高慢と偏見とゾンビ2009年刊行。2010年翻訳版発行。

 ブック・オフで100円で購入。(元価は1000円)

 ジェイン・オースティンは好きな小説家の一人である。
 代表作である『高慢と偏見』はもちろん読んでいるし、映画化されたものも、グリア・ガースン&ローレンス・オリヴィエ主演(ロバート・レオナード監督、1940年アメリカ)と、キーラ・ナイトレイ&マシュー・マクファディン主演(ジョー・ライト監督、2005年イギリス)の二つを観ている。どちらも良い出来栄えであった。
 イギリス文学の古典的名作という評判に敬遠したくなる向きもあるかと思うが、『高慢と偏見』は抜群に面白い恋愛&風俗&ユーモア小説なのである。「人生で読まなきゃ損」という小説を上げろと言われたら、十指に入るかもしれない。

 その古典をなんと換骨奪胎した上に、ゾンビをあまた投入して爆笑ホラーに仕立ててしまったのがこの本。
 まったく草葉の陰のオースティンも、怒りか驚きか感激かわからぬが、骸骨姿で墓の下から這い出てくるのではないかという抱腹絶倒の衝撃的傑作に仕上がっている。
 
 主人公である淑女エリザベス・ベネットは、中国での厳しい修行の果てにマスターしたカンフーを武器に、18世紀末イギリスに跳梁跋扈するゾンビたちを退治していく。その胸のすくような男っぷりの良さに、大金持ちで広大壮麗なお屋敷を所有する高慢ちきな色男ダーシーもメロメロになっていく。
 
 不首尾な滑り出しに機嫌を損ねつつも、レディ・キャサリンは三人めにして最後のニンジャには大いに期待していた。三人のうちではもっとも腕が立つニンジャなのだ。しかし、彼女が指を鳴らすが早いか、エリザベスがドージョーの向こうからカタナを投げ、ニンジャは胸を貫かれ、背後の木の柱に釘付けにされた。エリザベスは目隠しをはずしてそちらに迫った。いま敵はカタナの柄を握り、息をしようとあえいでいる。エリザベスは容赦なく手刀を食らわせ、相手の胸郭内に手を突っ込んだ。それを引き抜いたとき、その手にはニンジャの心臓が握られていた。まだ脈打っている。レディ・キャサリンを除く全員がぞっとして顔をそむけるなか、エリザベスはそれにかぶりつき、あごから試合用ドレスに鮮血をしたたらせた。
「不思議ね」エリザベスはまだもぐもぐやりながら言った。「心臓はいくつも食べてきたけれど、やっぱり日本人の心臓は少し柔らかいような気がするわ」

 ブラボー、エリザベス!

 こんなおバカで素晴らしい芸当ができるのは、もちろん著作権が切れているから。
 日本の古典でもやったら面白いのに・・・。
 
『源氏物語とゾンビ』 ・・・六条御息所のゾンビが縦横無尽の大活躍。
『野菊の墓とゾンビ』 ・・・主演:松田聖子 友情出演:中森明菜
『人間失格とゾンビ』 ・・・蘇えってすみません。
『雪国とゾンビ』    ・・・国境の長いトンネルを抜けるとそこはゾンビ王国だった。

 こんな面白い小説に遭遇するから、読書はやめられない。