ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

アン・ハサウェイ

● 人類愛・・・。 映画:『インターステラー』(クリストファー・ノーラン監督)

2014年アメリカ、イギリス。

 原題(Interstellar)は「星の間」の意。
 169分という長尺のSF映画であるが、最初から最後まで退屈することなく楽しめた。テンポが良いこと、トウモロコシ畑や宇宙空間や未知の惑星をはじめとするヴィジュアルの美しさ、そこで起こる不可思議な現象(相対性理論やブラックホールに由来する)への興味が、観る者を引っ張っていく。逆に言うと、ドラマそのものは貧弱である。その点で、すぐ前に見た『オン・ザ・ハイウェイ  その夜、86分』と真逆の位置にある。
 
 波打つトウモロコシ畑と中年に差しかかった男の捨てられない野望という点では『フィールド・オブ・ドリーム』を想起し、人類愛と父と娘の愛情という点では『アルマゲドン』『コンタクト』と重なり、宇宙空間の神秘と科学性という点では『2001年宇宙の旅』『コンタクト』に追随し、ドラマの貧弱さでは『サイン』と同列である。‘ごった煮’という印象は否めない。
 人類救出という大事件をテーマとする大作の割りには驚くほど登場人物が少ない。(ここがまた『サイン』と通じる) その中で光るのは、アメリア・ブランド博士を演じるアン・ハサウェイの理知的な美しさ、主人公ジョセフ・クーパー(マシュー・マコノヒー)の幼少の娘マーフを演じるマッケンジー・フォイのクールな美少女ぶりである。あと、後半でマット・デイモンがマッドキャラで登場するのは望外の喜び。

 この作品は、「ワームホールを描写し、相対性理論を可能な限り正確にするために理論物理学者のキップ・ソーンが科学コンサルタントを務めた」(byウィキペディア『インターステラー』)そうである。
 なので、科学音痴の自分が難癖つけるのはおこがましいのだが、やっぱり見終わった後に腑に落ちないものがある。タイムトラベルものに不可避について回るパラドックス(矛盾)がこの作品でも生じている。
(注意:ここからはネタバレです。)

1. 主人公クーパーの娘マーフの部屋で、ポルターガイストと思える「不可思議な現象」が起こる。
2. その謎の解明をきっかけに元空軍パイロットのクーパーはNASAと接触するようになり、人類を救う使命を受けて宇宙に旅立つことになる。
3. 宇宙旅行の様々な試練難関をくぐり抜けた挙句(その間に地球では数十年が過ぎていた)、クルーのブランド博士を助けるため、クーパーはブラックホールに一人飛び込む。
4. ブラックホールの行き先は4次元空間で、幼い頃の娘の部屋の本棚の裏側に通じていた。
5. クーパーは、ブラックホールで手に入れた人類を救うために必要なデーターを、なんとか娘に伝えようと苦心する。
6. それが、はじめの「不可思議な現象」の正体だった。

 かいつまんで言えば、上記のような構成なのだが、1と6とでつながって時間がループしている。
 ここで頭をひねるのは、
A.「不可思議な現象」が起こらなかったら、クーパーが宇宙に旅立つことはなかった。
B.クーパーが宇宙に旅立たなければ、「不可思議な現象」も生じない。 
C.結果として人類が救われることもない。
 このAとBとCは因果的に動かせないだろう。ここには矛盾はない。
 次に、こう仮定する。
A’ 「不可思議な現象」を目にしても、クーパーが宇宙に旅立つことを何らかの理由で拒否する。(幼い娘の懇願に負けてとか)
B’ その場合、クーパーはブラックホールを通じて4次元空間に入り込むことはないので、「不可思議な現象」を起こせない。
 この仮定A’と結論B’は明らかに矛盾する。
 クーパーが宇宙に旅立たなければ、「不可思議な現象」はそもそも起こらない。
 つまり、「不可思議な現象」が起こった時点で、すでに「クーパーが宇宙に旅立つ」ことは決定付けられている。それ以外の選択肢はあり得ない。
 「すべてはあらかじめ決まっていた」と結論付けるほかない。
 
 「すべてがあらかじめ決まっていた」を「アリ」とするなら、ドラマが介在する余地はなかろう。人類は、あらかじめ運命づけられているストーリーを神(だか高度生命体だか)の書いた脚本どおりに仕方なく生きているだけの話になる。人類が滅亡するも救出されるも「別に・・・」ってことになりかねない。
 それともこれは、あらかじめ決まっている運命の中で、それでも懸命に愛し合い、夢を見、運命に抗って生きようとする人類の気高さを謳っている作品なのか。

 それにつけても、この種のアメリカ映画を観るといつも思うのだが、人類ってそれほどまでに生き残らなければならない‘種’なのだろうか。
 自分が親でないからそう思うだけ? 
 自分が人類愛を欠いているだけ? 


