ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

ジョナサン・グレイザー

● たかがスキン 映画:『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(ジョナサン・グレイザー監督)

2014年イギリス・アメリカ・スイス合作。
 
 監督は、ニコール・キッドマン主演『記憶の棘』(2004年)のジョナサン・グレイザー。
 前作同様、映像の美しさ、艶やかさ、独特の品格あるスタイルが特徴的。
 この監督、凡ではない。
 
 宇宙人の地球侵略ものという意味ではSFスリラーの範疇に入るのだが、妙に文学性のある象徴性の高い作品である。
 地球人のスキン(皮膚)を収集し、それをまとうことで地球人に化けて仲間を増やしていく宇宙人。その由来や生態や能力は最後まで明かされない。
 美しい地球人女性のスキンを被った主役の宇宙人(=スカーレット・ヨハンセン)は、その美貌と若さあふれる悩殺ボディを武器に、来る日も来る日も町を車で流しながら、独り者の男を物色していく。
 逆ナンである。
 簡単に引っかかっていく男たち。
 どこか漆黒の部屋の中、一枚一枚服を脱いで裸体(スキン)をあらわにしてゆく女を、自らも裸になりながら憑かれたように追っていく男たちは、知らない間に黒い液状の捕獲罠にずぶずぶと嵌まっていく。沼底には、生け捕られた裸の男たちが琥珀の中の昆虫のごとく浮かんでいる。文字通り身(スキン)ぐるみ剥がされるのを待ちながら・・・。
 
 男達が罠に落ちていくシーンの描かれ方が、なんというか象徴的、‘能’的である。
 地球人捕食の瞬間を、よぶんな描写や背景や会話やサービスショットをいっさい省いた、最少の演出とカット割りと演技で描いている。暗闇に残されるのは、二人の脱ぎ捨てた衣服だけ。
 見ていて連想するのは、本邦の増村保造『盲獣』(1969年)、加藤泰『陰獣』(1977年)といった江戸川乱歩作品である。乱歩特有のエログロ淫靡な世界を、シュールレアリズムのごとモダンな切り口で捌きスクリーンに乗せた両天才を想起する。
 考えてみれば、若く逞しい男を物色して収集する孤独な女の姿は、美輪明宏演じる『黒蜥蜴』(くろとかげ)に重なる。人間の皮を剥いで被るという発想も、なんだか乱歩っぽい。
 
 象徴的なのは、この映画がスキン(皮膚)をめぐる物語というところにもある。
 
①宇宙人(女の形をしているが実のところ性別があるか否かも不明)は、人間のスキンを欲している。中味は――皮膚の下にある内臓や骨や筋肉はもちろん、心(ハート)も――必要でないし、関心もない。ただスキンを得る為に、女は自らのスキン(外見)を利用する。当然、罪悪感のかけらもない。
 一方、男達は女のスキンに魅了される。スキンを欲して罠に落ちていく。性欲に突き動かされている彼等は、女の「スキンの下にあるもの(Under the Skin)=心」にはとりあえず興味が無い。
 ここまでは互いのスキンを欲する者同士のフィフティ・フィフティのアバンチュールと言えなくもない。結果はともかく、少なくとも動機においては。

②女は、ある不具の男との出会いをきっかけに、スキンの下にあるもの(=心)に目覚める。
 それはおそらく、生まれてから一度も女性の体(スキン)に触れたことの無い、また自身も他者によって触れられたことの無い不具の男が欲しているものが、単なるスキンではなく、それ以上であったことによるものと思われる。 女に何らかの変容が起こり、一度捕獲した不具の男を逃がす。
 ‘心=感情’を獲得していくことによって、女は宇宙人として、捕獲者として、脱落していく。バスの中で出会った男と愛し合うようになるが、女の体はもともとセックスするようにはできていない。

