2003年アメリカ。

 いったん見始めた映画を途中で切り上げるのは、なかなか決断の要るものだ。
 「これから面白くなってくるかもしれない」「ここまで見たのだから、途中で止めたらもったいない」「最後まで観なければ批評する資格がない」・・・・など、見続けるための理由が頭をよぎってくる。

 「カンヌが熱狂、サンダンスが絶賛、アメリカ映画評論家支持率92%」というすこぶる評価の高い=ゆえに観る前の期待も高かったこの作品について、まさか途中で退屈するとは思わなかった。しかも、主人公の青年は自分と同じセクシャルマイノリティなのに・・・。

 ターネーション(TARNATION)は「天罰、神の呪い」ということらしいが、別に「酷評」という意味もある。カウエット監督、あらかじめ予防線を張っておいたのか。大衆にこんなにも熱く受け入れられるとは思っていなかったのだろう。
 そう思うのも無理はない。なにしろ、監督自身の壮絶な半生を、監督自ら出演しドキュメンタリータッチで描いた、まったくの個人史だから。

 このような「自分語り」の映画は、日本でも90年代中頃から流行りだしたように記憶している。だいたいが、映画学校で卒業制作を課された学生が「自分をテーマにしてみました」みたいなノリで作られて、その多くは凡庸な作品で終わるのだろうが、中には題材の新鮮さや切り込みの鋭さとで評判になったものもある。覚えているもので『ファザーレス』(茂野良弥監督、1999年公開)がある。

 近代の芸術家の表現とは、どうにもしようのない生きづらさを抱えている自己の魂の咆哮であり、遺書であり、死なないための自己表現である。とりわけ、デビュー作にその傾向が濃厚に情熱をもって表れる。映画ではないが、三島由紀夫『仮面の告白』とか村上龍『限りなく透明に近いブルー』とか。(だから、作家はデビュー作を越えられないと言われる。)
 つまるところ、いかなる芸術作品も「自分語り」に過ぎないのだが、それを技術や表現スタイルで調理し、ある程度普遍的な意味を持つところまで練り上げていくのが、芸術表現というものだろう。

 『ターネーション』を観ていて思わず呟いてしまったのは、「なんで見ず知らずのあんたの人生を見せられなければならないのか? 他人の人生になんか興味ねえよ。」
 が、そのあとですぐに気がついた。自分がいつも「好きこのんで」映画で観ているのは、まさに他人の人生そのものではないか。他人の人生に興味がなければ、とても映画なんか観られるわけがない。ドラマなんか観られるわけがない。
 そうなのだ。自分はジョナサン・カウエットという青年の人生に興味がないわけではない。それは、一風変わった刺激的な出来事の連続であるし、カウエット自身が大変な美少年→ハンサムだというビジュアルの楽しみもある。
 興味がないのは、「自分語り」そのものなのだ。それは、酒場で目の前の男が滔々と「自分語り」を始めたのにつきあわされていると思えばいい。
 その男に恋しているとか、何か下心があるとか、自分と同じような境遇で共感できるとかというのでなければ、とてもそのようなナルシシズムにつきあっていられないってのが本音だろう。
 
 『ターネーション』が多くの観客(と批評家)に迎えられたのは、なぜだろう?
 プロデュースしたガス・ヴァ・サント(『エレファント』『ミルク』)、ジョン・キャメロン・ミッチェル(『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』)の後光か。
 ジョナサン・カウエットのルックスか。(これはバカにできない。ジョナサンがもし醜かったら、この作品はまったく鑑賞に堪えないだろう)
 まさか観客(と批評家)がジョナサンの半生に共感したとも思えないが・・・。
 となると、自分自身を手術台に乗せて、自分自身がメスを握り、徹底的に自分と家族を解剖した、その勇気と大胆さと表現することへの飽くなき情熱ゆえか。
 ああ、そうか。技術とスタイルを追うことに躍起になって活力を失った映画界への覚醒の一発になったのかもしれない。

 カウエット監督のその後の動向が入ってこないのが気になるところである。



評価:C-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」        
         ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」        
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!