2022年幻冬舎新書
今年一番のベストセラーである。
ソルティも夏頃買い求めて、両親に渡した。
内容も著者のこともよく知らず・・・。
ただ、裏表紙の内容紹介に「(80歳を過ぎたら)嫌なことを我慢せず、好きなことだけすること」とあったので、悪い本ではなかろうと思った。
両親が順に読み終えて(感想は聞いてない)、やっと自分の番が来た。
著者の和田秀樹は、1960年大阪生まれの精神科医。
高齢者専門の精神科医として30年以上の経験を持ち、著書も多い。
テレビ出演などもこなしているようだ。
関係ない話だが、この世代の「秀樹」は1949年にノーベル賞をとった物理学者・湯川秀樹から名前をもらっているのだろうか?
1972年デビューの西城秀樹でないことは確かだ。
和田は、東京世田谷の高齢者医療を専門とする浴風会病院に勤めていたことがあり、本書の内容も和田クリニック院長としての豊富な臨床経験だけでなく、浴風会病院で長年蓄積されてきた高齢医学のデータがもとになっている。(病院の設立は関東大震災がきっかけとのこと)
つまり、科学的エビデンスに則っているということだ。
たとえば、85歳以上の患者の遺体を解剖したら、ほとんどの人に(本人が知らなかった)ガンが見つかった、ほぼ全員の脳にアルツハイマー型認知症のような病変が見つかった、血管には多かれ少なかれ動脈硬化が確認できたとか、糖尿病そのものでなく糖尿病の治療(薬やインシュリン)が認知症を促進するとか、少し太っている人のほうが長生きするとか・・・・。
一般に目指される「手術や薬で治す、患部を取る、数値を良くする」治療方法が、高齢者(和田は「幸齢者」という語を使っている)には必ずしも適切でないことが説かれている。
私が80歳を迎えるような幸齢者にお勧めしたいのは、闘病ではなく「共病」という考え方です。病気と闘うのではなく、病気を受け入れ、共に生きることです。ガン化した細胞を薬で攻撃したり、手術で取り除いたりするのではなく、それを「手なずけながら生きていく」という選択です。
80歳を過ぎた幸齢者は、老化に抗うのではなく、老いを受け入れて生きるほうが幸せではないか、と私は考えています。
このようなポリシーにもとづき、本書では80歳を過ぎた人が残りの人生を自分らしく幸せに生きるためのヒントがたくさん盛り込まれている。
- 食べたいものを食べよう
- 我慢して薬を飲む必要はない
- 血圧・血糖値は下げなくていい
- 運転免許は返納しなくていい
- 嫌な人とはつきあうな
- 肉を食べよう
- 眠れなかったら寝なくていい
- 健康診断は受けなくていい
- タバコ、お酒は止めなくていい
- エロスを否定するな
e.t.c.
だいぶ前に、樹木希林がジョン・エヴァレット・ミレーの絵画『オフィーリア』に扮して川に流されながら、「最後くらい好きにさせてよ」と呟く広告があった。
ソルティは通勤列車内でそれを見て「もっともだ」と頷く一方、医療保険および介護保険という国の制度を利用せざるをえない当事者にとって、あるいは、いろいろと複雑な思いを抱える家族をもつ当事者にとって、それ(=最後くらい好きにする)がどのくらい可能なのか、危ぶんだ。
そして、当時高齢者介護施設で働いていた自身もまた、当事者本人の希望と、制度の縛りや家族の思いとの間で板挟み感を抱えていた。
本書で書かれているようなことが、社会的・世間的に「あたりまえ」になれば、もっと医療・介護現場からギスギス感がなくなると思うし、当事者も大らかに残りの人生を楽しめると思う。

J.E.ミレー作『オフィーリア』
和田秀樹がどんな人か知らずに本書を購入したと書いた。
最後に、人となりを示す一節を引用する。
でも、過去のことを忘れて総合的な判断ができないのは、認知症の人だけではないでしょう。日本人はほぼ全員ができていない。なぜなら、政治家や役人が数々の悪事を働いても、簡単に忘れてしまうわけですから。コロナに関しても、自粛することのメリットとデメリットを考えずに素直に自粛要請に従ってしまう。さらには、30年景気が悪くて実質賃金も減っているのに、それでも自民党に票を入れ続ける。総合的な判断ができていないわけです。
日本にはいま1000兆円の借金があり、福祉のせいで財政が厳しくなったなんて言われ方をしていることにも怒っていい。借金は高齢者が使ったからではありません。政治家が必要以上に地方の公共事業にばらまくからです。それをなんとなく、福祉という聞こえのいい言葉で高齢者の責任にすり替えている。介護保険もそうです。この制度ができて、毎月年金から介護保険料を引かれる代わりに、要介護状態になったら介護を受ける権利が与えられた。それなのに特別養護老人ホームの入所待ちが40万人もいるわけです。・・・・・・高齢者も本当は、「特養落ちた日本死ね」と大声を上げていいのだと思います。
ソルティ、「推しの人」である。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損