英題 11 Minutes
公開 2015年
脚本 イエジー・スコリモフスキ
上映時間 81分
製作国 ポーランド、アイルランド
脚本 イエジー・スコリモフスキ
上映時間 81分
製作国 ポーランド、アイルランド
アガサ・クリスティの作品に『ゼロ時間へ』(原題:Towards Zero)というのがある。これは、殺人事件がまず最初に起こって、それから真犯人とトリック解明という解決に向けて時間が(叙述が)流れていく通常の推理小説とは趣向を異にし、様々なエピソードや閉塞した人間関係のもたらす結節点として殺人事件が最後に起こる――というクリスティの着想のユニークさの光る作品である。「ゼロ時間へ」とはすなわち、殺人事件(ZERO)に向かって秒読みされていく時間の流れのことである。名探偵ポワロもミス・マープルも登場しない地味な作品であるが、間違いなくクリスティの傑作のひとつに数えられる。ソルティの大好きな作品である。
人間性に関心ある読者にとって真に興味深いのは、殺人事件が起こってからの名探偵の活躍ではなくて、事件が起こるまでの複雑な経緯や殺人犯の動機の成り立ちや「そのような悲劇にしか決着し得なかった」因縁を知ることにある。
この映画を見ていて『ゼロ時間へ』が思い出されたのは、まさにこれが、機械仕掛けの時計のごとく正確に無慈悲に時を刻んでいく複数の物語(=因縁)が、一つの圧倒的な悲劇に結実していくさまを描いているように思えるからである。
ワルシャワを舞台に、17時から17時11分までの11分間に起こる複数の出来事が並列的に描かれていく。
① 役を得るべく大物プロデューサーとの面接に出かける美人女優。その夫は結婚したばかりの妻の動向にやきもきし面接現場であるホテルに駆け付ける。
② 同じホテルの階下では不倫カップルがポルノビデオを観ている。休憩時間が終了すると男は窓から外に出て窓ふき掃除用のゴンドラに乗る。女はホテル前のバス停に向かう。
③ 明日結婚を控えているにもかかわらず、配達先の人妻との情事にふけるバイク便の青年。その父親は何の罪か知らぬがムショから出たばかりで公園でホットドッグの屋台をやっている。親子は約束通りホテル前で落ち合う。
④ その屋台でホットドッグを購入したのは朗らかなシスターたちと犬を連れた若い女性。その女性はいまさっき恋人と喧嘩別れしたばかり。
⑤ 下町の古いアパートメントで命がけの救命活動を行う救命士たち。現場には破水した妊婦と騒ぐ子供ら、いましも息を引き取った老いた男がいる。救急車は患者を乗せてホテル前を通過する。
⑥ 孤独な少年は質屋に強盗に入るが、質屋の主人は首を吊って死んでいた。パニックった少年は何も盗まずに質屋を立ち去り、やって来たバスに乗る。少年を追うように年老いた男も同じバスに乗る。男はついさっきまで川原で風景画を描いていた。
⑦ 少年と年老いた男を乗せたバスは、ホテル前のバス停で不倫中の女とシスターたちを乗せる。
⑧ そして、ゼロ時間がやって来る・・・・・・
入り組んだように見える筋を見抜くためには一度観るだけでは不十分であろう。ソルティは倍速なしで2回観てしまった。
入り組んだように見えるのは、脚本のせいでも、演出のせいでも、出来事自体の複雑さのせいでもない。11分の間に同時進行している複数の物語が、代わる代わる小出しに語られていくためである。本当なら、画面(スクリーン)を物語の数だけ分割して、ありのままにリアルタイムで表現され、かつ複眼的に観られるべきなのである。実際、すべては同時進行で起こっているのだから。
それぞれの因縁によって、特定の「時」×特定の「場」に集められてしまった人々にもたらされる惨劇。天罰のごとき悲劇に見合うだけの罪を犯した者は、登場人物の中にどれだけいるのか。この作品はそんな運命の不可解さを描いている。
映画のラストは、画面(スクリーン)がまさに細胞分裂のように無限に細かく分割されていく。物語は無数にあり、因縁は無限に生じ、我々は因縁の網の中にがんじがらめに取り込まれている。いかなる「時」のいかなる「場」も、因縁によって規定されている。そんな世のありようを示唆しているように感じた。
評価:B-
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」
A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!