2003年タイ・イギリス・日本共同制作。

 アレックス・ガーランドのベストセラー小説『The Tesseract(四次元立方体)』を原作とするサスペンス。
 シネマトピックスオンライン(http://www.cinematopics.com/cinema/aboutus.php)の解説によると、

  これからあなたが見ることになるのは、三次元の断片(ピース)である。そして、その断片を組み立てることによって、そこに四次元が現れるー。『テッセラクト』は、映像のパズル。かつてない大胆なコンセプトの映像体験。進化を続ける映画の最終形態ともいうべき、インテリジェントな傑作

だそうだ。

 バンコクのホテルを舞台に、いくつかの並行して起こるストーリーがそれぞれの主人公の視点で描出される。それぞれのストーリーが、ある時は近づき、ある時は遠ざかり、ある時は絡み合い、ある時はすれ違う様子を、映画を見る我々は時間軸を行きつ戻りつしながら、「神の視点で」見て取ることができるという仕掛け。
 興味深い試みではあるけれど、「四次元」とか「パズル」とか「インテリジェント」とか騒ぎ立てるほどではない。
 むしろ、そういった形容は、ナチョ・ビガロンゴ監督の『タイムクライムス』(2008年)にこそふさわしい。本当に頭をひねる不思議な映画。未見の人は必見。

 ともあれ。
 凝った作品である。
 映像が凝っている。(バン監督が長年CM制作をしていた関係だろう)
 脚本構成が凝っている。
 編集が凝っている。(コマ落としの多用や同じシーンの繰り返し)
 バン監督の才気とテクニックの冴えが全編に横溢している。
 凄い映像センスの持ち主であることは間違いない。
 
 しかしながら、今回はそのことが裏目に出てしまっているようだ。
 一体、何のためにそこまで凝ったのかがわからないのである。
 物語を効果的に表現するため、テーマをより深く観る者に伝えるためにこそ、テクニックはある。ドラマあってのテクニックであって、その逆ではない。
 この作品は、テクニックのためのテクニックになってしまっているのだ。

 一例を挙げると、クライマックスの車の廃棄場のシーン。
 主人公のショーン(ジョナサン・リース・マイヤーズ)は、後を追ってきたマフィアの男に背中を撃たれて地面に倒れる。次にマフィアは、逃げようとする少年ウィット(アレクサンダー・レンデル)を殺そうと狙いを定める。それを何とか阻止しようと、最期の力を振り絞って、ショーンは落ちていた拳銃をつかみ取り、マフィアに向かって発砲する。
 命中し、倒れるマフィア。
 ここでなぜか監督は、マフィアが地面に倒れる瞬間を、二重写しするのだ。専門用語で何というのか分からないが、スローモーションではなく、撃たれたばかりの直立している体と、倒れていく途中の斜めの体との両方を同時に映し出す。まるでマフィアが幽体離脱しているかのように。  
 一体、なぜ?
 昔から、アクション映画の主要人物が撃たれたり刺されたりするシーンでスローモーションを用いるのはよくある手だ。すでにそれなりの思い入れのある人物が時間をかけて死んでいくのを見守らせることで、観客の心の内に様々な感情をかき立てることができる。そして、物語の局面が変わる決定的瞬間を強調することができる。
 個人的には、こういう場面でのスローモーションは好きでない。死ぬときは、サッサと倒れていった方がかっこよいと思う。が、少なくともそれは、感動を高めるためという目的を持った特殊効果である。
  しかるに、このマフィアには人格がない。性格を感得させる描写もまったくない。単なる、マフィアの一員で、殺し屋としての、ゲームのコマとしての役割しか持たされていない。この男が物語にキャラとしての「顔」を持って登場するのは、終わりの部分のみなのだ。
 そいつが死んだところで、観る者は「別に・・・」なのだ。なんで、死ぬときだけ、高等テクニックを使って映像処理してあげるのだろうか?
 意味がない。
 (それとも、生まれ変わりを信じるタイの観客のために、幽体離脱して霊魂が抜けるところを見せたのか?)

 テクニックが空回りしている。

 原作については、読んでいないので何とも判断できないが、この映画に関してだけ言えば、時間軸を行ったり来たりしながら複数のストーリーを語っていくという根本のテクニック(=四次元立方体)自体が、効果的に機能しているとは言い難い。そのテクニックの利用により本来生じることが期待されるドラマの奥行きの深さ、「因果の輪」というテーマの真髄が全然響いて来ないのである。
 これは致命的である。 
 
 ホテルのベルボーイを演じたアレクサンダー・レンデルは驚くほど演技達者なうえ愛くるしいし、イギリス人心理学者を演じたサスキア・リーヴスは、品格のある演技で存在感が光っている。
 いい役者が揃って、いい演技をしているだけに残念と言うほか無い。



評価: C-


参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 

「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。

「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」 「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。

「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。

「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」 「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)

「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。

「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった

「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!