ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

ビル・ナイ

● 鉄の女に涙はあるか 映画:『パレードへようこそ』(マシュー・ワーカス監督) 

2014年イギリス映画。

 ゲイと炭鉱夫。
 片や、「男らしく」ない代表格と見下され、ファッションやアートやダンスやお喋りにうつつを抜かすナヨナヨした連中。片や、「男らしさ」の権化のように見做され、命を賭した危険な重労働を黙々とこなし、酒と博打と女と喧嘩に誇りをかける逞しい連中。
 ステレオタイプは無論承知。が、まあ、両者に抱く大方の最大公約イメージはこんなところだろう。つまり、「男」の両極に位置する、正反対の種族というわけだ。
 むろん、社会的な上下関係ははっきりしている。知性や収入の差はともかくとして、社会的に受け入れられ信頼を得ているのは炭鉱夫である。ジェンダーの既成価値を強烈になぞっているがゆえに・・・。
 そんな相反する2つの種族が出会い、戸惑い、衝突し、認め合い、共闘し、友情を育む。そんな‘他者との出会い’の一部始終を丁寧に描いたのがこの映画である。実話をもとに作られたというから驚く。

 時は1984年。新自由主義の御旗のもと「弱い者いじめ」政策を断行する‘鉄の女’サッチャー政権下、炭鉱労働者たちがストライキを起こす。それを支援すべく、ロンドンに住むレズビアンとゲイの若い活動家グループが勝手に街頭での募金活動を開始する。
 しかし、全国炭鉱労働者組合は同性愛者の集めた寄付金を快く受け取ってはくれない。活動家たちはウェールズにある小さな炭鉱町オンルウィンに直接寄付することにする。同性愛者のグループとは知らずに寄付を受け取った町の人々は、感謝の意を示すべく、活動家たちを町に招待する。バスを仕立て意気揚々と炭鉱町に向かうゲイ&レズビアンご一行。
 かくして、異質の者との邂逅が始まる・・・。
 
 テーマが現代的で面白い。
 というより、あらゆる‘物語’は基本的に「異質との出会い」を描いたものなんである。恋愛小説しかり、青春小説(ビルディングもの)しかり、ホラーしかり、SFしかり、ミステリーしかり、戦闘ものしかり、ジェネレーションギャップを描いたものしかり、純文学しかり・・・。
 はじめ「異質」であったものが、だんだんとその正体が明らかになってきて、主人公がその実質を‘理解できる’ことが分かってコミュニケーションへの道が開かれるか、あるいは‘理解できない’ことが顕わになって断絶して戦いに突入するか、というのが‘物語’の定石なのである。
 なので、もろ‘異質との出会い’をテーマに据えたこの映画が面白くないわけがない。両者間に芽生えた友情がセクシュアリティの違いを超えてゆく感動のクライマックスは、鉄の女と同族でなければ涙することであろう。
 日本語字幕だと分りにくいけれど、主人公のゲイの青年マーク(=ベン・シュネッツァー)がストライキをしている炭鉱労働者をテレビで見て突如支援しようと思い立ったのは、サッチャー政権に対する反感が共通することもあるけれど、それ以上に、炭鉱夫(miner)が少数者(minor)と同じ音(マイナー)を持つことから閃いたのである。マークが自分たちのグループにつけたLGSM(Lesbian & Gay Supporting Miners)という名前は、「炭鉱夫/少数者を支援するゲイ&レズビアン」という、ちょっとブラックユーモア風の意味があるわけである。
 
 役者の魅力も満載である。
 まず、炭鉱町オンルウィンの組合の中心人物クリフを演じるビル・ナイが印象的である。別記事でもこの俳優に注目したが、やっぱり名バイプレイヤーである。炭鉱町に生まれ育ち、今や町の中心人物として町民の尊敬と信頼を集めながら実は‘隠れゲイ’であるという、複雑なキャラクターをリアリティ豊かに演じている。
 同様に、‘隠れビアン’であったことをクリフ相手に告白するヘフィナ演じるイメルダ・スタウントンも、その研ナオコかギボアイコにも似た特異な顔立ちと女丈夫(じょじょうふ)なキャラとあいまって、愛すべき強烈な印象を残す。
 その他、LGSM結成当初唯一のレズビアンとして気を吐くダイ(=パディ・コンシダイン)のカッコよさ、両親に内緒で活動にかかわるも最後にはバレて家を離れる決心をする二十歳の青年ジョー(=ジョージ・マッケイ)の清潔感が光っている。この二人、きっといい役者になるだろう。

 異質な者との関わりにおいて重要なのはまずは‘勇気’である、とこの映画は教えてくれる。相手と関わろうとする勇気、自分をさらけ出す勇気、衝突を恐れない勇気、真実の自分および自分の感情を素直に認める勇気。道はそこから開けるのだ。
 そして、その‘勇気’をくれる最大のものが仲間であることも教えてくれる。
 ゲイやレズビアンといったホモセクシュアルは、当然ながらヘテロセクシャルな男と女から生まれ、その影響下に育つわけだから、基本的に親は仲間(=理解者)になりえない。どんなに理解ある進歩的で寛容な親であっても、ヘテロである限り‘仲間’にはなれない。そこには越え難い溝がある。
 ゲイやレズビアンは親との関係をある意味で‘あきらめる’ところから、自分の生きる場所を見つけざるをえない。ソルティ自身も、思えば「親に理解してほしい」なんて感情は二十代に捨ててしまっている。よく言えば、精神的に自立せざるをえない。そのぶん、仲間の存在が重要になってくる。悩みを打ち明け希望を共にする仲間が。自分の生きるモデルとなってくれる先達が。(日本の多くのゲイにとって最大にして最強の先達は美輪サマだろう。三島由紀夫では決してない。レズビアンにとっては誰だ? ジョディ・フォスター?)
 
