ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

ガス・ヴァン・サント

● 樹海の二人 映画:『追憶の森』(ガス・ヴァン・サント監督)

2015年アメリカ
上映時間111分
原題 The Sea of Trees 


 『エレファント』(2003)、『ミルク』(2008)、『永遠の僕たち』(2011)のガス・ヴァン・サント監督による青木ヶ原樹海を舞台とする映画。しかも出演はオスカー俳優マシュー・マコノヒーと我らが渡辺謙。
 ――と来れば「期待するな」と言うほうが無理である。
 公開当時あまり話題にならなかった気がする(ソルティはまったく知らなかった)。舞台が樹海でテーマがそのものずばり「自死」だからであろうか。日本での上映に当たって、もしかしたら様々なところから横槍が入ったのかもしれない。

 樹海と言えば、自殺の名所である。ウィキによれば、

 青木ヶ原(あおきがはら)は、山梨県富士河口湖町・鳴沢村にまたがって広がる森で、富士山の北西に位置する。青木ヶ原樹海・富士の樹海とも呼ばれ、山頂から眺めると木々が風になびく様子が海原でうねる波のように見えることから「樹海」と名付けられたという説もある。樹海の歴史は約1200年とまだ浅く、若い森である。


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 この映画の主人公アーサー(=マシュー・マコノヒー)も妻に死なれ、人生に絶望し、ネットで樹海のことを知り、アメリカからはるばる日本に死ににやって来たのである。ソルティが20代の頃ベストセラーになった『完全自殺マニュアル』(太田出版)に懇切丁寧な樹海活用ガイドが載っていた。あの本は図書館から締め出されたのではなかったろうか。樹海はいまや国際的な自殺の名所になったのだ。
 ネット、怖し。

 本作では樹海の怖さや魅力がふんだんに描かれている。方位磁石が狂うとか、動物が棲んでいないとか、いったん迷ったら抜け出せないとか、亡くなった魂が今もさ迷っているとか、怖さについては誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。
 魅力とはなにか。
 もちろん大自然がある。ナチュラリストの自殺志願者なら死んで自然に帰るというイメージは魅惑的であろう。富士山に見守られて(看取られて)成仏するのも悪くはない。
 容易に死体が発見されないというのもポイント高い。腐乱状態を越えて、風化した白骨姿で発見されれば人様の手をそれだけ煩わさなくて済む。身元不明のまま葬られることを望む人には都合が良い。
 そう、樹海に入ればどんな人間も‘裸の自分’になるしかない。財産、地位、名誉、名声、賞罰、役割・・・・俗世間でのあらゆる属性が剥ぎ取られ、素の自分でいるしかない。であればこそ、本作の二人の主人公、アメリカ人のアーサーと日本人のタクミ(=渡辺謙)は樹海の中で強い結びつきを持ったのである。
 この映画は、自殺を企図して樹海に入った二人の男の出会いと別れの物語である。


 渡辺謙はアクの強い大物キャラクターを演じることが多いが、ここでは左遷され意気消沈したサラリーマンという凡庸な役を違和感なく演じている。英語も流暢だ。三船敏郎以降最大の国際派日本人スターは間違いなく渡辺謙だろう。オスカーも射程距離にある。

 タクミはいったん死を決意し二日前スーツ姿で樹海に入ったものの、結局思いとどまって帰り道を探している。行き倒れになりそうなところを、樹海デビューしたばかりのアーサーに助けられる。そうして二人の交流がスタートする。
 「家族に会いたい」と言うタクミの現世帰還を手伝うことにしたアーサーもまた、瀕死の樹海サバイバルを経て、最終的には自殺を思いとどまり救助隊に助けを求め、無事帰還することになる。
 この映画は、妻を愛し損ねたことの後悔と罪障感に苦しむ男が、樹海の中ですべての感情を吐き出し、再生する物語である。樹海は「煉獄」であり、ダンテの言う「人生半ばに現れた暗く深い森」である。


 アーサーは、どこで「死から生へ」とベクトルを転換させたのであろうか?
 腹を壊すかもしれない湧き水を‘生きるために’口にしたシーンであろうか。
 暖をとるために熾した炎の前で、タクミを相手に過去のあやまちを語るシーンであろうか。
 それとも、体力を失い瀕死状態に陥ったタクミのために救助を呼ぼうと立ち上がったシーンであろうか。

