2015年アメリカ、カナダ製作。

 『パンズ・ラビリンス』(2006年)の魔術的映像で名を馳せたギレルモ・デル・トロ監督によるゴシックホラー。
 CG技術と撮影技術の高さ、シュールな色彩感覚が一番の見物である。ストーリーそのものは陳腐であり、ケイト・ベッキンセールの類まれなる美貌と裸体がまぶしい『月下の恋』(1995年)の二番煎じに過ぎない。
 役者では、主人公を陥れるシャープ家の姉ルシールを演じるジェシカ・チャステインの冷たく研ぎ澄まされた美貌と、正体がばれた後の憎悪と狂気の入り混じった鬼気迫る演技に圧倒される。『悪霊島』(1981年、篠田正浩監督)の岩下志麻を連想した。
 
 ゴシックロマンス(小説・映画)になくてはならない要素を上げると次のようになる。
1.古いお城、洋館、廃墟(やっぱりヨーロッパが本場)
2.超自然現象(怪奇現象、ミステリー)
3.過去の悲劇(因縁、宿命、情念)
4. キリスト教文化(神、悪魔、悪魔祓い、十字架等々)  
 
 ゴシックロマンスの先駆は、イギリスの小説家ホレス・ウォルポールの『オトラント城奇譚』(1764年)とされている。それから、アン・ラドクリフの『ユードルフォの秘密』、マシュー・ルイスの『マンク』など現在ではまず読まれない傑作を経て、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』(1818年)、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』(1897年)といった現在でも高い人気を誇るキャラを擁し繰り返し映像化される傑作の登場を待って、一つの分野として確立したと言うことができよう。
 ソルティは基本ゴシックロマンス愛好者である。が、上記に上げた小説は『ドラキュラ』以外は読んでいない。やはり、19世紀の小説は長くて描写が(情景も心理も)くどすぎて、読んでいて疲れる。テレビや映画の世紀に生まれた人間の生理的感覚ゆえだろう。
 ソルティがゴシックロマンスといって想起するのは、『アッシャー家の崩壊』をはじめとするポーの短編小説群、オペラ『ランメルモールのルチア』、ミステリー史上の大傑作『薔薇の名前』、ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』、そして、なんと言ってもわれらがモー様こと萩尾望都の漫画『ポーの一族』にとどめを刺す。
 とくに、『ポーの一族』には、ソルティがゴシックロマンスに求め期待するすべてが含まれている。上の4つに加えるならば、
 
5. 美しさと哀しみ
6. 失われたもの(人・場所・習慣・文化・時間・若さ・無垢など)への愛惜

 で、ゴシックロマンスととCG技術というのがどうにも相性が良くない。一方は過去志向、一方は未来志向――ベクトルが相反するように思う。
 この『クリムゾン・ピーク』には、ソルティが望む上記1~6の理想的なゴシックロマンスの条件のうち「4. キリスト教文化」と「6. 失われたものへの愛惜」が欠けている。「5.美しさと哀しみ」も不足している。その上に、CGだらけ。
 ゴシック映画というよりなんとなくSF映画のような気がしてしまうのは、ヒロインと死闘を演じるジェシカ・チャステインの姿がエイリアンかジェイソンのように思えてしまうのは、それゆえではないかと思う。(最後の最後ににもう一度蘇るかと思った。)

 いつの日か『ポーの一族』が映像化される折には、なるべくCGを多用しないでほしいものだ。


評価:C+


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!