1964~1971年『月刊漫画ガロ』連載
1988年小学館叢書1~5巻
「いつか時間があったら読もう」と思っていたボリュームある小説や漫画のうちの一つであった。
間に合ってよかった(何に?)
白土三平と言えば、子供の頃再放送されるたびに観たTVアニメの『サスケ』と『カムイ外伝』、つまり江戸時代の忍法漫画のイメージが強く、本作もまたタイトルからして当然その系列と思っていたのだが、5巻まで読んだところでは、“苛烈な封建社会に対するアジテーション”が中心テーマのようである。
もちろん、非人あらため忍者カムイは主役の一人で、忍術を駆使した剣士や忍者とのスリリングな闘いシーンは出てくるし、忍者社会の厳しい掟(とくに“抜け忍”に対する)も語られている。
そこは上記のテレビアニメと同様のアクション漫画としての面白さがある。(「解説しよう」で始まる忍法の種明かしこそないが・・・)
カムイ以上に目立っているのは、下人(百姓と非人の間の身分で畑をもつことができない)の生まれながらも、才覚と勇気と根性で百姓に這い上がった正助である。
下人仲間はもちろん、非人にも百姓にも(庄屋にまで!)頼りにされ慕われる正助というキャラから目が離せない。
新しい農具(センバコキ別名後家殺し)を開発したり、稲作のかたわら養蚕や綿の栽培を始めたり、自ら読み書きを覚えた後に百姓相手の学習塾を開いたり、現状を改善していこうと骨折る正助。
封建社会の重圧や理不尽に負けず、知恵を尽くし、持てる力を発揮し、あきらめずに仲間と共に闘っていく姿が、時代を超えた共感を呼ぶのであろう。
正助の最大の味方であるスダレこと苔丸。
紀伊国屋文左衛門を思わせる才覚とスケールの大きさをもつ元受刑者の七兵衛。
七兵衛に惹かれて力を貸す抜け忍の赤目。
男同士の友情も読みどころの一つである。
紀伊国屋文左衛門を思わせる才覚とスケールの大きさをもつ元受刑者の七兵衛。
七兵衛に惹かれて力を貸す抜け忍の赤目。
男同士の友情も読みどころの一つである。
ところで、読みながら思い当たったのは、ソルティの中の江戸時代の百姓イメージが『サスケ』と『カムイ外伝』の白土ワールドによって原型を作られ、その後のステレオタイプな時代劇で補強されたってことである。
曰く、重い年貢と日照りや長雨に苦しめられ、悪代官や「切り捨てごめん」の武士に怯え、姥捨てや間引き(嬰児殺し)や娘の身売りが横行し、五人組や村請制度の連帯責任・相互監視によって土地と世間に縛られる。
徹底的にみじめで不自由な人々。
だが、本当にそれだけなのか?
網野善彦著『日本の歴史をよみなおす』を読むと、「百姓」という言葉の定義自体を見直さなければならないことが分かるが、ステレオタイプの農民像も今一度見直してみる必要を感じる。(見直してどうしようというのか?)
『チボー家の人々』を読み終わらないうちに本コミックに取りかかってしまったので、意識の中に20世紀初期の第一次大戦下のヨーロッパと、17世紀日本の地方の一藩と、コロナとウクライナ問題に苦しむ2022年の世界とが、並行して存在している。
第一次大戦にプーチンが出てきたり、江戸時代の農村をジャックが飛行したり、職場の帰り道にカムイの殺気を感じたり、なんだか混乱している。