 この映画を観てもう一つ実感することは、女という性の役割である。
 子供を産む性、子供を育てる性、家庭を亭主や子供にとって安心できる場所として維持する性、やりくりする性といった意味ももちろん馬鹿にならない。
 けれど、思うに、大きな声では指摘されないけれど無視することのできない女の大きな役割は、「男を教育する」ことにあるように思う。一人の男を教育しその価値観をも変えさせるほど力を持ち得るのは、世間広しと言えども、男の‘母である女’、‘妻である女’、‘娘である女’だけではないか。彼女らは、‘息子である男’、‘夫である男’、‘父親である男’の急所を握っている。なればこそ、世間相手に百戦錬磨の荒らぶる男たちも、彼女らの前では青菜に塩のごとくシュンとなってしまうのだろう。
 男尊女卑のイメージが強い炭鉱町が実のところ女性天下であるという逆説を、この映画は描いていて小気味よい。
 結論として、世の中は最終的に女性を味方につけた者の勝ちなのだろう。
 その秘密を知っているがゆえに、ソルティはフェミニストなのである。 

 さあて、もうすぐパレードがやって来る。
 今年はcharaが来るらしい。
 すげえ~!
 


評価:B-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!


● 森×一より笠智衆 映画:『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(リチャード・カーティス監督)

2013年イギリス、アメリカ。

 「もう一度あの時に時間を戻して、人生をやり直せたら・・・」
 という妄想は誰でも一度は描くであろう。
 この映画は、その妄想を現実化してしまった青年の話である。
 
 主人公ティム(=ドーナル・グリーソン)は21歳の誕生日に父親から重大な秘密を打ち明けられる。
「我々一族の男にはタイムトラベルできる力がある。過去に自分が存在した場所に戻って、別の選択肢を選ぶことができる」
 善良で家族思い・友人思いのティムは、その力を悪用することなく、自分の恋愛の成就のため、そして周囲の愛する人々のために使う。
・・・・・というハートウォーミングなSFヒューマンコメディである。
 
 監督のリチャード・カーティスは、ローワン・アトキンソン主演の『Mr.ビーン』や、人気ハリウッド女優(ジュリア・ロバーツ)としがない書店店員(ヒュー・グラント)の身分(?)違いの恋愛を描いた『ノッティングヒルの恋人』、レネー・ゼルウィガー主演の『ブリジッド・ジョーンズの日記』など、コメディ映画の脚本家としてむしろ有名である。脚本兼監督をつとめたこの『アバウト・タイム』も、上記の作品同様、イギリス風のとぼけたユーモアと不器用に生きる市井の人々へのあたたかい眼差しをもって、何の変哲もない日常生活の中にひそむ「生」の魅力を描くことに成功している。
 
 役者の中では、ティムの父親を演じたビル・ナイが俄然光っている。どこかで観た顔なのだが、何の映画の何の役だったのか思い出せず・・・。
 ウィキで調べたら、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のデイヴィ・ジョーンズ役をはじめ、『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』、『銀河ヒッチハイクガイド』、『ショーン・オブ・デッド』、『オペラ座の怪人』ほか、たくさんのヒット作・話題作に出演している名バイプレイヤーなのである。
 名前を覚えておこう。(無理)
 
 実際には、ティム青年が持っているような過去に戻る超能力を与えられたら、その人は間違いなく不幸になるだろう。失敗しても何度でもやり直しが効くので、目の前の一つのことに心をこめて打ち込むことができなくなってしまうだろうし、自分の人生を完璧にしたいという執念が異常なまでに高まって、ちょっとでも気に入らないことがあると、簡単にタイムトラベルを繰り返すようになる。しまいには、整形手術にはまった芸能人みたいにコントロールとバランス感覚を失って、グロテスクな結末を迎える羽目になろう。

 「もう一度あの時に時間を戻して、人生をやり直せたら・・・」と願うのは、その人が「今の自分」を受け入れられないところから来る。
 たとえ、タイムトラベルをして状況が思い通りに変わったとしても、「今の自分を受け入れられない」という性格自体が変わらなければ、結局、 堂々巡りになるだけだろう。主体がマイナス(-)であるとき、いくらプラス(+)を掛けても、出てくる答えはマイナス(-)にしかならない。
 「今の自分」「その時々の自分」を受け入れられることこそ、幸福でいるための最大の秘訣である。
 きっと、その秘訣をものにした人の顔は、穏やかに輝いていて、見る人をも幸せな気持ちにさせ、いくら歳を重ねようが整形手術の必要などないに違いない。
 笠智衆のように。



評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!





 


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