2009年角川映画。

 曹洞宗開祖、道元の生涯を描く。
 丁寧なつくりで映像も美しい。好感持てる作品に仕上がっている。
 役者は、誠実で真摯で清潔感ある「人間」道元を演じる主役の中村勘太郎も良いが、一番弟子にして生涯の友であった寂円を演じるテイ龍進が素晴らしい。印象的な表情といぶし銀のような渋さで映画全体を引き締めている。西宮出身というから在日○世ということだろうか。これからの活躍も楽しみなバイプレイヤーである。
 女郎あがりの尼おりんを演じる内田有紀は頑張っていると思うが、やはり現代的過ぎるし清潔すぎる。春を売って生きていくしかない女の腐れ感が表現し切れていない。田中裕子や大谷直子なら出せただろう。今の若い女優でそれができる人が思い浮かばん。

 伴明監督が意識したかどうかは分からないが、この映画はアッシジの聖フランチェスコの半生を描いたフランコ・ゼッフィレッリ監督『ブラザーサン・シスタームーン』(1973年)に似ている。
 悟りを開いた若者が賛同者を得ながらコミュニティ(宗派)を作っていく。既存の伝統的な宗教組織からの弾圧を受けて苦しむ。仲間の一人が性欲に苛まされて脱落(還俗)する。最後は遠路を旅して時の権力者(『ブラザーサン』ではアレック・ギネス演じるローマ法王、『禅』では藤原竜也演じる執権北条時頼)に面会し、自らの教えの正当性を保証してもらう。
 そっくりである。(もっとも『ブラザーサン』はゼッフィレッリのイケメン趣味横溢で同じ趣味を持つ観る者をして煩悩を喚起せしむるのであるが・・・。)

 それだけに道元の悟りのシーンにひと工夫欲しかった。

 一心不乱に、というか心身脱落で座禅を組む道元はついに悟りを得る。
 このときの表現を映像化するのは確かに困難である。「悟った~!」と、浮力の原理を発見したアルキメデスのように喜び勇んで走り回るのも悟達者として品位に欠けるし、表情や立ち居振る舞いやオーラーだけで観る者に分からせるには役者は本当に「悟る」しかあるまい。
 伴明監督、CGによる蓮の花の開花を使ったのである。蓮の花の開花はどちらかと言えばクンダリーニの上昇を意味する比喩である。悟りそのものとは関係ない。
 『ブラザーサン』では、十字軍の戦闘から負傷して帰還したフランチェスコが、回復の目覚めとともに窓辺に遊ぶ小鳥を見て悟りを開く。これは見事な悟りの瞬間の描写だとこの映画を観るたびに思う。ドノヴァンの美しい音楽に助けられているとは言え・・・。

 興味深いことに、道元(1200-1253)とフランチェスコ(1182-1226)はほぼ同時代に生きた。両者とも貴族の出である。
 いや、道元だけでなかった。法然(浄土宗)、栄西(臨済宗)、親鸞(浄土真宗)、日蓮(日蓮宗)も鎌倉初期に次々と出現したのであった。
 

評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!