1947年アメリカ映画。

 この世に典型的な天才の顔というものがあるとしたら、オーソン・ウェルズの顔こそ、それだと思う。
 ハンサムではない。ブ男でもない。一度見たら忘れられない特異な顔立ちというわけでもない。セックスアピールがあるというのでもない。俳優としては決してヒーローにもスターにもなれない平凡な造作である。
 しかし、ひとたびカメラの向こうに捉えられ、画面に映し出されるや、この顔は他の役者をすっかり影に追いやってしまう強烈な磁力を発する。常に次の気の利いた仕掛けを考えているいたずらっ子のような自在な活力と茶目っ気が、観る者を虜にする。


 この作品でも、タイトルからすれば主役であるはずのエルザ(=リタ・ヘイワース)の魅力は物語が進むにつれ背後にかき消えてしまい、エルザに魅入れられ引きずり回され、挙句の果てに殺人の濡れ衣を着せられてしまうマイケル(=オーソン・ウェルズ)の一挙手一投足に観る者は標準を合わせることになる。
 謎の女に振り回される純粋な男に降りかかる災難を描くのは、巻き込まれ型サスペンスとして王道であるけれど、そのためには謎の女の魅力のほどが観る者に十分納得されるような演出が必須である。最初のほうでこそ、水着姿で抜群のプロポーションを披露したり、カッコよく煙草をくわえたりと、往年のセックス・シンボルたるリタ・ヘイワースの持ち味はそれなりに発揮されるけれど、物語が進むにつれ、ミステリアスな風情は失われていき、なぜマイケルがこの平凡な女に執着するのかが理解できなくなってくる。
 これは、リタの演技力の未熟というより、やはり脚本のまずさ、演出の不手際によるものだろう。
 監督として、主演女優であり妻であるリタを魅力的に撮るより、物語をわかりやすく示すより、才気走ったやり方で演出することをオーソンは優先してしまったのである。オーソンが一俳優として出演した『第三の男』(キャロル・リード監督)の共演女優アリダ・ヴァリが最後まで魅力を失わずに鮮やかに去っていく姿と比較すると、この事情は明白である。
 
 そもそもこの物語は筋が相当入り組んでいるのだが、上手に整頓できていない。リタがいったいどういう女で何をしたかったのか、リタの夫でやり手の弁護士であるアーサーの真意は何なのか、肝心の殺人が具体的にどういうトリックで行われたのか、よくわからない。マイケルの罪を問う裁判のシーンも、通常なら事件の秘められた真相を匂わせる、あるいはマイケルの陥った罠の恐ろしさをまざまざと感じさせるサスペンス効果を発揮する格好の場面になるところだが、裁判制度の茶番を描き出すことに主眼が置かれているようで、なんだか焦点が合っていない。
 
 ただ、たとえ脚本が良くて、演出も懲りすぎることなく、わかりやすい物語になったとしても、ヒッチコックのスリラーの2番せんじになってしまうだけかもしれない。
 この手のもので、ヒッチコックを凌駕するのは難しかろう。


 

評価:C-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!