ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

ディック感覚

● 映画:『スティクス~冥界の扉~』(ショーン・ギャリティ監督)

 2005年カナダ映画。

 原題はLUCID
 「わかりやすい、明快な」という意味であるが、諧謔か冗談のつもりなのだろうか。内容的には最後の最後まで「わかり」にくく、「明快」ではない。
 邦題のスティクスとはギリシャ神話に出てくる冥界を流れる川のことである。「明快」と「冥界」とをかけたのか(笑)。
 この邦題からオカルト&ホラー映画を期待すると肩透かしを食らう。が、結末に至って、あながち見当違いなタイトルでもないな、と納得する。

 昨今流行の「ディック感覚」すなわち主人公のアイデンティティ(=現実感)の揺らぎと崩壊を物語の根幹の仕掛けとした「虚実転覆型ミステリー」である。
 「虚実転覆型ミステリー」という言葉は今自分が作ったものであるが、思いつく限りに挙げてみると、
 マトリックス、アザーズ、ネクスト、オープン・ユア・アイズ、バニラスカイ、ダークシティ、アヴァロン、13階段、ニルヴァーナ、アイデンティティ、シックスセンス、ナイン、そして本作『スティクス』と制作年が同じでなければどちらかがどちらかを剽窃したのではないかと言ってもいいくらい設定がよく似ているアメリカ映画『ステイ』(ユアン・マクレガー出演)・・・。

 先鞭をつけたのはなんだろう?
 『未来世紀ブラジル』あたりだろうか。
 自分はこの種の映画が結構好きなのであるが、それは「自我の崩壊」というテーマに「諸法無我」の仏教的世界観を見る思いがするからであろう。西洋映画にこういったテーマが頻繁に扱われるようになってきたのは、キリスト教的デカルト的世界観に対する懐疑が西洋社会および西洋人に蔓延してきていることの徴のような気がする。

 この手の映画の最たる特徴の一つとして、すべてを観終わったあとでもう一度始めから観たくなる、細部を確かめたくなる、というのがある。
 この映画もその通りで、ラストクレジットが出てから「メニュー」に戻って、再び最初から2倍速で全編を観るハメになった。そして、「なるほど、よくできているなあ」と感心した。

 考えてみたら、映画館でこれはできない話である。
 もちろん、映画館で同じ映画を二度観ることはできるが、一回目と同じだけの時間がかかってしまう。倍速はDVDだからこそ可能な操作なのだ。
 一粒で二度おいしい「虚実転覆型ミステリー」の流行は、ビデオデッキやDVDプレイヤーの普及と深い連関を持っているのだろう。日本発の映像機器が、西洋人の伝統的世界観を変えつつあると考えたら痛快である。
 
 この映画の教訓。
 「浮気はするな。居眠り運転はするな。」
 

 
評価:C+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」       

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
   
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃいが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!






● 映画:『ダークシティ』(アレックス・プロヤス監督)

 1998年アメリカ映画。

 ホテルの浴槽の中で目を覚ますと、記憶をすっかり失っていた。
 自分は誰なのか。ここはどこなのか。今はいつなのか。
 部屋の中を見回してギョッとする。全裸の若い女の惨殺死体が横たわっている。
 これは誰なのか。いったい何があったのか、自分がやったのか。
 突如鳴り出す電話のベル。受話器から男の声がする。
「君は追われている。すぐにそこから逃げろ!」

 かくして始まるミステリー風、スリラー風、SFアクション。
 全編、悪夢のような閉塞感と陰鬱感と不安感とに満ち満ちている。
 その要因の一つは、この映画もまた「ディック感覚」、すなわち「自分」というアイデンティティの不確かさをテーマとしているからである。
 自分は何者なのか。指名手配中の娼婦連続殺人犯なのか。 
 過去の記憶を取り戻そうと手がかりを追い求める主人公ジョン(ルーファス・シーウェル)の前に不思議な現象が現れる。時計の針が12時をさすと、街中すべてが凍りついたように「一時停止」してしまうのだ。人も車も微塵とも動かない。その間にまたたく間に相貌を変えていく街の景色。しかも、この街には昼がない。
 いったい何が起きているのか。なぜ自分だけが免れているのか。

 謎は徐々に明らかにされていくのだが、その真相は衝撃的なものである。
 記憶(=アイデンティティ)の欠如に一人焦燥するジョンは、この街のすべての住人の記憶そのものが、12時の「一時停止中」に異星人によって作り変えられていることを知るのである。人々のアイデンティティ(自我)は彼等によって造られたものだったのである。
 そして、太陽の射さないダークシティの秘密が明らかになる。

 こうした「ディック感覚」を刺激する仕掛けはアメリカ映画に多いのだが、それはおそらく、近代個人主義を徹底させた国ほど「個」の崩壊に対する不安と恐怖が強い、サスペンスやホラーの素材になりやすいからなのだろう。日本を含むアジア圏の映画ではまず扱われない設定である。

 人間の「個」を破壊しアイデンティティを自在にコントロールする異星人は、逆に、個性や人格を持たない。一つの意識を共有する「種」として存在している。
 その形態や基地のデザインは、『メトロポリス』や『吸血鬼ノスフェラトゥ』などドイツ表現主義の影響を帯びていて映像的に斬新で興味深いが、一方これは意味深でもある。
 「個人主義の崩壊=個の埋没は、全体主義(ファシズム)への道につながる」という隠されたメッセージが読み取れるからだ。
 この命題が真なのかどうかは自分には分からない。
 ただ、洗脳のされやすさという点では、個人主義の発達したアメリカだろうが、そうではない国(たとえば「赤いクメール」時代のカンボジア)だろうが、関係なさそうだ。

 異星人と匹敵する驚異的な超能力を持っていることに気づいたジョンは、最後には壮絶な超能力対決の末、異星人を駆逐することに成功する。
 そして、闇夜の街に太陽を出現させ、海を作り出し、自分のイメージする新しい世界を創り出していく。
 すなわち、ジョンは神となる。

 人々は、結局、異星人の支配からは逃れたものの、引き続きジョンの支配下に置かれたのである。人類と異星人の先史的な闘いも王権交代も、人々がまったく気づかないうちに起こった。
 これが、ハッピーエンドだろうか?
 ジョンが良い神(=支配者)になる保証はあるのだろうか?


  「個」の崩壊の脅威に対する解決手段が「神」の出現だとしたら、人類は「暗黒時代(dark ages)」と呼ばれた中世に戻るよりないのでは・・・・?
 
 
評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


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