4月中旬に提出した民俗学のレポートが早、返って来た。
「奈良大学通信教育学部 文学部 文化財歴史学科」の名が表に入っている角2封筒を開ける瞬間、年末ジャンボの当選番号を確かめる時のように、ドキドキする。
自分なりに精一杯がんばって書いたつもりではあるが、「設題意図を誤って理解していたかもしれない」、「オリジナリティが足りなかったもしれない」、「引用が適切でなかったかもしれない」、「誤字脱字が多かったかもしれない」などとマイナス面をいろいろ考えて、「再提出」の可能性を思ってしまうのだ。
封筒を自分の部屋に持ち帰って、心を落ち着けて封を切った。
「合格」だった





これで民俗学も単位修得のための筆記試験にのぞむことができる。
このゴールデンウィークは、前半こそ3日間の奈良旅を満喫したが、後半はほぼ毎日図書館に通い詰めて、民俗学の勉強に明け暮れた。
というのも、テキスト科目は、レポートを提出したら完了というわけにはいかないからだ。
修得試験に出される5つの設題――あらかじめ提示されている――について、試験当日5つの設題のうちからどれが出されてもいいよう、解答を用意して、試験当日までに暗記しておかなければならない。
つまり、テキスト科目の単位を取るためには、3200字(2単位)あるいは6400字(4単位)のレポートを1本と、1000字~1400字くらいのレポート5本を作成しなければならない。
1教科につき都合6本のレポートを作成しなければならないわけで、これがなかなか大変なのである。(2026年4月からは修得試験の出題が10題からの選択になるようだ。戦々恐々

)



ほとんどの教科は、大学から送られてきたテキストとサブテキストをしっかり読んで、それを要約することでレポートを仕上げることができる。
通信教育も大学の講義には違いないので、先生の日常の講義(=テキスト内容)をどこまでちゃんと理解できているかが問われるのである。
そこを勘違いして、生徒がテキスト内容とは異なる自分なりの発想や斬新な説を打ち出したレポートを提出して見事に撃沈――という例が結構多いという話を、昨年、奈良学友会関東支部による学習相談会に参加したときに先輩方から聞いた。
不合格という結果を受け入れ難くて、同じような内容で何度もトライしてそのたび突き返される、あたかも講師と紙面上でバトルしているような生徒さんもいるらしい。
我々は院生でも博士課程でもないただの学部生なので、まずは教科内容の基本的理解が大切なのである。
と言って、テキストやウィキペディアの丸写しやChatGPTにたよるのは論外であろう。
テキストを読み理解した内容を“自分自身の言葉で”いかに表現するか、というところがポイントなのではないかと思う。
そのあたりの塩梅を飲み込みながら、ここまでレポートを作成してきたのだが、民俗学の場合、ちょっと違った。
レポート課題も修得試験の設題も、(サブ)テキストの要約では全然どうにもならないものばかりだった。
自分で課題を選んで、テキスト以外の関連図書を探して、それを熟読し、読み手にわかるように簡潔にまとめ上げなくてはならないのだった。
たとえば、修得試験の5つの設題のうち2つは次のようなものである。
- 盆行事について民俗調査し考えたことを述べよ。
- 民話・伝説を民俗調査し報告し考えたことを述べよ。
「それぞれ民俗文化(伝承文化)の具体例を観察して、自分の文章にて報告しなさい」と、講師からの注意書きがついている。
つまり、日本国内に無数にある地域固有の盆行事(あるいは民話・伝説)からどれか一つを選んで、それを観察して報告しなさい、ということである。
実際には、我々素人が、民俗学者やプロアマ問わない民俗研究家らによる専門的調査の手がいまだ入っていない盆行事や民話・伝説をこれから見つけ出して、一から調査するのはまず簡単ではないので、「民俗調査した報告書からとりあげても構わない」という。
そこで、埼玉県民であるソルティは、埼玉県各地の盆行事や民話・伝説を最寄りの図書館で調べ、自分が興味を持った対象を選び、それについて書かれた民俗資料を探し出して目を通し、自分の言葉でまとめた。
秩父ファンのソルティは、秩父のA村で戦国の頃より行われてきた盆行事と、B村で伝えられてきた妖怪伝説を選んだ。
これらを調べる作業は実に面白かった。(試験には出題されないかもしれないが)
ソルティは趣味の山歩きの際にB村は通りかかったことがあり、くだんの妖怪伝説あるのを知っていた。が、秩父の山奥にあるA村には行ったことがない。
せっかく調べたのだから、いつの夏にかA村に行って盆行事を見学する機会があればと思うのだが、過疎化と少子高齢化でA村の盆行事も年々縮小されている様子がうかがえる。存続の危機にある。いや、A村自体、廃村の可能性無きにしもあらず。
早く行かないと見る機会は永遠に奪われてしまうかもしれない。
民俗学というのは別に、戦前の古い時代の民俗のみを対象とする学問と決まっているわけではない。
常光徹著『うわさと俗信 民俗学の手帖から』(河出書房新書)のように現代の都市伝説を対象としてもいいし、なんなら日活ロマンポルノを手掛かりに昭和時代の性風俗や男女のセクシュアリティのありようを調べてみるのもありだろう。
現代民俗学という言葉もある。
ではあるが、何百年も続いてきた地域の行事が次々と消えていく現状をみるに、柳田国男が創設した民俗学というものが、まるで、戦前まで綿々と続いてきた日本の伝統文化や民俗の“待ったなしの記録保存作業”であったかのように思われるのだ。
ともあれ、民俗学の6つのレポートは完成した。
これから、ここまでにレポート通過した4つの科目の試験勉強に入る。
ひとまず小休止。