ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、神社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

ハンセン病

● おやじギャグ 本:『わたしが・棄てた・女』(遠藤周作著、1963年発表)

 ハンセン病の〈誤診〉を受けた森田ミツのドラマチックな人生を描いた遠藤周作の代表作である。1997年に熊井啓監督、酒井美紀、渡部篤郎主演で『愛する』(日活)というタイトルで映画化されたのを観た記憶がある。ミツには井深八重という実在のモデルがいた。

 『海と毒薬』『沈黙』『深い河』などと同じ系列の格式高い(こむずかしい)純文学かと勘違いしていた。当時『主婦の友』に連載されていたことが示すように、どちらかと言えば軽いタッチの通俗小説である。すらすらと読めた。
 とは言え、「キリスト(神)のとは何ぞや?」――というこの作家ならではのテーマとその切り込みの深さは、上記の純文学作品と較べておさおさひけを取らない。むしろ、余分な形而上学的叙述や煩瑣な描写がない分、テーマは際立って開示されていると言えるのではないか。
 本書解説の中で、キリスト教の文芸評論家武田友寿がこう述べている。


 遠藤氏が描く人間の救いはいつもエゴから脱出する機会の発見におかれている。それは特定の教派の信仰心をもつことでなければ主義、思想というようなイデオロギーに身を委ねることでもない。自分の弱さを自覚しつつ、弱さに耐えて自分を生き、弱さゆえに他者の弱さを共に哀しみ、苦しむことのできる〈運命の連帯感〉に自分を委ねることのできるとき、エゴをこえる機会が訪れるのだ。


 この文章を読んで、北海道浦賀の「べてるの家」を想起した。あるいは、読んだばかりの『御直披』や別記事で書いた『オペラ座の怪人』を。
 「強さ、喜び、幸運」を通してよりも「弱さ、苦しみ、逆境」を通して人は人と本当に繋がることができるというのは、人間に与えられた大いなる逆説であり、手酷いジョークである。世界が凍り付くような神のおやじギャグを、一抹の苦さと共に笑い飛ばすときに「ユーモア」が生まれる素地ができるのだろう。
 クリスチャンの純文学者・遠藤周作が、まるで二重人格者であるかのように、狐狸庵先生というぐうたらでとぼけたキャラを合わせ持っていたのは、そういった背景があったのかもしれない。


白アジサイ





 

● 紅葉と釜めしの‘聖地’巡礼 :国立療養所多磨全生園

 小春日和の一日、前から気になっていた多磨全生園に出かけた。
 かつてここは、ハンセン病患者の隔離収容施設であった。

 
多摩全生園 016

 西武池袋線の清瀬駅からバスで10分ほどで「全生園前」に到着。
 正門がすぐ目に入る。
 
多摩全生園 001

  •  所在地  東京都東村山市青葉町4-1-1
  •  創立   1909(明治42)年9月28日
  •  敷地面積 358,116㎡(東京ドーム7.6個分)

 施設に付属する国立ハンセン病資料館には数年前に行った。そのときは、患者らが住んでいる全生園の中まで一般人が入れるとは知らなかった。
 だが、1996年4月1日、90年に及ぶ隔離政策の根拠であった悪法「らい予防法」が廃止され、園の内外出入り自由になったのである。今では、花見の季節には全生園の名高い桜並木に近隣の人々が群れをなしてやって来る。園内には民間の保育所もある。収容されていた患者(元患者というべきだろう)も何十年ぶりかに自由に外に行けるようになった。それを題材に撮ったのが、ドリアン助川原作、樹木希林、永瀬正敏、市原悦子出演の映画『あん』である。映画の中に全生園の光景が出てくる。
 はからずも、‘聖地’巡礼となったわけである。


多摩全生園 039
 国立ハンセン病資料館
 
多摩全生園 015
 四国遍路するハンセン病の親子(『砂の器』を思い出す)

 
 門には扉も無く、警備員も立っていない。園内を歩いていても誰にも誰何されない。
 というか、平日の昼間だというのに、日曜のような静かさと人けの無さである。今も暮らしている元患者がいて、その人たちのケアをする医療スタッフも働いているはずなのに、何という人口密度の低さであろう。(もしかして都内でも十指に入るのでは?)
 園内には、入所者たちが丹精込めて育てた桜、梅、竹、杉、ケヤキ、椿、ツツジ、イチョウなどが生い茂っている。紅葉も盛りに近づいて、ひっきりなしに車が往来する外の騒がしさとは別世界が広がっていた。
 

多摩全生園 033


全生園の自然

多摩全生園 008

多摩全生園 013

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多摩全生園 023

多摩全生園 034

多摩全生園 036

多摩全生園 018
この風景、子供の頃によく見た!!
 

入所者の生活

多摩全生園 032
住居地区は立ち入り禁止

多摩全生園 031
高齢者向けの商品が多い

多摩全生園 030
公衆浴場

多摩全生園 024

多摩全生園 004
園内のあちこちに設置された電話ボックス(緊急時の連絡先が掲示されている)


多摩全生園 020
テニスコートと野球場(かつてはずいぶんスポーツが盛んだった)

多摩全生園 025


遺 構

多摩全生園 002
 
多摩全生園 007
若い男性患者らが暮らしていた寮(もみじは近隣の小学生が植えたもの)

 
信 仰

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永代神社

多摩全生園 006
弘法大師はハンセン病で亡くなったという説もある

多摩全生園 005
日蓮宗会堂

多摩全生園 003
秋津教会


望 郷

多摩全生園 035
入所者たちはこの丘に登って故郷を偲んだ

多摩全生園 037

多摩全生園 010
開園以来の物故者は4,168人(平成27年10月現在)

多摩全生園 012
倶会一所くえいっしょ)とは
 阿弥陀仏の極楽浄土に往生したものは
浄土の仏・菩薩たちと
一処で出会うことができるという意


多摩全生園 011
尊厳回復の碑(やっぱり生きているうちに回復するのが正解) 


 園内にあるお食事処「なごみ」で遅い昼食をとった。
 とり五目釜めし(1300円)。
 炊き立てでホカホカ、ボリュームあって、美味しくて、大満足。

多摩全生園 027

多摩全生園 029
見よ!この具だくさんの釜!


 2014年5月現在、全国の国立ハンセン病療養所(13箇所)の入所者数は1,840人、平均年齢 83.6歳である。そう長い先でもなく、療養所はその役目を終えるであろう。

 約3時間ぐるりと歩き回って、森林浴し、紅葉を愛で、鳥のさえずりを聴き、入所者の生活や思いに触れ、旨いものを食べ、まことに有意義な散策であった。
 
 今度は桜の頃に来ようっと。


多摩全生園 038




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