2011年イギリス映画。

 舞台は森と湖に囲まれたイギリスの田舎。
 時はヴィクトリア朝の匂いが残る20世紀初頭。
 頬白き少年たちが共に学び生活する堅牢な寄宿舎。
 そして幽霊譚・・・。


 これだけ揃って食指が動かぬわけがない。
 幽霊譚にはやはりそれなりの雰囲気が必要である。
 現代の都会のオフィスで起こる霊的現象も怖いにゃ怖い。ショートする蛍光灯、勝手に起動したパソコン画面に打ち込まれるメッセージ、突如鳴り出す電話のベル、空中浮遊する書類や文具。数年前上司との不倫がもとでビルから飛び降りた女子社員の座っていた席のあたりに人影が・・・・。
 怖いっ。
 だが、雰囲気に欠ける。
 自分が幽霊譚に望むのは「美しさ」「哀しさ」「時を超える愛惜」なのである。
 おそらく、こうした好みを作っているのは十代の頃に読んだ萩尾望都の『ポーの一族』であろう。もっとも、こちらは幽霊ではなく吸血鬼(ヴァンパネラ)であるが・・・。

 Awakening とは「目覚め、覚醒」という意味である。
 何を目覚めさせるのか。
 それは記憶である。
 意味深なタイトルだ。

 映像は悪くない。物語のプロットも凝っている。演技も手堅い。
 ニコール・キッドマン主演の『アザーズ』やスペインで大ヒットしたオカルトミステリー『永遠の子供たち』を思わせる。とくに、子供たちの寄宿舎という設定、ヒロインの過去が重要な鍵となるところ、そして哀しい結末などは後者に似ている。
 自分が望む3点セットを見事に満たしているので及第点を上げたいのだが、二番煎じ三番煎じなのが減点となる。

 この映画は、一連の「音」から始まる。
 重いドアをバタンと閉める音、厚いカーテンをシャーッと閉める音、石造りの床を打つ靴音、ドアの鍵をカチリと閉める音・・・。
 これらの音の連鎖に耳を傾けているうちに、自分の記憶も甦ったのである。
 それは、はじめて映画館で洋画を見始めた頃の印象である。
 何が驚いたって、西洋の日常生活において生じる様々な「音」の切れ味鋭さにビックリしたのである。日本の(自分の)生活空間にはない音が存在し、それらはこちらの心臓が止まるくらいの音量と鋭さとで自己主張する。
 ドアが閉まる音や鍵を閉める音、靴音などは、もろ生活様式、建築様式の違いから来る。日本の家屋は靴を脱いで上がる。西洋式のドアはもちろんあるけれど、普通それほど重厚なものではない。ふすまや障子やスライド式の扉も多い。室内で大きな物音を立てること自体、日本では一般に良くないとされる。自分の受けた躾の中にも「もっと静かに戸を閉めなさい」というのがあった。
 それまでに家のテレビでも洋画を見ていたけれど、テレビの音声、お茶の間の音量であったし、日本語吹き替えでもあったので、それほど気にならなかった。映画館の大画面、大音量を経験して、まず衝撃を受けることになったのである。

 衝撃の理由は、自分の生活の中にない音を発見したとか、音自体の鋭さ・喧しさに驚いたというだけではない。その「音」が暗に意味する西洋文化における「遮断」「断絶」「孤立」の感覚に畏怖したのである。
 たとえば、重い鉄の扉をバタンと閉める音には、きっぱりとした他者の排斥が聞き取れる。自他のテリトリーの固持または主張が感じられる。すなわち、西洋文化の根幹をなす「個人主義」が潜在している。
 その音は日本人の自分にとって、周囲の他者からの断絶の恐怖であり、自立を強いる社会からの圧力のように響いたのである。
 ひるがえって西洋の子供たちは、物心ついてからずっとこうした音の中で生活しているのだ。「自立」をあたりまえとしていくのも当然であろう。


 個人主義の文化における幽霊の恐怖は、おそらく、命や財産を脅かされることよりも、「他」によって浸蝕される「自我」の恐怖なのではないか。幽霊を最終的には退治したのはいいが、主人公が精神病院に収容されてしまうシーンで幕を閉じる映画を結構たくさん観た気がする。
 それにくらべると、日本の伝統的な(?)幽霊が常に「うらめしや~」と恨みを訴えて出てくるのは実に分かりやすい怖さである。
 「自立」とは、自分の足で立って歩くことである。伝統的な日本の幽霊には足が無くて、西洋の幽霊にはしっかりと足がついているのも面白い符合である。



評価:C+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」      

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!