2021年スタジオ地図
121分

 細田守監督の『時をかける少女』(2006)、『サマーウォーズ』(2009)はとても良かった。
 とくに後者!
 サイバー空間のカラフルで緻密で魔術的な映像と、平和で美しい信州の日常風景との対照が面白かった。
 IT時代の脅威といった現代的テーマも興味深く、監督の才能に感嘆した。

 本作もまた、IT時代ならではの数々の現象が描かれている。
 匿名による中傷やいじめ、デマの瞬時の拡散、現実生活における鬱憤やコンプレックスを覆い隠し反転させるネット上の「もう一人の自分」いわゆるアバター、国や民族や人種を超えた情報共有とつながり、驚異的な再生回数が示す超短時間でのネットスターの誕生、そしてネット外の現実生活の希薄化・・・・。
 まさに今の時代にふさわしい素材だなあと思う。

 一方、物語的には「普段はさえない少年/少女が不思議な力を身につけて、ヒーロー/ヒロインに変身して大活躍。大切なものを守るために闘う」という、少年/少女漫画に類型的なパターン。
 ただ、「大活躍」する場所が主人公が生きる現実世界でも宇宙空間でもタイムワープした過去や未来でもなく、サイバー空間であるところがミソであり、「変身」とはすなわちネット上のアバターになること、である。
 そのうえ、本作はディズニーアニメにもなったシャルル・ベローの童話『美女と野獣』のパロディでもある。
 IT全盛で現実世界より“リアルな”サイバー空間の登場という環境の変化はあれど、人々が希求する物語の質は変わらない。
 
 気になったのは、『サマーウォーズ』では、主人公らが生きる現実の信州の田舎の日常が、サイバー空間の非日常より生き生きと描写され「サイバー空間=虚妄」という視点が強かったのだが、本作ではなんだか「現実の日常生活=虚妄」のような逆転現象が感じられるところ。
 登場人物たちのリアリティはサイバー空間のほうにあるみたいで、現実の日常生活における存在感や生命力や説得力が乏しいのである。

 たしかに、列車内で一心にスマホを覗き込んでいる人々をみるにつけ、「いまや、人々のリアルは、窓外を流れる景色や目の前に立っている妊婦さんではなく、スマホの中にあるんだなあ」と、たまに嘆息するソルティである。
 また、サイバー空間における匿名の“開かれた”関係のほうが、現実世界における見栄や同調圧力で歪められた“偽り”の関係よりリアル(本当)である――という現実はある。
 ハンドルネームやアバターこそが「本当の自分」と思っている人も少なくないだろう。
 サイバー空間と現実世界の“リアル”の反転は、十分に現代的テーマとなり得るものである。

スマホと脳
 
 が、本作の場合、そこまで意図的とは思えない。
 本作の現実世界におけるリアリティの欠如は、単純に脚本の不備のためだろう。
 たとえば、主人公少女と父親との他人行儀な関係とか、家庭内暴力を振るう男のもとに少女が単身乗り込むとか、それを父親を含む大人たちが誰も止めようとも一緒に行こうともしないとか、ちょっと非常識な設定が目立つ。(この父親の態度こそ、放置という名の児童虐待だろうに・・・)
 サイバー空間の「ありえない」はあり得るが、現実世界での「ありえない」は物語を根幹から揺るがしてしまう。
 映像については「凄い!」の一言に尽きる。

 主人公少女の声と歌を担当したのは歌手の中村佳穂。
 この人をはじめて知ったが、耳に残る歌唱である。
 ほかに声優として、森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、役所広司、石黒賢、佐藤健らが出演している。
 せっかくの豪華キャスト。森山や坂本や岩崎にもっと歌わせてほしかった。






おすすめ度 :★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損