2005年アメリカ映画。

 原題は『The Quiet(静寂)』。

 愛する父親を交通事故で失った少女ドットは、ショックから耳が聞こえなくなってしまう。孤児になったドットは、両親と住むいとこのニーナの家に引き取られる。
 ドットの静寂の周りで、事件が起こり始める。

 まず、ドット役のカミーラ・ベルが光っている。  
 ウィキによると、

カミーラ・ベルカミーラ・ベル(Camilla Belle、本名:カミーラ・ベル・ルース、Camilla Belle Routh1986 年10月2日 - )は、アメリカ合衆国女優。 2010年12月14日、米映画専門サイト Independent Criticsが発表した2010年度版の 「最も美しい顔トップ100」で1位になった。

 ということだが、実際、黒髪に陶器のような白い肌、どことなく哀しげな瞳、横顔のラインが高貴で美しい。存在感も演技力もある。いまのところメジャーな作品での主役はないようだが、これからが楽しみな女優である。

 この作品は一言で言うと、「娘による父親殺し」の物語である。
 ドットは、いとこのニーナが実の父親ポールに性的虐待を受けているのを知る。ニーナの苦しみを黙って(quietly)見ていられなくなったドットは、ついにある晩、ニーナに暴行を加えようとするポールを背後からピアノ線で絞め殺す。
 
 現象的には、ドットが殺めたのは血のつながらない義理の父であるが、これは殺意を持ちながらも実行にうつせなかった実の娘ニーナの肩代わりをしたのであり、ニーナによる父親殺しと言ってよいだろう。
 一方、失った父親との思い出の中に閉じこめられて周囲との関係を拒絶しているドットは、ニーナの父親を殺すことで、自らの心の中の父親(あるいは父という理想)を殺して思い出の殻を破って言葉を取り戻す。

 二人の娘によるそれぞれの「父親殺し」。

 これまでの映画の中で、ほとんど見られなかったテーマであろう。
 息子による父親殺しの物語は掃いて捨てるほどある。それによって、男は一人前の「男」として自立する。娘による母親殺しの物語は聞かないが、女は子供を産み自らが母親になることによって一人前の「女」となるので、特に実の母親と闘う必要がない。
 同性の親を殺す、あるいは同性の親からの束縛のくびきを打ち破り成長する。このテーマは西洋の物語の類型として馴染みである。(物騒な誤解を避けるために言うと、「殺す」とは文字通り命を奪うこと(だけ)ではなく、親を「理解する、乗り越える、同じ人として見られるようになる」という視点の変化の比喩である。)

 一方で、息子による母親殺し、娘による父親殺しは、あまり問われてこなかった。異性の親を殺す必要性が考えられなかった。必然性がなかったのであろう。
 その意味するところはなんだろうか?

 フロイト的に言えば、子供にとって異性の親との関係は、将来の自らのパートナーとの関係のリハーサルというか、依存関係の原型を造るものである。男の子は母親の胸から離れて、女の恋人の乳房に吸い付く。女の子は父親の手から離れて、男の恋人の手に抱かれる。それは、依存相手を差し替えるだけの、成長と言うにも足らない文化様式の一つである。
 だが、それによってこの社会、この異性愛社会は回ってきたし、回っているのである。

 それぞれの父親を殺したあと、ニーナとドットの二人が仲良く並んでピアノを弾く姿に、レズビアニズムの匂いを感じとったのはいきすぎだろうか。
 そう思って、ジャイミー・バビット監督についてウィキで調べてみた。

『Lの世界』シーズン4&5の監督チームに加わる。自身の長編映画『Go!Go!チアーズ』(’99)と『Itty Bitty Titty Committee』(’07)や、ドラマ『アグリー・ベティ』(’06)、『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』(’03)、『ゴシップ・ガール』(’07)などの監督のひとりとしても知られる。14年来のパートナーで映画プロデューサーのアンドレアと、人工授精でふたりの女の子を出産。2007年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にもゲストとして招かれた。


 我ながら自分の直感が怖い。



評価: B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」 
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!