1995年原著刊行
1996年早川書房より邦訳(山本やよい訳)
2000年文庫化

バースへの帰還


 ピーター・ラヴゼイ(1936- )は英国のミステリー作家。
 1982年発表の傑作『偽のデュー警部』で一躍、世界中のミステリーファンにその名を知らしめた。
 本作はラヴゼイが創造した名探偵ピーター・ダイヤモンドが活躍する、シリーズ3作目である。
 沖縄への旅のお供にせんと、ブックオフで購入した。
 昔読んだような気もするが、カバー裏のあらすじを読んでもピンと来ないし、読み始めてみても先の展開が見えない。
 読んだとしても、いい具合に忘れている。

 ITやら最先端の科学捜査法やらは出てこない牧歌的な時代(ウインドウズ95以前)で、コンピュータ音痴・科学音痴のソルティにしてみれば、気楽に読めるのが最大の長所。
 空港での待ち時間や狭苦しい機内、宿で寝入る前のひとときにちょうど良かった。
 
 終盤に来て、「あっ、これは読んだ」と真犯人の正体がその動機とともに記憶から浮かび上がった。
 その通りだった。 
 どうせなら完全に忘れてしまって、意外な犯人にビックリしたかった。
 まったく、いいところで思い出すんだから!
 記憶力だけはどうにも制御できない。
 
 気になったのは、内容よりむしろ解説。
 本邦のミステリー作家の二階堂黎人が、本作を「現代本格ミステリーの最高峰に位置する傑作」と評している。(帯にも書かれている)
 本作は駄作でも凡作でもないけれど、ちょっと持ち上げすぎ。
 あっと驚く奇想天外なトリックがあるわけでなし、名探偵の快刀乱麻の鋭い推理があるわけでもなし、サスペンスやホラーにとくだん秀でているわけでもない。
 ソルティが記憶していなかったのがなによりの証拠だ。
 二階堂氏、早川書房に忖度したのか?
 
 それを思うと、アガサ・クリスティのミステリーは、読後40年経つ今でも真犯人を記憶しているものが多い。
 『アクロイド殺し』『オリエント急行殺人事件』『そして誰もいなくなった』『予告殺人』『ABC殺人事件』『ナイルに死す』『ゼロ時間へ』『葬儀を終えて』『ねずみとり』『カーテン』などは、犯人やトリックや筋書きを忘れたくても決して忘れることができない。
 同じ高校時代にはまったエラリー・クイーンの国名シリーズなどは、筋書きも犯人もトリックもまったく覚えていないというのに・・・・。 
 クリスティの筆力の凄さをつくづく思う。





おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損