2008年フジテレビ、東宝
136分
『やっぱり猫が好き』、『振り返れば奴がいる』、『古畑任三郎シリーズ』、『王様のレストラン』などTVドラマの三谷の代表作はフジテレビ系列で制作・放送されてきたし、映画に至っては処女作『ラジオの時間』をのぞくすべての作品がフジテレビ&東宝で制作されている。
民放に関しては、フジテレビ専属の作家というイメージがある。
三谷がどれだけフジテレビの内情や体質に詳しかったかは知るところでないし、本来、プロデューサの質と作品の質とは関係ないと思うのではあるが、ダーティーイメージがついてしまうのはいかんともし難い。
この『ザ・マジックアワー』に高い評価を与えられないのも、ソルティがフジテレビ制作と知りつつ鑑賞したせいなのだろうか?
どうにも判然としない居心地の悪さがある。
三谷の今後については、すでにNHK大河ドラマを3本も書いている巨匠なのだから、なんの心配もなかろう。
フジテレビ以外の民放局での活躍が見られるかもしれない。
もっとも、三谷もまた昭和どっぷり世代なので、その笑いが平成育ちの若い視聴者にどこまで通用するかは別の問題ではあるが・・・。
売れない役者村田大樹(演・佐藤浩市)のもとに、ある日、ギャング映画主演の話が舞い込んできた。それは正体不明の殺し屋「デラ富樫」の役であった。村田のマネージャーである長谷川(演・小日向文世)は、映画を撮るのはこれが初めてという備後登監督(演・妻夫木聡)の話を怪しみ、依頼を断ろうとする。
が、あとのない村田は役者生命をこれに賭けようと決意し、備後の言うまま、ある港街にロケ入りする。実は、備後はその街を牛耳る天塩幸之助(演・西田敏行)の部下の一人でクラブの支配人に過ぎなかった。天塩の女に手を出したことがばれてしまい、命と引き換えに天塩から出された条件が、「5日以内に裏社会で名の知れた殺し屋であるデラ富樫を見つけて、事務所に連れてくること」だったのである。
進退の窮まった備後は、デラ富樫の偽物をつくるという策に打って出た。かくして、映画の撮影だと信じ込んでいる村田は、本物のヤクザの巣に乗り込み、ニセの「デラ富樫」を演じるのであった。
アイデアは抜群に面白い。
虚構の世界である映画が、現実と重なり合い、現実に影響を及ぼし、しまいには現実を変えてしまうという、映画フリークの三谷ならではの発想。
本物の銃を小道具と信じ、ヤクザたちによる本物の銃撃戦を無名の役者たちによる火薬を使った芝居と思い込み、派手な立ち回りをする村田。
その大胆不敵な行動を見て、村田を本物の「デラ富樫」と信じ込む天塩たち。
笑える仕掛けがあちこちに用意され、「コメディの天才」の名に恥じない三谷ワールドが展開される。
いつものように出演者もゴージャス。
村田を演じる佐藤浩市はじめ、妻夫木聡、深津絵里、綾瀬はるか、西田敏行、小日向文世、寺島進、戸田恵子、伊吹吾郎、寺脇康文、谷原章介、中井貴一、鈴木京香、香川照之、天海祐希、唐沢寿明など、フジテレビの力と三谷の人脈を感じる。
中でも、“殺し屋を演じる売れない役者”を演じる佐藤浩市は、コメディアンとしての才能を本作で開花させたが、それは父親の三國連太郎には望めなかった。――少なくとも同年齢において。(ソルティは『釣りバカ日誌』シリーズを観ていないので、晩年の三國のコメディ演技を知らない)
何を演じても役なりの雰囲気を醸し出せる戸田恵子と西田敏行の柔軟性ある演技も見どころ。
作品の評価が微妙なのは、村田の正体がばれたあたりから勢いが失速し、話がつまらなくなるからだ。
これが映画ではない現実であり、虚構が虚構でなく、自分の演技がすべて無駄だったと知った村田は、落胆して街を去ろうとする。
それを引き留めるきっかけとして、三谷は感動エピソードを持ってくる。
一つは街の映画館でスクリーンいっぱいに映し出された村田の姿、もう一つは村田がずっと憧れてきた往年の名優との出会いである。
これがもうベタというか陳腐であり、感動のための感動というお仕着せ感たっぷり、デジャヴュー感満載で、しらけてしまう。
観客のレベルを中高生くらいに設定しているのではないかと邪推したくなる。
“どこかで見たような安っぽい感動”というのが、三谷幸喜作品の特徴である。
それが役者の演技や脚本や演出の巧み(とくにテンポの良さ)とあいまってバランス良く機能すれば傑作になるのだが、いったんバランスが崩れると、あざとさが目につき、ぐだぐだになる。
本作はその意味で、アーティスト三谷幸喜の長所と短所がよくわかる作品と言える。
おすすめ度 :★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損