1999年TBS系列放映
94分
原作 横溝正史
演出 原田眞治
横溝正史の原作はほとんど覚えていないが、岩下志麻が演じた二重人格「神聖なる巴御寮人=男狂いのふぶき」の凛とした美しさ、しとやかさ、母性、奔放さ、淫らさ、狂気が入り混じった着物姿のショットの数々を忘れることができない。
ある意味、横溝正史の原作を岩下志麻の怪演が凌駕してしまった作品である。
その巴御寮人をやはり着物のよく似合う山本陽子が演じているというので、借りてみた。
山本陽子もまた志麻サマ同様、気の強い役や異常性格な役のはまる女優というイメージが強い。
ソルティの中では、松本清張『黒革の手帳』(1982年テレビ朝日)の男を手玉に取る銀座クラブのママ、『凄絶! 嫁姑戦争 羅刹の家』(1998年テレビ朝日)の姑いびりの嫁にして嫁いびりの姑、それに映画『デンデラ』(2011年東映)の姨捨山で逞しく生きる老婆の(素顔をさらした)演技が忘れ難い。
さらに、フィクションを離れた実生活においても、山本陽子はスキャンダラスな女優であった。
田宮二郎、沖田浩之、恋愛関係が噂された2人の男がそろって自殺するという悲劇は、逆に山本陽子に「魔性の女」という勲章をもたらした。
聖なる美しさと男を破滅させる魔――『悪霊島』のヒロインを演じるにふさわしい。
――と期待して観たのだが、残念ながらこれはあまりにひどい出来であった。
1977年に『犬神家の一族』という傑作でスタートを切った古谷一行=金田一耕助シリーズも、22年という歳月の間にどんどん質が落ちていったのだなあ、と再確認する思いがした。
1977年に『犬神家の一族』という傑作でスタートを切った古谷一行=金田一耕助シリーズも、22年という歳月の間にどんどん質が落ちていったのだなあ、と再確認する思いがした。
本作は2時間ドラマスペシャル『名探偵・金田一耕助シリーズ』として制作されたのだが、片平なぎさが主演しラストは崖の上で終わるような他の2時間サスペンスドラマとなんら変わり映えしない陳腐なミステリーに終始している。
横溝正史の愛読者でこれを受け入れられる者が果たしているだろうか?
シリーズ開始当初、30代前半だった古谷一行もいまや50代半ば。
飄々として愛嬌ある風来坊の青年でいることはもはや難しく、金八先生のような説教癖のある疲れた中年オヤジに様変わりしている。
山本陽子の美貌も最盛期は過ぎているため、映画における岩下志麻ほどの磁力は発揮されない。
だが、まあそこは多言を弄しまい。(昨今はルッキズムの誹りを受けることなく映像表現を語るのが難しい)
この作品の致命的な欠陥は脚本にある。
横溝の原作とかなり離れているのは、時代の変化やテレビ放映という性質上、致し方ない部分はある。
たとえば、原作や角川映画にあるシャム双生児の描写などは、人権の観点からいまやそのまま放映するのは難しかろう。
だが、問題はそこにはない。
一貫しない登場人物のキャラ設定、人間の感情や心理を無視した筋書きありきの強引な展開、ご都合主義、説明ゼリフの多さ、犯行動機や犯行手段の説得力の無さにはあきれかえるばかり。
結局、なぜ「鵺のなく夜に気をつけろ」なのか、これで理解できた視聴者がいるとは思えない。
正直、この脚本で演技することを要求された役者たちに同情した。
今週末に最終回を迎えるNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を見ると、脚本の三谷幸喜がいかにセリフに意を砕き、それぞれの役者のために見せ所・演じ所を作っているかが、よく分かる。
それあってこそ役者は一番いい芝居をしようと張り切るし、ドラマは俄然面白くなる。
12/11放送の北条政子(小池栄子)が並みいる御家人を前におこなった有名な演説シーンなど、脚本と演出と芝居が高レベルで溶け合った実に素晴らしいものであった。
脚本は大切だとつくづく思う。
おすすめ度 :★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損