ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、神社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

オンカロ

● 本:『フィンランド 豊かさのメソッド』(堀内都喜子著、集英社新書)

フィンランド豊かさのメソッド 002 2008年刊行。

 8年間フィンランドで大学院生として過ごした著者によると、「うらやましい」という言葉(感情)はフィンランドではあまり好まれないらしい。
 が、この本で紹介されているフィンランド社会のあれこれ、とくに福祉や教育領域における政策の手厚さを読むと、「うらやましい~」と嘆息してしまう。
 なぜ日本もこんな風にできないのだろう?
 いったい何が、日本人がこんなふうに豊かに暮らすことを妨げているのだろう?
 と問わずにはいられない。
 もちろん、ここで言う豊かさは単純に物質的なものではない。
 安心して暮らすことのできる豊かさ。十分な余暇を楽しむことのできる豊かさ。貧しい家庭の子供でも能力に応じて高等教育が受けられる豊かさ(国際機関の調査でフィンランドの学力は世界1位)。何歳からでも自分の興味を持った勉強や仕事にチャレンジできて新たな仕事に就ける豊かさ。老後の生活や介護のことを心配しないですむ豊かさ。女性が離婚しても生活レベルを落とさずに子育てと仕事が両立できる豊かさ。相手が異性でも同性でも自分の好きな人と暮らし他のカップルと同じ権利を享受できる豊かさ。将来のために貯金をする必要を感じない豊かさ。このような「豊かさ」を維持するためには高い税金もやむを得ないと納得する豊かさ・・・・。
 まったく、度量の広い国民と言うほかない。

 かれこれ20年ほど前に『人間を幸福にしない日本というシステム』(カレル・ヴァン・ウォルフレン著)という本がベストセラーになったことがあった。一読してまったくその通りだと思ったものだが、そのシステムはいまだに破綻することなく続いている。
 どうして、日本国民は幸福になることを拒否するのだろう?
 戦時中に犯した数々の蛮行に対する罪悪感ゆえか。
 耐え忍ぶことが好きな浪花節的アイデンティティゆえか。
 変化を嫌う鎖国遺伝子のせいか。
 「どうせ何をやっても変わらない」という諦念と投げやりのためか。
 「寄らば大樹の陰」的依存体質のためか。
 それとも、まだ破綻が足りないからだろうか。

 上に挙げたフィンランドの社会政策に反対する日本人がそれほどいるのだろうか。
 自分的には民主主義政治が目指す一つのゴールのように思われるのだが。
 むろん、そのためには高い税金が前提となる。物価も高くなる。
 たとえば、フィンランドの消費税は食品17%、他の商品やサービスは22%だという。(本書刊行当時) タバコ、お酒はそれ以上、ガソリンは値段の60%が税金である。
 フィンランド人はどう思っているのだろうか。

これだけ税金が高いと気になるのが、フィンランド国民の声だ。でも税金はたしかに高いと皆、思っているが、不満の声はあまり聞こえてこない。「税金が高いのは嫌だけれど、その税金の恩恵を受けて生活しているので、しようがない」というのが、皆の意見のようだ。考えてみれば、そのおかげで、私を含めすべての人が無料で教育が受けられたのだし、福祉制度も充実し、お金の心配をしなくても生活ができる。税金がいったいどこに使われているのかわかりにくい日本に比べれば、フィンランドのシステムは、目に見える形で税金が自分の生活に戻ってくる

 税金の使途の透明性。
 日本人の変化に対する躊躇の一因は、政治(政治家、官僚)に対する不信から来ているのは間違いあるまい。
 一時的ブームで終わってしまったけれど、民主党の「仕分け」事業は本当に必要で、継続かつ拡張してほしいものであった。仕分けられたのがほかならぬ民主党だったというのがなんともはや・・・。
 
 さて、フィンランドと言えば、サウナ、キシリトール、ムーミン、森と湖、オーロラ・・・と連想が続くところであるが、最近ではオンカロを忘れてはなるまい。フィンランドのオルキルオト島に存在する、世界で唯一の高レベル放射性廃棄物の最終処分場である。映画『100,000年後の安全』(ミカエル・マドセン監督)でその存在が世界中に知られるところとなった。




● ああ、無明! 映画:『100,000年後の安全』(ミカエル・マドセン監督)

 2009年、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア。

 人類はどこかの時点で自己破滅を選択した。

 この映画を観るとそう思う。
 一体、どの時点だったのだろう?

