ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

ジュード・ロウ

● 宿敵はワトソン 映画:『シャーロック・ホームズ』(ガイ・リッチー監督)

 2009年イギリス・アメリカ共同制作。

 主要キャラクターの設定をコナン・ドイルから借りているが、ストーリー自体はまったくのオリジナルである。同じストーリーを、そのために新しく創造したキャラクター達で演じたとしたら、これほどの面白みも人気も出なかっただろう。ホームズ、ワトソン、アイリーン・アドラー、レストレード警部、モリアティ教授、ハドソン夫人・・・。ドイルの創造したキャラクターの尽きせぬ魅力と彼等に対する読者の熱い人気が、この作品を成功に導いたのは間違いない。その意味で成功の60%以上はドイルに帰すべきである。


 推理とアクションとサスペンスと友情ドラマとCGと19世紀ロンドンの風景とをバランス良く楽しめる。
 ワトソン役のジュード・ロウが良い。ホームズの引き立て役として愚鈍で愚直な男として設定されることの多いワトソンのイメージを一新する色男ぶり。下手すると主役のロバート・ダウニー・Jr.を食いかねない魅力を打ちだしている。いや、もしかしたらこれまでのホームズもの史上もっとも魅力に富んだワトソンかもしれない。
 宿敵モリアティとの闘いがテーマとなる第2作はすでに作られたが、第3作はどうだろう?
 そろそろロバートがへそを曲げるのではないだろうか?
 ワトソンが目立ちすぎるのも考えものだ。



評価:C+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
      

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

● 映画:『コンテイジョン』(スティーヴン・ソダーバーグ監督)

 2011年アメリカ。

 コンテイジョン(contagion)とは「接触感染」のこと。水・空気・昆虫などを媒介とした感染はインフェクション(infection)と言う。
 人から人へ接触により感染し、感染者の20%が発病、脳を破壊し苦しみながらの死に至らしめる新種のウイルスと、人類との(と言ってももちろんアメリカ人だが)壮絶な闘いを描いたサスペンス&パニック。

 マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン(『マトリックス』のモーフィアス)、グウィネス・パルトロー、ケイト・ウィンスレット、ジュード・ロウら錚々たる顔ぶれが出演している。それぞれが演技者として一流なので、しっかりと役づくりして登場人物にリアリティを与えているので、単なる話題づくりの大スター競演に終わっていない。脚本も演出もテンポも撮影も破綻無く安定している。ドラマとして見ごたえ十分。さすがソダーバーグ。手練れである。
 随所に差し挟まれる小津安二郎ばりの無人ショットに、オスカーを契機に商業主義に走った感のあるこの監督の「やはり根は生粋の映画人」を感じた。『セックスと嘘とビデオテープ』を引きさげ史上最年少(26歳)にしてカンヌ映画祭パルムドールを獲ったのはまぐれではない。


 ところで、現代の感染症の中で最もよく知られ世界に大きな被害をもたらし、いまだにワクチン(完治法)が見つかっていないものと言えばHIV感染症/エイズである。
 2011末現在、WHO(世界保健機関)の報告では全世界の感染者数は3400万人、新規HIV感染者数は年間250万人、エイズによる死亡者数は年間170万人である。1981年に最初のエイズ患者が報告されて以来これまでに死亡した人は2500万人と推定されている。今も更新し続けている。
「死に至る不治の病」という初期のイメージだけでなく、性感染症という性質を有しているためもあって、この病気には様々な偏見が付随する。曰く「ふしだらな人がかかる病」「同性愛者や麻薬中毒患者の業病」「不特定多数の人とつきあわなければ大丈夫」e.t.c. こうした誤解は感染防止の障害になると同時に、感染者に対する差別を生み出してきた。世界でも日本でも。
 その意味で「恐い病気」というイメージが強い。
 自分がボランティアで関わっているHIV啓発活動の現場おいても、エイズについて間違った情報、否定的なイメージを持っている沢山の人と出会う。とりわけ、ネットの不確かな情報に振り回されて不安に陥ったりノイローゼになっている若者が目立つ。


