2005年小学館
併録『億万ぼっち』
伊藤潤二には一時ハマった。
出世作『富江』はじめ短編集をずいぶん読み、江戸川乱歩に通じるような不気味で変態チックなアイデアと、草間彌生に通じるようなゲテモノ趣味で精密な画風に惹かれた。
どんないかがわしい風体の人だろうと思っていたが、実物の写真を見ると普通の常識的なサラリーマンみたいな感じで拍子抜けした。(いや、昨今、普通の常識的なサラリーマンこそがよっぽど変態チックなのかもしれないが)
日常生活に潜む恐怖を切り取ったアイデア勝負の短編が得意な人と思っていたので、本作のようなある程度の長さのストーリー仕立ての、しかもSF作品があるとは知らなかった。
古本屋で見つけた。
別宇宙からやって来た謎の新惑星レミナが地球に迫ってくる。冥王星が、海王星が、土星が、火星が、月が、カメレオンのような舌でペロリと飲み込まれていく。地球消滅寸前のパニックの中、狂気に落ちた群衆は、惑星と同じ名前を持つ美少女レミナを生贄にしようと狩りを始める。
あいかわらず、不気味で変態チックでゲテモノ趣味で精密であった。
惑星レミナの描写はまさに地獄そのもの。
こういったものに惹かれる感性というのは、たとえば爪楊枝で歯カスをとるのに熱中したり、わざわざカサブタをはがして出血させたり、歩道の通気口の四角い穴に煙草の吸殻を押し込んだり、博物館のミイラに行列したりするのと通じるようなものを感じる。
多くの子供がウンチが好きなように、人の原初的な部分に存在する志向なのかもしれない。
でなければ、伊藤潤二の人気を説明できまい。
読んでいて、子供の頃にテレビで観た『妖星ゴラス』(1962東宝)を思い出した。
ゴラスと名付けられた天体が地球に衝突するのを回避するため、世界一丸となって人智を尽くし、地球の軌道を変えるという話であった。
兄と一緒に、ドキドキしながら固唾をのんで観たのを覚えている。
併録作『億万ぼっち』は、奇抜なアイデアで驚かす伊藤潤二ならではの奇編。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損