2006年原著発行
2007年講談社より邦訳刊行
2014年講談社文庫

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 ダスティン・ホフマンが『レインマン』で演じたレイモンド・バビットと同じサヴァン症候群の青年の自叙伝である。
 1979年ロンドン生まれのダニエルは、現在43歳。
 本書では生まれてから26歳までのことが書かれている。

 サヴァン症候群は「非凡な才能と脳の発達障害をあわせ持つ人々」のことを言い、記憶、計算、芸術などの領域において超人的な才能を発揮する。
 ダニエルは円周率2万桁以上を暗唱し、10カ国語を操り(アイスランド語を習得するのに一週間しかかからなかった)、難しい計算を秒速で回答し、×年×月×日が何曜日になるか即座に言い当てることができる。
 また、数字に色や感情、動きを感じる共感覚者でもある。
 紛れもない天才なのだが、一方、アスペルガー症候群という障害も抱えており、

    1.  人の心の動きや社会的な約束事がよくわからないため、他人とのコミュニケーションが難しく、集団において期待される適切な行動がとれない。
    2.  同一の事物にこだわりが強く、新しい事柄や環境をなかなか受け入れられない。

という特徴を持つ。

 本書には、周囲の人間とあまりに違うがゆえに、両親も本人も幼少時から非常に苦労してきたことがありのまま書かれている。
 とくに、ダニエルの両親の忍耐強さ、愛情深さ、度量の広さには感心するほかない。
 この両親がいたからこそ、ダニエルはいじけることも絶望することも閉じこもることもなく、自らを受け入れ、周囲に心を開き、友人や恋人を作り、海外での仕事やテレビ出演などさまざまな挑戦を自らに課し、社会参加できたのだろう。
 ある意味、この本の主役はダニエルではなくて、彼の両親という気がするほどだ。

 それを示す象徴的なエピソードの一つが、ダニエルが自分がゲイであることに気づき、両親にカミングアウトするシーンである。(ゲイというセクシュアリティと、サヴァン症候群あるいはアスペルガー症候群といった自閉症に、なんらかの相関があるかは不明)

 ふたりにきちんと話を聞いてもらいたくて、ぼくはテレビのところに行って電源を切った。父は不満そうに口を開きかけたが、母はぼくを見つめてぼくが話しだすのを待った。口を開くと自分の声――小さなしゃがれ声――が聞こえた。その声はぼくはゲイで、とても好きになった人と会うつもりでいる、と告げていた。両親はしばらく口をきかず、ぼくを見つめるばかりだった。ようやく母が、それはまったく問題ではないし、あなたに幸せになってほしいと思っている、と言った。父の反応も肯定的で、きみが愛し愛される相手と出会えることを願っている、と言った。

 障害があったりLGBTであったり、あるいは多くの人と違った特質を持っていたりすること自体は副次的な問題に過ぎず、大切なのはそうした違いを否定せずにありのままに受け入れ、見守り、本人のストレングス(強み、長所、特技)を引き出してくれる周囲のあり方なのだ、と本書は教えてくれる。
 そのようにしてダニエルのような天才が彼なりに健やかに育ち、ストレングスをもって社会貢献してくれるとしたら、それは人類社会にとって大きな利益にもなる。
 人と違っていることは、新しい何かを生み出せる潜在力を有しているってことなのだ。

 ソルティはサンドイッチマン&芦田愛菜司会のTV朝日『博士ちゃん』が好きでよく観るのだが、出演する博士ちゃん――大人顔負けのこだわりの趣味・特技をもつ、クラスでは浮きがちな小・中学生――を観ていると、「日本の未来も明るい」と思うのである。


博士ちゃん




おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損