 だが、HIVは正味のところ、それほど恐い感染症ではない。
 なぜなら、ウイルスの正体は分かっており、ウイルスのいる場所は特定されており、感染経路がはっきりしており、すなわち確実に予防し得るからである。加えて、感染確率は梅毒やクラミジアやB型肝炎など他の性感染症と較べると非常に低い。(B型肝炎の100分の1)
 そのうえ、先進国ではウイルスの増殖を抑える薬の開発によって、HIVに感染してもエイズを発病することがなくなりつつある。体内からHIVを排除することはできないけれど、ウイルスをコントロールしながら社会生活を送ることは可能である。もはや「死の病」ではない。
 HIVが空気感染や飛沫感染、あるいはこの映画の主役たるウイルスのように握手でも簡単にうつるのであれば、世界は今頃滅亡していただろう。ウイルス発見から有効な抗HIV薬の開発まで15年のギャップがあったのだから。医療行為を除けば、性行為や麻薬の回し打ちでしかうつらないHIVの性質に人類は救われたのである。
 だが、考えてみるとHIVは「ヒト免疫不全ウイルス」というその名が示すとおり、人の体内でしか生きられない。つまり、人類の絶滅と共に彼らも絶滅するのである。宿主を絶滅させないよう配慮しながら仲間を増やしていくことを狙ったときに、性行為を感染経路にするというのは生物的に極めて賢い戦略と言うべきだろう。人間の性欲に目をつけたところが凄い。
 ある意味、煩悩こそがHIVの温床なのである。

 いや、煩悩は関係ない。感染者および感染しているかどうか分からない相手とセックスするときにはコンドームを使えばいいじゃないか、という反論も予期できるけれど、自分の場合を考えてみても、ボランティアで出会ってきた沢山の感染不安者のケースを思い出してみても、愛欲に執りつかれている時には予防も病気の怖さもふっとんでしまうのが一般である。理性と性欲は両立しない。

「ウイルスと人類との闘い」と言えばカッコがつくけれど、その実態は「人類とその果てなき欲望との闘い」なのである。
 HIVに限らない。
 この映画のラストシーンで、未知のウイルスが人間に感染する「第一日」の瞬間が映し出される。
 まさに因果応報である。



評価:B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
  
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


● 映画:『こわれゆく世界の中で』(アンソニー・ミンゲラ監督)

 2006年イギリス、アメリカ共同制作。

 観終わって、「大人の映画、大人の恋愛」と真っ先に感じるのである。
 欧米、とくにヨーロッパの映画を観て、そう思うことは多い。
 疑問なのは、イギリスやアメリカの鑑賞者たちも同じように感じるのだろうか。つまり、イギリスやアメリカの大人たちも、この映画を見て「大人の映画、大人の恋愛」とあえて思うのであろうか?

 日本人の大人である自分がこの映画を観て、「大人である」が他の何より印象として残るのは、日本の映画に出てくる大人たちや大人の男女の恋愛描写と無意識のうちに比べているからであり、その結果、日本のそれはまるっきり「子供のように」思えるからである。

 では、いったい自分は何を持って「大人」としているのだろう?
 
 大人とは個人として自立(自律)していることであり、大人の関係とは自立(自律)した個人と個人とが、それぞれの「個」をぶつけあいながら、活かしあいながら、支えあいながら、共生していく方法を見つけることである。

 おそらく、自分自身のこういった考えは、近代西洋的価値観にすっかり洗脳されている証拠であろう。
 別に、前近代(たとえば江戸時代)の日本の「大人」像や、イスラム社会の「大人」像(どんなものなのかよくわからないが)を、「大人」としてもいいのだから。

 ともあれ。
 このような「自立した個=大人」としての概念及び実質があるからこそ、この映画のタイトルの意味が生きてくるのであろう。
 Breaking and Entering(壊すこと、関わること)とは、文字通り、ボスニア難民として母親と二人でイギリスにやって来た少年ミロが、主人公ウィル(ジュード・ロウ)の事務所のガラスを破って(Break)、中に押し入る(enter)こと、すなわち強盗を働くことを意味している。と同時に、「個人」という厚い堅い壁に囲われて、互いのなまの心に触れあえなくなっている夫婦や親子や恋人たちの状況について、ミンゲラ監督が最期に送ったメッセージなのであろう。そう、ミンゲラ監督はこの映画を撮った2年後に54才の若さでガンで亡くなったのである。
 
 自らの殻を破れ、相手と関わることを避けるな。
 さもなくば、孤独からの解放もなく、愛もなく、新生もない。

 力強いメッセージである。
 しかるに、2005年にオスカーを取った『クラッシュ』(ポール・ハギス監督)が見事に表現したように、現代人にとって相手と深く関われる手段が、「セックスか暴力か事故」に限られてしまっているところが何とも皮肉というか悲劇的なのである。
 
 ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペンをはじめ、役者も脚本もすばらしく、見応えがある。




評価: B-

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 

「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。

「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」 「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。

「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。

「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」 「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)

「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。

「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった

「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


 
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