評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 
  

● ラッセルの知性 映画:『レ・ミゼラブル』(トム・フーバー監督)

 2012年イギリス映画。

 予想と違ってミュージカル映画であった。
 アン・ハサウェイやヒュー・ジャックマンはともかく、よもやラッセル・クロウがミュージカルを歌うとは思わなかったから、普通に小説のドラマ化と思っていた。
 歌は・・・・やはり本職ではない。その分、演技とスターの存在感とでカバーしている。特に、テナルディエ夫人を演じるヘレナ・ボナム・カーターは見事なはまり役ぶりで楽しめる。本当に才能ある女優だ。(日本の女優で言えば、さしずめ大竹しのぶだろう)。

 ミュージカル「レ・ミゼ」人気は世界でも日本でも不動であるが、なぜこんなにも愛されているのだろう?と常々不思議に思っていた。
 が、今回見て分かった。

 このドラマには、およそ思いつく限りの、人間の抱くさまざまな感情が詰め込まれているのである。

 たとえば、こんなふうだ。


ジャン・バルジャン・・・・自暴自棄、絶望、屈辱、裏切り、罪悪感、後悔、改心、秘密の過去、怯え、虚しさ、生きがいの発見、父親の娘への愛情、娘を若い男に取られる父親の苦痛、自己犠牲

ファンテーヌ・・・・母親の娘への愛、女であることの苦痛、屈辱、恥、人生への失望、追憶


コゼット・・・・初恋、恋人との別れの苦しみ、父親への愛、愛する人と結ばれた喜び


エボニーヌ・・・・片思い、失恋、嫉妬、自己犠牲

ABC(体制に立ち向かう若者達)・・・・怒り、反抗、正義、友情、勇気、連帯、夢、情熱


ジャベール・・・・愛を知らない心、孤独、怒り、虚無、自己破壊

 老若男女だれが見ても、登場人物の抱く何らかの感情にひっかかる。いずれかの役に共感できる。これだけいろいろな感情のメニューを取りそろえた文芸作品は他に思い当たらない。あえて言えば『旧約聖書』か『ギリシア神話』か。


 奇妙なことに自分はどの感情にもさしてひっかからなかったのである。
 ところどころ涙は出たが、それは「年を取れば涙もろくなる」のと同じで、脳細胞の記憶を司る部分が物語によって刺激され涙腺が勝手に緩むという感じであった。決して心の奥底で感じ入っているのではなく、「こういうシーンでは泣くもの」という身に付いたしきたりに従って泣いているようなものである。その証拠に劇場を出てしまえば、思考はあっという間に「ハラ減った。今夜のご飯は何にしよう」に切り替わる。(若い頃は映画を観て感動すると一昼夜その気分を引きずったものである。)


 感性が摩滅した。というと何だか悲しいけれど、感情の恐さを知って、より冷静になったのだと思う。
 それに、既存の物語には免疫ができているってのもある。


 そんな自分を心底感動させ、魂の震えるほどに泣かせる物語があるとしたら、それはジャベールの救いの物語だろう。
 ヴィクトル・ユーゴーとその時代にはジャベールのような登場人物は救われることがなかった。ジャベールに暗く重たい過去(牢獄で生まれた罪人の子)を持たせたことは大文豪ユーゴーの比類無い創造力・洞察力と感嘆至極だけれども、キリスト教仕込みの勧善懲悪精神がどっかに生きていて、やっぱり悪役ジャベールは最後に破滅する。イエスを裏切ったユダが木に首をつって自殺したと伝えられているように。
 自分にはそれが何よりもレ・ミゼラブル(哀しい)。


 いっぱしの男役者なら、ジャン・バルジャンよりジャベールの方にやりがいを見出すだろう。オセロよりイアーゴを選ぶように。イエスよりユダを選ぶように。
 この役を引き受けたのは、ジャベールの中にこそ最も現代的な感情が萌芽していることをラッセル・クロウは知っているからだと思う。


評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」     

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
       
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


 
 

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