしてきたのか良く分からないが、本人曰く、「科学者と研究者の道を歩んできた」理系の人。
 「21世紀の変革リーダー」を育成する田坂塾を経営しているというから、船井総合研究所を主宰していた船井幸雄と近いものを感じる。
 巻末には他の著作を紹介するページがあって、その膨大な量と広いテーマに驚かされる。
 PHP研究所はもちろん、東洋経済社、ダイヤモンド社、日本実業出版など、ビジネス書出版の王道を総なめしている。
 
 本書は、科学者である著者が、上に挙げたような90年代流行ったディープエコロジー&精神世界言説に、量子論や宇宙物理学といった最先端の科学による根拠を与えて、スピリチュアルを「非科学的」「いかがわしくて危ない」と言って敬遠する層(たとえば堅気のビジネスマン)にも受け入れやすくしたもの、という印象を受けた。
 それが著者が目指すところの「宗教と科学の架け橋」の意なのだろう。
  
 筆者は、あくまでも、「科学的・合理的な思考」によって、
  • なぜ、我々の人生において、「不思議な出来事」が起こるのか
  • なぜ、世の中には、「死後の世界」を想起させる現象が存在するのか
  • もし、「死後の世界」というものがあるならば、それは、どのようなものか
を解き明かしたいと考えた。そして、永遠の探究と思索の結果、たどりついたのが、最先端量子科学が提示する、この「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」である。

 「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」とは、この宇宙に普遍的に存在する「量子真空」の中に「ゼロ・ポイント・フィールド」と呼ばれる場があり、この場に、この宇宙のすべての出来事のすべての情報が、「波動情報」として「ホログラム原理」で「記録」されているという仮説なのである。 

 このゼロ・ポイント・フィールドには時間が存在しないので、我々の世界における「過去・現在・未来」のすべての情報が存在し、それは永遠に消滅しないという。
 祈りや瞑想によって心の技法を高めることによって、あるいは突発的な精神的な危機にあって、人は自我に覆われた通常意識を脱し、高次の意識の段階を通過し、ゼロ・ポイント・フィールドにある情報に触れることができる。
 予知や予感や占いやデ・ジャヴューやシンクロニシティや輪廻転生などの不思議な現象は、これで説明することができる。
 また、ゼロ・ポイント・フィールドは、善悪・真偽・美醜・愛憎・好悪・幸不幸・・・といった二項対立を超えた「すべては一つ」という超自我意識すなわち「愛」しか存在しない領域なのだという。
 つまり、それが宇宙意識であり、古来より人々が「神」や「仏」や「天」と呼びならわしてきたものの正体なのだという。

 我々の意識は、「現実世界」の「現実自己」が死を迎えた後、このゼロ・ポイント・フィールド内の「深層自己」に中心を移すのである。そして、フィールド内にすでに存在する様々な情報、フィールドに新たに記録される様々な情報と相互作用を続け、変化を続けていくのである。
 すなわち、死は存在しない。

光の波動
 
 新書なれど活字が大きくて改行も多い。
 科学素人にもわかりやすい砕いた説明をしていいるので、3~4時間あれば読み終えることができる。
 滅多に新刊本を買わないソルティが、駅の本屋で本書を見たとたん、「これは読まなきゃ!」と思って購入した。
 ゼロ・ポイント・フィールドはいったい何を企んでいるのだろう?
 
P.S. 別記事で書いたばかりのアーサー・C・クラークの有名なSF『幼年期の終わり』が、最後に登場したのにシンクロを感じた。




おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損