アセンブルドオケ 002

日時 2016年8月20日(土)14:00~
会場 三鷹市芸術文化センター・風のホール
指揮 橋場友彦/石井毅彦
曲目
  1. ワーグナー:歌劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より第1幕の前奏曲
  2. チャイコフスキー:幻想的序曲『ロメオとジュリエット』
  3. ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68
  4. アンコール ブラームス:ハンガリー舞曲集作品10

 三鷹芸術文化センターを訪れるのははじめて。
 風のホールは、いわゆる‘シューボックス型’の機密性の高い直方体の空間。625席は、個人的にはクラシック音楽を聴くには手頃な広さと感じる。音響も良い。
 全席自由なので2階の右手壁際に陣取った。客入りは6~7割くらいか。

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 Assembled I Orchestra(AIO)は、かつて都立高校の管弦学部を卒業したメンバーによって2007年に発足し、現在は学生オケやアマチュアオケに在籍する様々な演奏者が構成するオーケストラです。(公式ホームページより)

 20~30代の若いオケである。
 特徴の一つは――過去の演奏会記録を見る限り――アマオケがよくやるように外部のプロ指揮者に依頼して指導および演奏会の指揮を任せるのではなく、同年代のオケのメンバーの一員が指揮者を兼ねているところ。橋場友彦はAIOのホルン奏者であり、石井毅彦はファゴット奏者である。この点が、おそらくこのオケの長所と短所の両方を生んでいるように思った。
 長所はもちろん、指揮者とオケのメンバー間の信頼と親密さと普段からの意思疎通の深さとから生まれる一体感(まとまり)、自由で伸び伸びした雰囲気である。萎縮のない音の響きは最大の魅力である。
 一方、音を合わせて楽譜どおりきれいに演奏するレベル以上のことが期待されるときに、仲間うちの同年輩の指揮者にはよほどの才能が必要と思われる。楽譜を読み込む力はもとより、オケを構成する楽器一つ一つの特徴や各演奏者の性格や癖を把握して、それらを適切に調整しながら、作曲家の意図なり曲想なり指揮者としての野心(試み)なりを表現していかねばなるまい。すなわち、高度のコーディネート力が必要になってくる。
 また、オケのメンバーのほうも、まったくの他者である外部の指揮者の指導を受け共演することで、気の知れた仲間うちの安心感ある(悪く言えば‘ナアナアの’)雰囲気の中で知らず知らず身についてしまった殻を破って、新しい自分・新しい音・新しい世界観を得ることができる。そこにオケとしての進化はある。
 一例だが、演奏された3曲すべてにおいてメリハリが不足しているように思った。ハリ(張り=強さ)は若いだけに十分ある。どの曲も大向こうをうならせる迫力があり、フィナーレは圧巻であった。だが、メリ(減り=弱さ)が不足しているため、表情・陰影・繊細さという点ではまだまだ成長途上と感じた。最初から最後まで「押して押して押しまくる」の一本調子になって、聴いている耳が麻痺してしまい、しまいには「眠ってしまった」。とくに1曲目と3曲目でその傾向が強かった。
 ちょっと辛口になったが、全体としては非常によくまとまっており、これといった瑕疵も見当たらず、良い演奏会であった。中でも、女性のティンパニー奏者が、曲想をよく理解した大胆かつ切れ味鋭い演奏をしていて印象に残った。

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 ブラームスの第1番は、「ベートーヴェンの第10交響曲」と呼ばれるほどの名曲中の名曲。
 確かに、完成度は名曲の名に恥じない。とりわけ第4楽章は、楽聖の傑作群と比べても遜色ない素晴らしさである。アルペンホルン風の愛の旋律が朗々と山間を渡り、木魂して消え入ったあとの一瞬の静寂(しじま)。そこから、あの雄雄しく輝かしい弦楽器による第一主題が姿を現す瞬間こそ、この交響曲のヘソであろう。
 実にカッコいい。
 この第一主題、ベートーヴェン第九の「歓喜の歌」に似ていると言われる。が、ソルティはむしろベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番『皇帝』の主旋律(坂本九の「上を向いて歩こう」)+「歓喜の歌」といった印象を持つ。似ているから、二番煎じだから、オリジナリティに欠けるからダメなんて評価はまったくの見当違いと誰でも首肯するであろう、音楽史に残る名旋律である。
 とはいうものの、この曲自体は間違っても「第九」を超えるという意味での「10番」ではない。世界観の深遠さに関して言えば、ブラームスの1番はベートーヴェンの5番や9番には到底かなわない。湖と海くらいの違いはあろう。
 ベートーヴェンに比すべき交響曲作家は、やっぱりマーラーだと思う。
 

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 三鷹芸術文化センターのすぐそばに太宰治と森鴎外(林太郎)の墓のある禅林寺がある。
 ちょうど良い機会だから帰りに寄ってみた。
 二人の墓はほぼ真向かいに位置する。玉川上水での入水自殺後、鴎外を尊敬していた太宰自身の遺志により建てられたという。是が非でも芥川賞を手にするため選考委員の川端康成にくだくだしく鬱陶しい手紙を送りつけた太宰治である。明治の文豪のそばに葬られて、さぞや得意満面なことであろう。(鴎外にとってはいい迷惑かもしれないが・・・。)
 そんな意地悪なことを考えながら墓地にたたずんでいたら、どしゃぶりになった。
 太宰ファンの不興を買ったか・・・。


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土砂降りや ゲージュツ家らも 夢のあと