1976年東映
96分

 チャカが出てくるヤクザ映画は好きじゃないが、日本返還後の沖縄が舞台というので、当時の風俗や街の匂いが伺えたらと思い、借りてみた。

沖縄やくざ戦争DVD

 戦後沖縄のヤクザ抗争は、スターこと又吉世喜を親分とする那覇派と、ミンタミーこと新城喜史を親分とするコザ派の対立から始まったとされる。
 このあたりの模様は、真藤順丈著『宝島』に実名のままに描かれている。
 1972年の返還を前に、本土最大組織である山口組が沖縄を配下に収めようと乗り込んできた。
 これをきっかけに、那覇派とコザ派(やんばる派と改名)は大同団結した。
「ヤマトンチュウに沖縄を奪われてたまるものか!」というわけだ。
 いったん状況は落ち着いたかに見えたが、そこは抑えの効かない狂犬の集まり。
 やんばる派で起きた内部抗争が引き金となって、那覇派、山口組も入り混じえた全島を揺るがす壮絶な闘いが勃発する。

 本作は、このやんばる派の内部抗争を描いた実録風ドラマである。
 もちろん、冒頭クレジットではフィクションと銘打ってあり、登場人物に実名は使われていない。
 が、ヤンバル派⇒国頭派、新城喜史⇒国頭正剛(千葉真一)、又吉世喜⇒翁長信康(成田三樹夫)、山口組⇒旭会、と変換されていることは、ちょっと調べれば分かる。
 本作の主役である中里英雄のモデルは、新城喜史とは兄弟分でありながら、内輪もめからやんばる派を脱会することになり、その後、組織から追われることになった上原勇吉という実在した男。
 演じるは松方弘樹である。

 どこまでが事実でどこからが創作か、誰が実在した人物で誰が創作上のキャラクターか、いちいち調べる気はないけれど、全編に溢れかえる暴力と残虐と怒りと愚かさだけは、現実にあったものと変わらないだろう。
 中里の子分の一人が、国頭組に拉致監禁されたうえ、ペンチで陰茎を捩じ切られるシーンが出てくる。
 見ていて思わず腰を引いてしまった。(これは実際にあったことらしい)
 こういった映画を観ていると、ある種の男にとって、暴力とは問題を解決する手段ではなくて、目的そのものなのだとつくづく感じる。
 暴力のための暴力。
 実に阿修羅とはこういう存在を言う。

阿修羅
 
 国頭正剛を演じる千葉真一が、異次元の怪演をみせている。
 酒場で一般人相手に暴れまくったり、上半身裸になって沖縄民謡に合わせて空手の型を見せたり、猿のようにテーブルに飛び乗ったり、人間離れした無頼ぶりが精彩を放っている。
 この千葉真一の演技は一見の価値がある。
 
 ほかに、ぴちぴちジーンズ姿が若々しい渡瀬恒彦や、あいかわらず悲惨な役柄の尾藤イサオ、旭会(=山口組)幹部役の梅宮辰夫、国頭組の冷酷にしてニヒルな参謀石川役の地井武男など、東映スター大集結といった豪華さが感じられる。

 残念ながら、ある事情があって、本作は沖縄ロケを敢行できず、ほぼ全編京都撮影となったそうだ。(ウィキ「沖縄やくざ戦争」より)
 返還直後のリアルな沖縄の風景は見られなかった。

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松方弘樹と千葉真一、手前は地井武男




おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損