ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

チェン・ボーリン

● 台湾のゲイ 映画;『GF*BF 女朋友、男朋友』(ヤン・ヤーチェ監督)

2012年台湾。

 切なさと一抹の苦さとで胸がかきむしられるような青春映画。
 同じグイ・ルンメイ主演で、男女三人の恋愛トライアングルを描いた同じような設定の『藍色夏恋』(イ-・ツーイェン2002年)のバリエーションというか、別バージョンという感じである。
 『藍色夏恋』は、一人の男(チェン・ボーリン⇒一人のレズビアン(グイ・ルンメイ)⇒一人の女(リャン・シューホイ)⇒最初の男、という♂1:♀2のトライアングルだった。こちらは、一人の女(グイ・ルンメイ)⇒一人のゲイ(ジョセフ・チャン)⇒一人の男(リディアン・ボーン)⇒最初の女、という♀1:♂2のトライアングルである。どちらの作品も台湾でヒットして高評価を得ている。察するに、台湾社会はセクシュアルマイノリティに寛容(少なくとも日本より)なのだろうか。関係ないかもしれないが、台湾人はかつて自国を占領・支配した日本人に対して友好的だと言う。
 大らかな国民性?
 
 『藍色夏恋』が三人の青春時代だけの活写で終わっているのにくらべ、『GF*BF』は戒厳令下にあった1985年から2012年までの激動の台湾社会を背景に、10代から40代に至る三人の変貌を描いている。そのため、後者のほうがより人生ドラマの趣きが強い。と同時に、青春の挫折というテーマが加味されて、大人になることの苦味が鑑賞後に残る。
 
 大学時代の三人が、民主化を求めるデモに参加して盛り上がっているシーンがある。
 日本で言えば、全共闘あるいは今のSEALDsの若者たちを髣髴させる。大義をもって体制と闘うという市民運動的志とは別に、ああいった動乱の中で仲間と夜通し酒を飲みながら議論し喧嘩し、自己を確立し、友情を育て恋愛やセックスを覚えるという青春は、やっぱりそれ自体幸せなのではないだろうか。我々バブルの頃の若者のように、渋谷や新宿や六本木の繁華街やクラブで退屈をまぎらわすために夜通し騒ぐ繰り返しだけの青春(BGMは中森明菜『DESIRE』)よりも、鮮やかに記憶に残る思い出となるのではないか。
 若者たちに‘デモの中の青春’をプレゼントできるのは、大人たちの寛容さであり、社会の成熟さを示しているのではないだろうか。
 そんなことを考えた。
 
 登場人物のなかで、自分(ソルティ)が感情移入したのは、もちろんゲイの忠良(チョンリャン)である。
 ノンケの友人シンレン(♂)を好きになってもそれを打ち明けることができず、シンレンと自分の幼馴染メイパオ(♀)とが結ばれるのを傍らで指を咥えて見ていることしかできず、一人夜の街にセックス相手を探しに出かけるチャンリャン。成人してからは、妻子ある男との秘密の情事にひとり身をこがす。本命のシンレンは、「転向」して地位も金もある男の娘と結婚し家庭を持つ。シンレンの子を宿し断ち切れぬ関係に苦悩するメイパオの哀れな姿を鏡のように見て、チャンリャンははじめて自分のありのままの姿を知る。それは、叶うことない偽りの愛をひたすら渇望する‘倒錯した’おのれの性(さが)であった。
 
 クローゼットのゲイは、クローゼットのゲイとしか知り合えない。
 そこに未来はないのである。
 
 
評価:B-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 

 

●  映画:『暗いところで待ちあわせ』(天願大介監督)

 2006年公開。

 乙一の原作は読んでいないのだが、「原作(小説)と映画は別だ」ってことを確信させるレベルに達している映画である。

 だいたい120分を超える映画を観るのは、たとえ疲れたら画面を一時停止できる環境にある自宅であっても気合いが要るものである。ましてやホラーやアクションやコメディでないものは「物語」の中に入り込むまでに時間がかかる。身の回りを片付けて、飲み物と軽食の用意をして、ある程度部屋を暗くして、「さあ、見るぞ!」と再生ボタンを押すのである。それでも、最初の30分くらいはなかなか画面に集中できなかったりする。

 この作品。
 最初の10カットで引き込まれた。
 マジで。

 あ、映画がある・・・・・・と。

 それでもう十分である。
 原作がいかに素晴らしかろうが、ベストセラーであろうが、関係ない。
 なぜなら、物語が始まる前から、もうこちらは驚かされ、どぎまぎさせられ、これは純然たる映画だ、王道だ、と感服しているのだから。

 列車が撮れる、駅が撮れる、というのは、本物の映画監督かどうかを見分けるリトマス試験紙である。
 冒頭の駅のシーンで映画以外の何物でもない作品のクオリティに、まさにホームから突き落とされたかのような無抵抗に追いやられてしまった。

 小説の映画化、映像による「物語」のビジュアル化、なんて次元はとうに超えている。
 映像による「物語」からの逸脱、解放が、成し遂げられている。
 「読んでから観るか。観てから読むか。」なんて文句は完全にはずしている。

 ただ、ただ、映画である。

 主演の二人、盲目の少女役の田中麗奈も、胸がかきむしられるほど痛切な青春映画『藍色夏恋』(イー・ツーイェン監督、2002年)に出ていたイケメン青年チェン・ボーリンも、映画的時間と空間を体細胞に刻んでいるかのような的確な表現である。
 そのように演出した監督の手腕は言わずもがな。

 天願大介のこれまでの作品の中では一番だと思う。

 新作は、絶対「暗いところで(映画館)」で観るぞ。


評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


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