2022年日本
91分
高橋伴明監督の一般映画は、道元の生涯を描いた『禅 ZEN』くらいしか観ていない。
ピンク映画出身なので、そっちのほうは何本か観ているかもしれない。
連合赤軍事件を描いた『光の雨』(2001)や『BOX 袴田事件 命とは』(2010)など、いくつか気になる作品がある。
おいおい観ていきたい。
1949年生まれの団塊世代、学生運動で早大を除籍されたというプロフィールから分かるように、きほん「左の人」なのだろう。
本作でも、成田空港建設をめぐって起きた三里塚闘争のかつての闘士(演・柄本明)が登場し、主人公女性に爆弾づくりを教えるシーンがある。
いまや公園のホームレスであるかつての闘士は、こう呟く。
「あの闘いをまだ総括できていない」
これは高橋監督自身の心の声なのかもしれない。
本作は2020年11月に渋谷区幡ヶ谷で起きたホームレス女性殺害事件が元ネタになっている。
居酒屋でアルバイトしながら天然石アクセサリーを制作販売している40代の三知子(演・板谷由夏)が主人公。
独り暮らしの三知子は、別れた夫の借金返済など苦しい生活を強いられていた。
そこをコロナが襲う。
そこをコロナが襲う。
店は休業せざるを得なくなり、三知子らアルバイトはクビを切られる。
退職金ももらえなかった。
ほかに雇ってくれるところも見つからず、家賃が払えなくなり、ついにホームレスに。
律儀で人に頼るのが苦手な三知子は、福祉の助けも受けず、スーツケースを引きずりながらゴミ箱を漁り、バス停のベンチで夜を明かす。
ホームレスの世界で、三知子はこれまで会ったことのないような風変りな人々と出会い、これまで耳にしたことのないような人生譚を聞き、目が開かれる。
自らが、知らぬ間に政府の言う「自己責任」の倫理に縛られていたことに気づく。
自らが、知らぬ間に政府の言う「自己責任」の倫理に縛られていたことに気づく。
国への憤りに目覚め、一矢報いようとした矢先、バス停で眠る三知子を一人の男が狙っていた。
三知子役の板谷由夏、および居酒屋のいけすかないマネージャー役の三浦貴大がいい。
三浦貴大はこれまで注目したことなかった。
両親(友和&百恵)の血を受けた天性の役者精神を感じる。
海千山千のホームレスを演じる下元史朗、根岸季衣、柄本明はそれぞれに味があって素晴らしい。
下元と高橋はおそらくピンク映画時代からの同志だろう。
『福田村事件』はじめ、こうした反体制的な作品を選ぶ柄本明の心意気を感じる。
『福田村事件』はじめ、こうした反体制的な作品を選ぶ柄本明の心意気を感じる。
息子の藤原道長こと柄本佑もどこかに出ているらしいのだが、気がつかなかった。
いまもコロナは地道に流行っており、コロナ感染がきっかけで亡くなる人も少なくない。
また、コロナ後遺症の実態が次第に明らかになってきて、裁判になるなど社会問題化している。
コロナは終わっていない。
とはいえ、緊急事態宣言の折りにあったさまざまな負の社会現象――たとえば、各地で起きたパニック、感染者やその家族への差別、デマゴギーによる風評被害、大量解雇、ホームレスの増加、病院や介護施設における人権侵害や地獄シフト、アベノマスクe.t.c.――に関しては、ほうっておけば記憶は薄れていく。
そろそろ総括してもいい頃だろう。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損