1934年アメリカ映画。

 古代史大作が得意なデミル監督の『クレオパトラ』をやっと観ることができた。
 もちろん、オールカラーで金のかけ方も特撮技術も全然レベルの違うエリザベス・テーラーの『クレオパトラ』(1963年)に比べれば見劣りするもやむなしであるが、これはこれで良くできた史劇と言える。
 クローデット・コルベール演じるクレオパトラの造形が見事であると思う。

 リズ・テーラーのクレオパトラは、当時世界一と言っても過言ではないリズの美貌とハリウッドの女王が放つゴージャスなオーラーで、リズ=クレオパトラという等式をなんの不自然さもなく観る者に受け入れさせることができた。クレオパトラを「演じる」必要など特になかった。リズであれば良かったのである。美しくて、尊大で、威厳があって、魅惑的で、女王の風格がある。リズが古代エジプトの衣装を身につけて、古代エジプト風のメイクをすれば、もうクレオパトラがそこにいた。

 コルベールは、クレオパトラを「演じて」いる。
 コルベールは美人ではあるけれど、絶世の美女というにはコケティッシュなところがある。フランスのコメディエンヌといった感じがある。風格の点でもリズ・テーラーやヴィヴィアン・リーほどのカリスマ性はない。
 そのぶん、コルベールは自らのクレオパトラ像を作り上げ、カエサルやアントニウスなど名だたる男達が骨抜きになっても無理はないと思わせるに十分な魅力と説得力を観る者に感じさせることに成功している。

 クレオパトラの魅力はその容貌よりも話術と美しい声にあったと言われるが、コルベールのクレオパトラはそれに近い。
 クレオパトラがカエサルに出会うシーンを観ると、これは歴然とする。
 リズもコルベールもあの有名な’じゅうたん攻撃’でカエサルの前に文字通り転がり出る。
 リズはじゅうたんから立ち上がった瞬間にカエサル(リチャード・バートン)を魅了する。それはまったく観客にとっても不自然でない。じゅうたんから立ち上がるリズは、開いた貝殻から立ち上がるミロのヴィーナスそのもののまばゆさと美しさと色気を放つ。
 コルベールも同じ登場の仕方をするけれど、カエサル(ウォーレン・ウィリアム)は仕事に夢中で、まったくコルベール=クレオパトラに注意を払わない。
 そこからがコルベールパトラの本領発揮である。巧みな話術と機転とで、カエサルの気を次第に自分に惹きつけてしまう。実際は(史実では)おそらくこっちに近かったんじゃないかという気がする。

 カエサルもアントニウスも、ローマであるいは占領地でそれこそ類いまれな美女たちを手に入れてきたはずである。ただの美女などもう飽き飽きしていたであろう。
 クレオパトラの魅力は何かもっと違った、独特のものだったような気がする。



評価: B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!