何と言っても、主要人物3人がみな酷い死に方をするのである。スカルピアはトスカに刺殺され、マリオは死刑囚として銃殺され、トスカは塔からひらりと身を投げる。とても大団円とは言えない。音楽もところどころ甘く美しいメロディがあるものの、全体的にはスカルピアのモティーフに代表されるように、暗く不吉で聴く者を不安と緊張で締め上げるものである。
が、このシリーズの『トスカ』だけはとても見逃せない内容なのである。
- トスカ : フィオレンツァ・チェドリンス
- カヴァラドッシ : マルセロ・アルバレス
- スカルピア : ルッジェーロ・ライモンディ
- 指揮 : ダニエル・オーレン
- トスカ : レナータ・テバルティ
- カヴァラドッシ : ユージン・トービン
- スカルピア : ジョージ・ロンドン
- 指揮 : フランコ・パタネ
- トスカ : インペーリオ・アルヘンティーナ(歌:マファルダ・ファーヴェロ)
- カヴァラドッシ : ロッサーノ・ブラッツィ(歌:フェルッチョ・タリアヴィーニ)
- スカルピア : ミッシェル・シモン
- 指揮 : フェルナンド・マンチーニ
- 監督 : カレウロ・コッホ
- 助監督 : ルッキーノ・ヴィスコンティ、ロッテ・ライニガー
ソルティは、テバルティの舞台姿を今回始めて観たのだが、演技も上手くて驚いた。と言っても、昨今はやりのリアルを追求したアカデミー賞的演技ではない。あくまで音楽に合わせた、無駄のない抑制された動きである。しかも、品がある。陰惨極まりないストーリーを彼女の存在が高貴なものにしている。登場人物にリアリティを与え生命を吹き込んだカラスとはいささかアプローチは異なるものの、これはこれで歴史に残る名唱、名演であろう。
総じて、節度のある舞台である。
②のテバルティの舞台のように、ある程度の格式を保ってバランスを取るのが、このオペラ上演の正解ではないかと思う。