2024年アメリカ、イギリス
120分
野心まみれのカトリック狸オヤジたちのドロドロした権力争いが、コンクラーヴェという古臭いしきたりのうちに描かれているのだろう――という先入観からスルーしていた。
ずいぶん評判が高いのでレンタルしたところ、予想を超える出来栄えで、びっくり仰天。
たしかに野心深い狸オヤジの権力争いが主要プロットに組まれているのだが、むしろ、現在の世界情勢とリンクする部分が多く、我々が日々SNS上で見るような身近な現象と重ねられるため、ぐんぐん話に引き込まれていく。
途中涙する場面も。
ラストには予想を超えたどんでん返しがあり、並みのサスペンス映画以上の衝撃があった。
脚本が天才的。
『国宝』と並ぶ本年度1位である。(いまのところ)
原題の Conclave コンクラーヴェとはラテン語で「鍵のかかった」の意。
カトリック教会の最高指導者たるローマ教皇を、世界各国からバチカンに集められた枢機卿たちが、投票で選出する制度のことである。
新しい教皇が決定するまで、枢機卿たちはシスティーナ礼拝堂内に閉じ込められ一歩も外に出られなかったところから、この名称が生まれた。(現在は、選挙期間中は外部と一切連絡しない規定のもと、バチカン内の決められた区域を移動することができる)
本作の最初のシーンは教皇の死。
ラストシーンは新しい教皇の誕生。
ラストシーンは新しい教皇の誕生。
主人公はコンクラーヴェを取り仕切るローマ教皇庁首席枢機卿。
まさに、コンクラーヴェの一部始終を内側から描いた宗教ドラマかつ政治ドラマなのである。
“現在の世界情勢とリンク”というのは、世界各国で起こっている政治思想の二極化――右v.s.左、保守v.s.リベラル(革新)の対立が描かれているからである。
排外主義のナショナリズムで、多様性や人権に後ろ向きで、武力重視の保守派。
個人の自由や平等に重きを置き、マイノリティの権利を尊重し、お花畑に住むリベラル。
資本主義or共産主義、民主主義or独裁体制という政治体制の違いを越えて、現在、世界を分割しているのはこの保守v.s.リベラルの思想対立であろう。
たとえば、日本と中国という国家間の違いよりも、日本&中国の保守派と、日本&中国のリベラル派との、国籍を超えた「保守v.s.リベラル」の思想間の違いのほうが大きいのではないかと思う。
いま、日本と中国の関係はここ数年でもっとも悪化しているが、ソルティは高市早苗と習近平(ついでにドナルド・トランプ)はよく似ていると思う。
人間を10個の類型で分けたときに、この3人は同じグループに入るであろう。
保守v.s.リベラルとは、単純にいえば、童話の『北風と太陽』である。
この傾向は、バチカンに集められたカトリック枢機卿においても同様で、カトリック教会の今後の行く末を決める教皇選挙に際して、保守派の枢機卿とリベラル派の枢機卿との対立が鮮明化する。
考えてみれば、同じカトリック枢機卿であっても、人種も国籍も言語も政治思想も人生経験もいろいろである。
同じなのは、神やキリストに対する信仰と“性別”のみ。
世界各地から来た100人を超える一団は、まさに世界の縮図たりうるのである。
本作の肝は、教皇選挙を通して描かれる現代世界の様相である。
何度目かの投票中にイスラム過激派によるテロがローマや他の都市で起こる。
システィーナ礼拝堂も被害を受ける。
多数の死傷者が出たことが枢機卿たちに伝えられる。
次期教皇の有力候補である保守派の枢機卿は、ほかのメンバーの前で憤懣を爆発させる。
これが相対主義の教義がもたらした結果だ。リベラルな諸兄が愛する相対主義は、すべての信仰と気まぐれな発想を同等に重んじる。祖国にイスラム教を入れても、向うは我々を締め出す。我々は祖国で彼らを養い、絶滅させられる。
いつまでこの弱さに甘んじる?彼らはその壁まで来ている。
今求められる指導者は、宗教戦争が目前だと分かっている者だ。我々が求めるのは、あのケダモノと戦う者だ!
いくつかの固有名詞を入れ替えたら、現在、日本のテレビや週刊誌やネットであふれている保守派の言説そのままではないか!
隣人愛や寛容を説くべきキリスト教会の最高指導者候補が、上記のようなセリフを大っぴらに口にする。
ここバチカンで起きていることは、世界で起きていること、日本で起きていることである。
(念のため、本作はロバート・ハリス原作のフィクションです。現実のバチカンや枢機卿たちがこの映画の通りだとは限りません)
上記の保守派枢機卿の発言に対して、人々を納得させる反論のできる者がいるのか?
他民族、他宗教による祖国への侵犯や文化破壊、強大な武器を持った独裁国家の脅威、テロリズムによる無差別殺戮・・・・こうした危険から身を守るのに、多様性理解や人権がいったいなんの役に立つ?
そもそも多様性も人権も分からない相手に、どう対応しろと言うのか?
甘い顔を見せれば蹂躙されるがオチ。
文化や伝統や社会を守るためには戦わなければならない。
“太陽作戦”など、文字通り、お伽噺の世界に過ぎない。
では、信仰との齟齬はどうする?
答えが簡単には見つからない世界で、どの道を選ぶのがキリスト者としてふさわしいのか。
枢機卿たちが最後にどういう選択をし、どの候補を教皇に選出したのか、今の世界情勢を憂うすべての人に目撃してほしい。
驚くべきラストについては、秘しておこう。
教皇選挙を取り仕切る首席枢機卿を演じるレイフ・ファインズが素晴らしい。『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモート役で有名だが、本作も十分彼の代表作たりうる。
『ブルーベルベット』(1986)でデビューしたイザベラ・ロッセリーニが、修道女役で出ているのも見どころ。出番は多くないのにその貫禄たるや! 日本で言えば、山田五十鈴のごとき。
映像も凝っていて、あらゆるショットがルネッサンス絵画のように美しい。
実際のバチカン内で撮影したのではないと思うが、教会建築や聖具の美しさ、枢機卿たちの衣装のゴージャスにも目を奪われる。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損


