 チェルノブイリ原発事故にもかかわらず原発推進を止めなかった時か(1986年)。
 スリーマイル島原発事故にもかかわらず原発推進を止めなかった時か(1979年)。
 ラスムッセン報告(大規模事故の確率は原子炉1基あたり10億年に1回)により原子力発電の安全性が喧伝された時か(1974年)。
 世界初の原子力発電所ソビエト連邦のオブニンスク原発が発電を開始した時か(1954年)。
 アイゼンハワー大統領が国連総会で原子力平和利用に関する提案を行った時か(1953年)。
 広島、長崎に原爆が落とされた時か(1945年)。
 キュリー夫人が放射能を発見した時か(1898年)。
 いやいや、ノーベルがダイナマイトを発見した時か(1866年)。
 銃が使用されるようになった時か(13世紀)
 剣を手にした時か。
 棍棒を手にした時か。
 エデンから追われた時か。

 あたかも人類はそもそもの最初から絶滅に向けて歩んでいるかのようである。それも人類という一つの種の絶滅だけでなく、大地も、生きとし生けるすべての命も道連れにするつもりらしい。
 まぎれもなく人類は、地球上に現れた最悪の生命体である。
 そのことはいい加減自覚しなければならないだろう。
 これは悲観主義でもニヒリズムでもなく、客観的な事実である。

 地球と他の生命達とを守るには、本当は人類が絶滅するのが一番いいのである。
 
 ・・・と、思っていた。
 だが、もうそれすらも無理らしい。
 人類が今絶滅したところで、地球の未来も他の生命の存続も保障できなくなってしまった。
 それは25万トンの放射性廃棄物が今すでに地上にあり、その半減期は数万年に及ぶからである。
 放射線被爆以外の他の理由によって人類は滅びるかもしれない。第三次世界大戦か、地球の温暖化か、氷河期の到来か、地殻変動か、惑星の衝突か、ウイルスの蔓延か、宇宙人の来襲か、第2のノアの洪水か、サードインパクトか・・・・。数万年の間には何が起こっても不思議ではない。
 しかし、今すでにある放射性廃棄物は地上に残り続ける。致死性の放射線を出し続けながら。

 フィンランドのオルキルオトに世界で初めての高レベル放射性廃棄物の最終処分場が建設されている。固い岩盤をくり抜いた地中奥深く、アリの巣のようにいくつものトンネルが連なる施設を造って、放射性廃棄物を詰めたカプセルをあたかもアリの卵のように並べて、今後10万年間保管するのだという。
 この映画は、その処分場オンカロの建設に関わる人々へのインタビューを中心としたドキュメンタリーである。

 今さらオンカロの建設の是非を問うても仕方ない。
 すでにあるものをほうっておくわけにはいかないのだから。
 できるだけ知恵を絞って、今ある科学的データと工学的技術を結集させて、未来の人類のためにできる限り安全な施設を造るほか選択肢はないのだから。
 このあたり、やはり西欧人は合理的だなあと変な意味で感心する。目の前の現実を客観的に分析し、理性的に判断し、最善の策を考える。
 日本人だときっとまず「オンカロ建設反対!」の声がかまびすしく、なかなか対策が進まないだろうと想像する。その結果、手遅れとなり、最悪の事態が待ち受けている。太平洋戦争でこれをやり、原爆投下を招いた国民である。(→ブログ記事『なぜ日本は負けに行ったのか』p://blog.livedoor.jp/saltyhakata/archives/4699834.html
 
 10万年間オンカロが耐久できるか。
 10万年の間に地殻変動があって、廃棄物カプセルが地表に出て破損したらどうするのか。
 もうそんなことを議論できるレベルはとうに終わっているのだ。一番耐久できそうな方法で保管するしかない。後戻りはできない。
 だから、オンカロ建設上の最大の懸念は、「未来の人類がこの施設の危険性を知らずに、開けてしまうのではないか」という笑い話のようなところにある。それをどう防ぐかが真剣に議論されている。
 1万年前の人類と我々とがコミュニケーションできない現状を考えてみれば、それは納得できよう。わずか2000年前のピラミッドの文字の解読さえ、非常に困難が要るのだから。
 オンカロの入り口にモノリス状の石碑を建てて、世界のあらゆる言語で警告を記すというアイデアがある。
「何人もこれより先に行ってはならない。」
 未来人が文字を使わない文明を築いていることも予想して、本能的に危険を知らせるイラスト(ドクロマーク等)を描くアイデアがある。
 警告のようなものがあるとかえって好奇心を刺激して開いてしまうだろうから、何も置かずにほうっておいたほうがいいというアイデアがある。

 この映画はもう一つの『博士の異常な愛情』(キューブリック)であろう。


 こうまでして手に入れた原子力だが、その寿命はあと数十年と言われている。原料となるウランが尽きるからである。



 

評価: B+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!



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