 ソルティが思うに、錠剤を手にしたアーサーが木立の向こうに憔悴しきったタクミの姿を発見し、心配して声をかけた瞬間に、このベクトル転換は起ったのではなかろうか。つまり、二人が出会ったファーストシーンである。
 これから死ぬ者にとって、他人のことなどもはやどうだっていいはずである。無視することもできたはずである。自分の命を捨てようとする人間が、なぜ他人の命を問題にしよう?
 だが一瞬の戸惑いの後に、アーサーはタクミに声をかけた。
 その瞬間に、アーサーにとっての新しい「生」の流れが始まったのではないかという気がする。自分のそれであろうと、他人のそれであろうと、つまるところ命は一つだからだ。


 この映画はまた、スピリチュアルな物語である。まさかガス・ヴァン・サントがこんなベタにスピリチュアルな映画を撮るとは思わなかった。


 「悪くない映画だ。‘B-’かな」
 見終わって評価をつけてから、お風呂に入った。
 浴槽に浸かっていたら、じわじわと体の芯からあたたかな感動が込み上げてきて、ほとばしるものがあった。バスクリンのせいではあるまい。
 ‘じわじわ’はその後も続き、二日経ったところで「B+」に昇格した。
 こういうケースも珍しい。



評価 B+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!





● 映画:『永遠の僕たち』(ガス・ヴァン・サント監督)

 2011年アメリカ映画。

 原題はRestless
 「心の休まる場所がない」といったところか。

 美しい映画である。
 画面(撮影)が美しい。
 ロケーション(オレゴン州ポートランド)が美しい。
 主役の少年イーノック(=ヘンリー・ホッパー←デニス・ホッパーの息子)と少女アナベル(=ミア・ワシコウスカ)が美しい。
 人を愛することを通して、愛する人を失うことを通して、「生」の素晴らしさを知るという、ストーリーそのものが美しい。


 いい映画、いい監督の特徴として、「なんてことのないシーンやショットではからずも落涙する」というのがある。
 愛する者との別れのシーン、いろいろゴタゴタあったあとでの再会シーン、あるいは心の奥底からの告白シーンなどで観る者を泣かせることはたやすい。それは、観る者の中にあらかじめ物語に酔うための仕掛けが備わっているからである。人はどんなときに泣くべきかを学習して育つ。
 だから、映画を観ていて「なんでこんなところで涙が出てくるんだろう?」と思う時、それは脳内に構築されている物語の仕掛けを、超えた、裏切った、驚かした、瞬間なのである。
 視覚流動芸術たる映画の有する、文学とは違う、最たる魅力はそこにある。

 主人公のイーノックだけに見える太平洋戦争で亡くなった日本の特攻隊員ヒロシ(=加瀬亮)の幽霊は、孤独なイーノックの作り出した想像上の友人であり、ある意味でヒロシの分身である。「死」に対するイーノックの憧れがこの幽霊を出現させている。ヒロシはまた、アナベルとの出会いによってかき動かされていくイーノックの心情を観る者に伝えるための装置であり、物語全体の狂言回しのような役割を果たしている。

 両親の墓の前でイーノックはヒロシと喧嘩して失神する。これはつまり自殺未遂であろう。病院に運ばれたイーノックのベッドサイドに、ヒロシが現れ謝罪する。
 ヒロシはおもむろに胸ポケットから黄ばんだ古い封筒を取り出す。


 この瞬間、はからずも、落涙したのである。

 それは、ヒロシの持つ手紙の内容のためではない。(それは最後に明かされる) 銃後の恋人や母親からの(への)感動的な手紙だろうと想像したからでもない。胸元から取り出す所作そのものの不意打ち感に撃たれたのである。

 狂言回しに過ぎなかった謎めいた存在であったヒロシが、手紙という事物に象徴される人間関係を持つ存在であった、つまり幽霊から人間になった、ことの驚きなのだろうと思われる。
 その瞬間、イーノックの心の中だけに生きていた虚構がリアリティを持って世界に立ち現れたのである。


 なぜそれが落涙につながるのか。
 虚構と現実のはざまを生きていた幼い頃を記憶している脳細胞に電気信号がつながるからであろうか。
 虚構が現実になることの有り難さ(=不可能性)に悲痛な思いを抱かされるからであろうか。



評価: B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


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