③絶望して森の中を彷徨う女を、一人の男がレイプしようとする。
 せっかくのチャンスなのに、女は男を捕食しようとしない。地球の女のように逃げ回り、抵抗する。
 男は女を捕らえ、乱暴に衣服を破り、一緒にスキンも破ってしまう。
 肌の裂け目から、宇宙人の本来の黒い肌が現われる。
 
④スキンの下にあるものを見た男は、恐怖に襲われ、女を焼き殺す。 

 以上のストーリーは寓意としてこんなふうに読める。

①男も女も互いにスキン(=性欲)だけを求めているとき、男は女の手玉に取られる。男は性欲には勝てない。
②男がスキンの下にあるもの(=心)を求めたとき、女は男にほだされる。女にとってもはや男のスキン(=外見)は二の次である。
③スキンの下にあるもの(=心)を求める女は、男の餌食になりやすい。
④スキンの下にあるもの(=他者)を見た男は、恐怖に襲われる。
 
 アンダー・ザ・スキンというタイトルは一種の皮肉であろう。
 オンリー・ザ・スキンというのが内容的には正確である。
 人の美醜はほんの数ミリの皮膚一枚と言う。そこに人間は翻弄される。
 
 たかがスキン。されどスキン。
 
 
 
評価:B-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!




 
 
 
  

● 映画:『記憶の棘』(ジョナサン・グレイザー監督)

 2004年アメリカ映画。

 統計によると、アメリカ人の4人に1人は輪廻転生(生まれ変わり)を信じているという。キリスト教徒に限っても5人に1人が信じているらしい。(出典はホームページ「忘却からの帰還」http://transact.seesaa.net/article/59854004.html

 そりゃ、キリスト教徒じゃないだろう!

 と、つっこみたくなる。
 もっとも、原始キリスト教時代、イエスは輪廻転生を説いていたという説もある。(この地下水脈は中世フランスにおいてカタリ派となって表に現れ出でて異端として虐殺される。隣人愛も何もあったもんじゃない。)

 NHKが2008年に行った調査では、日本人の約4割が輪廻転生を信じている。(出典は「NHK放送文化研究所」ホームページttp://www.nhk.or.jp/bunken/research/title/month/2009/2009_05/index.html

 一応仏教国の日本で信じる人が多いのは分かるが、なぜキリスト教国のアメリカ人が・・・?と不思議になるが、英国の調査でも同じような結果が出ている。
 つまり、どの先進国の国民も3~4割は輪廻転生派なのではないだろうか。(チベットやタイやミャンマーならもちろん100%近いだろう。)

 この映画は、輪廻転生をモチーフとした‘恋愛映画’である。
 ‘   ’をつけざるをえないのは、恋愛関係に陥るのがアナ(ニコール・キッドマン)とショーン(キャメロン・ブライト)だからであり、キャメロン・ブライトは10歳の少年だからである。
 10歳の少年が突然目の前に現れて、「ぼくはあなたの夫だった」と告げ、二人の間でしか分からないような秘密の出来事を話し出す。アナは混乱の極みに置かれてしまう。
 果たして、少年は本当に夫の生まれ変わりなのか。

 品格のある大人のミステリーである。
 この品格を作り出しているのは、長回しを多用した撮影(ニコールのアップを延々1分以上も映しているだけのシーンがある!)であり、室内装飾の優美さに見られるような美術の素晴らしさであり、なんといってもアナ(=ニコール)の母親を演じる往年の大女優ローレン・バコールの風格である。画面にいるだけで作品そのものをグレイドアップするさすがの存在感である。
 伏線の張り方もうまい。
 
 大人の男の心を持った少年を巧みに演じたキャメロン・ブライトは、今や20歳目前である。どんな男に成長しているのか、追ってみたいと思わせるに十分な、独特の雰囲気のある子役ぶりである。

 考えてみると役者稼業というのが、あるキャラから別のキャラへと着ぐるみを替えていく輪廻転生ゲームみたいなものであるよな。


評価: B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

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