ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

アスペルガー症候群

● 本:『ぼくはアスペルガー症候群』(権田真吾著)

2014年彩図社発行。

 コンピュータ業界で働くアスペルガー症候群の42歳の会社員の手記である。
 
アスペルガー症候群とは、自閉症の中で知的発達の遅れがないものをいう。人づきあいが苦手、場の空気が読めない、冗談が通じないといった特性はあるが、知的な面での発達の遅れがないため、ほとんどのケースで「ちょっと変わったヤツ」と言われるくらいで、見過ごされてしまう。(本書より)

 自閉症の存在自体、世間に知られるようになったのはここ20年くらいのこと。それですらまだ、「心の病」「親のしつけが悪い」といった誤った見方をされがちな現状、いわんやアスペルガー症候群はまだまだ認知度が低い。名前だけからすると「ウルトラ怪獣の仲間?」といった風情すらあるが、アスペルガーという呼称は世界初の症例報告をしたオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーに由来している。
 
 著者が自らをアスペルガー症候群ではないかと疑い、専門外来を受診し、診断を受けたのは40歳になってから。この手記を出版する2年前のことである。当事者ですら病識が持ちにくいところにこの病の特徴の一つがある。
 著者は半生を振り返って「そう言えば…」と思い当たるさまざまな子供の頃からのエピソードを記している。
 友だちと遊ぶより一人で図鑑を読んでいるほうが好きだった、言われたことを字義通りに受け取って融通が利かず人を困らせた、クラスの仲間と波長が合わず自分の主張が通らないとかんしゃくを起こした、その場の空気が読めずに結婚式の二次会で大はしゃぎして顰蹙を買った、職場で同じ間違いを何度も繰り返し上司から叱られた・・・・・。
 このようなエピソードは、たしかにその人の性格や能力の問題とみなされてしまう。良くて「あの人はああいう人だから…」で大目に見てもらえるくらいで、競争原理や集団原理が働いている学校や職場などではどうしたって浮いてしまう。結果、教師や上司から目をつけられ叱られる対象になるか、仲間から白い目で見られたり、最悪の場合いじめの対象になってしまう。よもや先天的な脳の障害だとは誰も思わない。
 本人がいくら努力したところで、今の医学では根本的に治しようがないのだから、不条理な話である。
 当人や周囲に病識があればまったく状況は違ってくる。当人はアスペルガー症候群の特徴を自覚して、自らの言動の傾向を把握して予防策や善後策がとれるようになる。何よりも先天的な脳の障害と知ることで、失敗するたびに自らを不当に責めなくても済むようになろう。周囲もまた障害の特質を知ることで、アスペルガーの人はどういったことがNGでどういったことが得意なのか、どういう心持ちでどういう対応をすれば互いに誤解やストレスの少ないコミュニケーションができるのか、どういう指示を出せば一緒に仕事がスムーズにできるのか、いろいろ工夫して共生することができる。
 そういった意味で、当事者によるこの手記は、社会にアスペルガー症候群について啓発する良い資料と言える。

① 空気が読めない(暗黙のルールがわからない)
② 冗談が通じない
③ 人の話が聞けない
④ 思ったことをすぐに口にしてしまう
⑤ 同じミスを繰り返す
⑥ 他人との距離感がわからない
⑦ 計画を立てるのが苦手
⑧ 二つ以上のことを同時にできない
⑨ 特定のことにこだわりが強い(収集癖がある)
⑩ 偏食が多い
⑪ プレッシャーに弱くパニックを起こしやすい
⑫ ビジュアル情報のほうがわかりやすい
⑬ 粘り強さは人一倍
⑭ 手先が不器用である

 本書で挙げられているアスペルガー症候群の特徴を読むと、「ああ、こういう奴(アスペルガーは男のほうが女の4倍多い)、クラスに一人はいたなあ~」とか「職場に馴染めなくてすぐに辞めてしまったあの人はそうだったのかな~」とか、思い当たることがある。
 というより、「もしかしたら自分もアスペルガーかも・・・?」と思ったりする。
 若い頃(20代くらいまで)の自分を思い返すと、上記のうち7割くらいは当てはまる。
 「だから生き難かったのかあ~」
 ――なんて言い訳すると、アスペルガー症候群の人に失礼だよな。
 (いや、マジでほんとにそうなのかも、自分・・・) 

  
 

 

● 映画:『シンプル・シモン』(アンドレアス・エーマン監督)

2010年スウェーデン映画。

 アスペルガー症候群のシモンは、イケメンで優しい兄サムが大好き。
 でも、シモンの非常識な行動が原因で、サムは恋人から捨てられてしまう。
 落ち込むサムのために、シモンは新しい恋人を見つけてあげようと奔走する。
 
 アスペルガー症候群とは、知的障害を伴わないものの、興味・コミュニケーションについて特異性が認められる自閉症スペクトラム(ASD)の一種である。・・・・・・・・
 アスペルガーの人は、多くの非アスペルガーの人と同様か、またはそれ以上に強く感情の反応をするが、何に対して反応するかは常に違う。彼らが苦手なものは「他人の情緒を理解すること」である。(ウィキペディア「アスペルガー症候群」より抜粋)
 
 他人の情緒(=物語)を理解しないゆえに、トンチンカンな行動をくり返し、事態をますます紛糾させてしまうシモン。でも、心は純粋(シンプル)そのもの。
 そんなシモンが最後にはなんと、物語のなかの物語たる“恋”に目覚めてしまう。
 
 アスペルガーという枷を除けば、普通の楽しい恋愛娯楽映画である。


評価:B-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 


 
 
 
 

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