東銀座の松竹東劇にて鑑賞する。

 オペラの殿堂メトロポリタン歌劇場(ニューヨーク)で今年の10月13日に上演されたばかりのオペラのライブ映像である。世界のトップ歌手達の舞台が日本に居ながら低価格(3500円)で大スクリーンで観ることができ、その輝かしい歌唱を迫力の音響で聴くことができる。本当にお得な嬉しい企画である。(ホームページは→http://www.shochiku.co.jp/met/
 もちろん、ライブには適わない。
 ライブの感動の20分の1くらいだろう。
 生の声や音が持つバイブレーションを同じ空間で体感することに勝るものはない。

 『愛の妙薬』はドニゼッティ作の喜劇である。
 のどかな田舎に住む一組の男女のたわいない恋のさやあてと成就。いまどき少女マンガにすらならない馬鹿馬鹿しいストーリーである。むろん、オペラに複雑で高遠な物語を期待する者など、はなからいまい。
 演出はオーソドックスで奇を衒ったところがないが、そこは好感持てる。奇を衒った、才気走った演出は往々にしてストーリーの馬鹿馬鹿しさをかえって目立たせてしまう結果になるので、しらけることが多い。どうせならゴージャスを極めたほうがまだましである。往年のフランコ・ゼフィレッリの金ピカ演出のように。

 オペラの要は歌である。
 とりわけ、ドニゼッティやベッリーニのようなベルカントオペラは歌の出来こそすべて、管弦楽は二の次である。
 主役の二人、アンナ・ネトレプコ(アディーナ役)とマシュー・ポレンザーニ(ネモリーノ役)はさすがに上手い。二人とも朗々たる声で、高い音から低い音までしっかりコントロールされていた。演技も達者で安心して観ていられる。とくに、ポレンザーニはちょっと愚かでドンくさくて正直者のネモリーノを、本来はそれとはまったく反対の知的で神経細やかなノーブルなルックスであるにもかかわらず、観る者に好感を抱かせるに十分な巧みさで演じている。この歌手はきっとテノールのどんな役でも立派にこなせるだろう。
 ネトレプコは現在世界一のソプラノの一人である。美貌も実力も兼ね備えていて文句のつけようがない。だけど、どうもつまらない。ソツがなさすぎるからであろうか。
 サザランドやカバリエやジェシー・ノーマンのような、何らかの点で規格を逸脱した「怪物風の」ソプラノ達が犇めいていた時代が懐かしい。


METライブビューイング