2015年アメリカ映画。

 原作はイギリス作家トム・ロブ・スミスのベストセラー『チャイルド44』。スターリン独裁政権下のソビエト連邦を舞台とするスリラーである。宝島社が主宰する「このミステリーがすごい!」海外編2009の1位に輝いている。
 原作は読んでいないので比較しようがないのだが、137分の長尺を飽きさせずに最後まで観させてしまう脚本と演出力と役者の演技は見事である。
 
 主演のMGB(ソ連国家保安省)の捜査官レオを演じるのはトム・ハーディ。『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』(スティーヴン・ナイト監督、2013年)での名演が記憶に新しい。ここでも「体制の手先として恐れられ、自らも体制に縛られながら、スパイ疑惑をかけられた妻をかばい、国家に命を狙われながら、少年少女連続猟奇殺人の犯人を追う」という、とうてい現実的とは言えないような難しい役柄を、それほど違和感を露呈させずに演じ通している。下手な役者なら、性格破綻者にしか見えないであろう。早い話、レオよ、お前この映画の中で一体何人の命を奪っている?
 妻ライーサを演じるノオミ・ラパスの熱演も光っている。
 猟奇殺人の解決に協力するネステロフ将軍役にゲイリー・オールドマンを配しているのは、ちょっとしたボーナスポイント。
 
 共産主義独裁政権下の恐怖や悲劇、およびそこに翻弄される人間たちのドラマを描き出したいのか、それとも44人の子供を殺めた猟奇殺人犯の追跡を描きたいのか、両者の間で焦点がぼやけてしまっているのが最大の欠点。つまり、そもそものプロット(設定)に無理がある。
 数字が重要でないことは重々承知しているものの、スターリンが支配した1930年から1953年に80万人近くが反革命罪で処刑されたと言われる。保身のためなら家族や同僚さえ売るような、いわゆる「大粛清」の時代にあって、一人の精神異常者によって殺された44人の子供の死がいかほどのものであろうか、と観る者はつい思ってしまうのである。(しかもこの時代のソ連では何百万人もが飢饉によって餓死している!)
 国家が殺す何百万人には目をつぶって、一人が殺す44人にやっきになる。
 「いや、そこはやっぱり子供は人類の宝だから」と言う言葉はあまりにそらぞらしい。

 
評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!