2011年オーストラリア映画。
1992年から1999年にかけてオーストラリア南部で実際に起きた男女11人連続殺人事件をもとに作られた映画である。
なにより印象に残るのは、犯人たちの残虐性と殺害行為のエグさである。見ているこちらの体の一部まで痛くなるような拷問シーンはR指定も当然だろう。それでも映画として一般公開できるほどには表現は抑えられているわけだ。実際にあった行為は作品を上回るむごたらしさであったらしい。
鬼畜という言葉こそ犯人達にふさわしい。
こういう映画を観ると、いや、こういう猟奇的な殺人事件に接すると、自分の死刑廃止論もぐらつく思いがする。この事件の主犯ジョン・バンティングなぞ「何度死刑にしても殺し足りない」ような気がしてくる。被害者の中にはジョンが憎悪する小児性愛者や同性愛者もいたようであるが、そのどちらでもない者も含まれていた。いや、小児性愛者や同性愛者だからと言って個人が個人を裁いて暴力で罰していいわけがない。それもただ命を奪うというだけではない。簡単には殺さずに、拷問の苦痛や死の恐怖を極限まで味あわせたのである。実際の事件記事をあたると、ジョンらは生きている被害者のペニスや睾丸をつぶしたりしていたらしい。男なら、聞くだけで金玉が縮む怖さである。(映画ではさすがにそのものズバリのシーンはない。)
ジョン役の俳優ダニエル・ヘンシュオールが童顔で柔和な顔立ちをしていて、一見とても凶悪犯には見えないところが、かえって恐ろしさを増す。「あの声で蜥蜴食らうかほととぎす」という俳句が浮かんでくるようなギャップに不気味さが募る。
映画では触れられていないし、実際の事件の背景も調べてはいないが、おそらくジョンは幼少時に親族からの性的虐待を受けていることだろう。それが長じてこのような犯罪を起こす要因になっていると推測がつく。いかにも凶悪犯らしい容貌の役者を選ばずに、「子供の頃可愛いかったろうなあ」と思わせる役者をわざわざキャスティングしたのは、そんな因果を観る者に思い至らせるためであろうか。(読み過ぎか)
しかしこの映画の主役はジョンでなく、ジョンの義理の息子ジェイミーである。
心優しく気の弱いジェイミーは、隣人から性的虐待を受けていた。それがアクの強い義理の父親の登場で次第に感化されていく。ジョンに気に入られるため、ジョンに認められるために、ジョンの狂信的とも言えるペドフォビア(小児性愛者嫌悪)に同調し、凄まじさを増していく暴力行為に荷担していく。
この‘洗脳’過程をリアリティをもって描いている。
精神医学用語の一つに「ストックホルム症候群」というのがある。
「犯罪被害者が犯人と一時的に時間や場所を共有することによって、過度の同情さらには好意等の特別な依存感情を抱くことをいう。」(ウィキペディアより抜粋)
ジェイミーのジョンに対する関係もそれに近いものがある。というより、すべての子供は両親に対して大なり小なり「ストックホルム症候群」の被害者と言える。そこには圧倒的な力関係の差があり、かつその関係から逃れられないのだから。親に依存する、過度に同情するのは無理からぬことだ。そうした関係の中で、親が徹底的に利己的で子供を己の利用手段以上に考えていなかったとしたら悲惨である。子供は親の好意を得るためにどんなことだってやるだろう。(例えば、当たり屋。)
父親のいない、気の弱いジェイミーにとって、押しの強い気性の荒いジョンは畏怖の対象であると同時に、憧れでもあったろう。犬を撃ち殺すことができなかったジェイミーが、最後には友人をだまして監禁して殺害する首謀者にまでなっていく過程を見ると、思春期の可塑性という以上に、洗脳されやすい性格の持ち主であるところに因が潜んでいるように思う。
そのようにして凶悪犯になってしまったジェイミーに対して、観る者は怒りや恐怖や憎しみよりは、憐れみを持つのではないだろうか。ジェイミーの置かれていた境遇に、たまたまジョンという男と縁を持ってしまった不幸に同情するのではないだろうか。
そこに情状酌量の余地はないものだろうか。
そして、ジョンもまたかつては一人の「ジェイミー」であったと想像する余地はないものだろうか。
評価:B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!
