公開 1974年
製作国 イタリア、フランス
音楽 フランコ・マンニーノ
撮影 パスクァリーノ・デ・サンティス
出演者
バート・ランカスター
ヘルムート・バーガー
シルヴァーナ・マンガーノ
上映時間 121分

 ヴィスコンティの長編映画は20代でほぼ観ている。本物のミラノの貴族ならではのゴージャスで格調高く芸術の香り馥郁たる映像世界と、ゲイならではの美的感覚と残酷さと美しき主演男優(アラン・ドロンやビョルン・アンドレセンやヘルムート・バーガー)への求愛ショットに酔わされたものである。
 しかし、ヴィスコンティが処女作『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を発表したのは彼が36歳のときであり、晩年の傑作と言われるこの『家族の肖像』は68歳のときである。この2年後『イノセント』を発表した直後、ローマで亡くなっている。
 
●フィルモグラフィ
36歳 郵便配達は二度ベルを鳴らす Ossessione (1942年)
42歳 揺れる大地 La terra trema: episodio del mare (1948年)
45歳 ベリッシマ Bellissima (1951年)
48歳 夏の嵐 Senso (1954年)
51歳 白夜 Le notti bianche (1957年) 
54歳 若者のすべて Rocco e i suoi fratelli (1960年) 
57歳 山猫 Il gattopardo (1963年)
59歳 熊座の淡き星影 Vaghe stelle dell'orsa (1965年) 
61歳 異邦人 Lo straniero (1967年)
63歳 地獄に堕ちた勇者ども The Damned / La caduta degli dei (1969年)
65歳 ベニスに死す Death in Venice / Morte a Venezia (1971年)
66歳 ルートヴィヒ Ludwig (1972年)
68歳 家族の肖像 Conversation Piece / Gruppo di famiglia in un interno (1974年)
69歳 イノセント L'innocente (1976年)


 ヴィスコンティが上記14本の作品を撮ったときに、どんな心境でいたのか、どんな思いを映画や登場人物に託したのかを伺うには20代ではあまりに若すぎる。30年ぶりにこの映画を見てつくづくそう思った。
 年齢的にはソルティはやっと6作目の『若者のすべて』に達したところであり、これ以前のヴィスコンティ作品は語る資格があっても、これ以降の作品についての批評は的外れになりかねないなあと、正直思う。むろん、20世紀を生きたイタリア貴族の天才芸術家と、21世紀を生きている日本庶民の凡才介護職の違いは無視しての話である。単純に年齢(=生きた長さ)について問題にしている。
 というのも、ヴィスコンティの映画においてはこの「年齢」つまり「老い」というのが一つの主要なモチーフになっていると思うからである。特に54歳で『若者のすべて』を描き切ってからは、老いや世代交代や世代間ギャップや死が主要テーマになっていることは明らかであろう。その頂点を形作るのがトーマス・マン原作の『ベニスに死す』であるのは言うまでもない。

 『家族の肖像』も、独り者で落ち着いた生活を好む生真面目な老教授(=バート・ランカスター)が、自ら所有するアパートメントの間借り人として、欲望に忠実で騒々しい生活を当たり前とする若い現代的な家族(=ヘルムート・バーガー、シルヴァーナ・マンガーノら)を迎えることで、世代間や異文化間のギャップを肌身で感じることとなり、老いの孤独や陰鬱や固陋そして生への未練などが生々しく引き出され、描かれる。その演出は非の打ちどころない見事さ(残酷さ)。
 この映画を観たときのソルティは撮影時のヘルムート・バーガー(30歳)より年下であったわけで、当然老教授の心境など理解すべくもなかった。
 いまや、ヘルムートはもとより、往年の名女優であるシルヴァーナ・マンガーノの撮影時の年齢(44歳)も超えて、撮影時のバート・ランカスターの年齢(61歳)に近づいている。ようやくこの映画を、老教授の気持ちを、かたはしなりとも理解できる域に達しつつある。

 そんな目で見直してみたら、この映画は明らかに「ゲイ映画だなよあ~」と思ったのである。
 主役の独り者の老教授はおそらくゲイであろう。結婚していた過去はあるらしいが、回想の中で
快いイメージで現れるのは妻ではなくて母親である。生から隠遁し愛から身を遠ざけ絵画の中の“幻想の”家族とともに生きていた教授の前に現れたのは、若く美しく生のエネルギーを発散する無軌道な青年コンラッドである。磁石に惹かれる砂鉄のごとく、教授はコンラッドに惹かれてゆく。身の内に愛の起こりを感じる。芸術を解するコンラッドを養子にできたらと夢想すらする。
 しかし、現実はつねに残酷である。エゴイストの塊りである“現実の”家族はわがままをぶつけあった派手な喧嘩の挙句に瓦解し、未来の希望を見出せぬコンラッドは自害する。生へといったん振れた針が無残にも打ち砕かれ、教授もまた病の床に就く。待ち受けるは孤独死。“現実の”家族もまた幻想に過ぎなかったのである。

 病気のため車椅子でメガホンを取った68歳のヴィスコンティは、バート・ランカスター演じる老教授に自分自身を重ねたのではなかろうか。

 ともあれ、ヴィスコンティを本当の意味で鑑賞できるのはこれからだ、というのは嬉しい発見である。



評価:B+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!