1992年から1999年にかけてオーストラリア南部で実際に起きた男女11人連続殺人事件をもとに作られた映画である。
なにより印象に残るのは、犯人たちの残虐性と殺害行為のエグさである。見ているこちらの体の一部まで痛くなるような拷問シーンはR指定も当然だろう。それでも映画として一般公開できるほどには表現は抑えられているわけだ。実際にあった行為は作品を上回るむごたらしさであったらしい。
鬼畜という言葉こそ犯人達にふさわしい。
こういう映画を観ると、いや、こういう猟奇的な殺人事件に接すると、自分の死刑廃止論もぐらつく思いがする。この事件の主犯ジョン・バンティングなぞ「何度死刑にしても殺し足りない」ような気がしてくる。被害者の中にはジョンが憎悪する小児性愛者や同性愛者もいたようであるが、そのどちらでもない者も含まれていた。いや、小児性愛者や同性愛者だからと言って個人が個人を裁いて暴力で罰していいわけがない。それもただ命を奪うというだけではない。簡単には殺さずに、拷問の苦痛や死の恐怖を極限まで味あわせたのである。実際の事件記事をあたると、ジョンらは生きている被害者のペニスや睾丸をつぶしたりしていたらしい。男なら、聞くだけで金玉が縮む怖さである。(映画ではさすがにそのものズバリのシーンはない。)
ジョン役の俳優ダニエル・ヘンシュオールが童顔で柔和な顔立ちをしていて、一見とても凶悪犯には見えないところが、かえって恐ろしさを増す。「あの声で蜥蜴食らうかほととぎす」という俳句が浮かんでくるようなギャップに不気味さが募る。
映画では触れられていないし、実際の事件の背景も調べてはいないが、おそらくジョンは幼少時に親族からの性的虐待を受けていることだろう。それが長じてこのような犯罪を起こす要因になっていると推測がつく。いかにも凶悪犯らしい容貌の役者を選ばずに、「子供の頃可愛いかったろうなあ」と思わせる役者をわざわざキャスティングしたのは、そんな因果を観る者に思い至らせるためであろうか。(読み過ぎか)
しかしこの映画の主役はジョンでなく、ジョンの義理の息子ジェイミーである。
心優しく気の弱いジェイミーは、隣人から性的虐待を受けていた。それがアクの強い義理の父親の登場で次第に感化されていく。ジョンに気に入られるため、ジョンに認められるために、ジョンの狂信的とも言えるペドフォビア(小児性愛者嫌悪)に同調し、凄まじさを増していく暴力行為に荷担していく。
この‘洗脳’過程をリアリティをもって描いている。
精神医学用語の一つに「ストックホルム症候群」というのがある。
「犯罪被害者が犯人と一時的に時間や場所を共有することによって、過度の同情さらには好意等の特別な依存感情を抱くことをいう。」(ウィキペディアより抜粋)
ジェイミーのジョンに対する関係もそれに近いものがある。というより、すべての子供は両親に対して大なり小なり「ストックホルム症候群」の被害者と言える。そこには圧倒的な力関係の差があり、かつその関係から逃れられないのだから。親に依存する、過度に同情するのは無理からぬことだ。そうした関係の中で、親が徹底的に利己的で子供を己の利用手段以上に考えていなかったとしたら悲惨である。子供は親の好意を得るためにどんなことだってやるだろう。(例えば、当たり屋。)
父親のいない、気の弱いジェイミーにとって、押しの強い気性の荒いジョンは畏怖の対象であると同時に、憧れでもあったろう。犬を撃ち殺すことができなかったジェイミーが、最後には友人をだまして監禁して殺害する首謀者にまでなっていく過程を見ると、思春期の可塑性という以上に、洗脳されやすい性格の持ち主であるところに因が潜んでいるように思う。
そのようにして凶悪犯になってしまったジェイミーに対して、観る者は怒りや恐怖や憎しみよりは、憐れみを持つのではないだろうか。ジェイミーの置かれていた境遇に、たまたまジョンという男と縁を持ってしまった不幸に同情するのではないだろうか。
そこに情状酌量の余地はないものだろうか。
そして、ジョンもまたかつては一人の「ジェイミー」であったと想像する余地はないものだろうか。
評価:B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!