1933年アメリカ映画。
実在したレズビアンの女王の話である。
“レズビアンの女王”と言えば、普通は古代ギリシアの詩人サッフォー(@レスボス島)であるが、こちらは正真正銘のスウェーデンの女王陛下(1626-1689)。処女王と呼ばれた英国エリザベス一世同様、生涯結婚しなかった。(エリザベス一世はレズビアンでも処女でもなかったらしいが。)
6歳で王位を継いだクリスチナ女王が28歳にして退位するまでの半生を恋愛ドラマを主軸に描いている。
と言っても、そこは30年代ハリウッド。臣下の女性たちとのダイキーな恋愛模様が描き出されるべくもない。往年の二枚目俳優ジョン・ギルバート演じるスペインの貴族アントニオとの運命的な悲恋が創造されている。
脚本も演出もカメラワークも素晴らしいが、魅力の第一は何と言っても主役を演じるグレタ・ガルボである。
クリスチナ女王とガルボには共通点が多い。
スウェーデン人であること。独身を貫いたこと(ガルボはレズビアンorバイセクシュアルの噂があった)。ガルボはハリウッドの女王として、あるいは「神聖ガルボ帝国」の女王として常に孤高に輝いていた。若くして引退したところも似ている(ガルボは36歳で銀幕から姿を消した)。
それだからなのか、クリスチナ女王のセリフがそのままガルボの本心の吐露のように聞こえる箇所がある。
ガルボにとって最高のはまり役だったのではないだろうか。
ただし、美貌の点では二人は似ていない。肖像画に見るクリスチナ女王はおせじでも美人とは言い難い。
一方のガルボと来たら・・・。
神の手による創造物のうち最も完璧な美。
北欧のフィヨルドを想わせる近寄りがたい壮麗さ。
整形手術のない時代にこれほど整った顔立ちがこの世に存在し得るとは!
残念なことに我々は白黒の映画や写真でしかガルボを見ることができない。作家のトルーマン・カポーティが「ガルボの美しさの秘密はその顔色の素晴らしさにある」とどこかに書いていた。カラー映画で観たかった一人である。
美貌に酔わされて忘れられがちなのだが、ガルボは演技もめっぽう巧い。
舞台の演技と映画の演技は別物であるが、ここでガルボは映画的演技の模範とも言える見事な演技を披露している。瞳の動きやまぶたの伏せ方、唇の端のちょっとした上げ下げ、微妙な顎の角度といった、アップでこそ冴える感情表現を巧みに使って、女王であり女である主役の心の動きを十全に表現し切っている。
窮屈な政務から逃亡したクリスチナは、正体を隠し、旅先で偶然出会ったアントニオと宿屋で結ばれる。一人の女として愛し愛され、束の間のランデブーを満喫したクリスチナが、二人で過ごした部屋をただ歩き回るシーンがある。なんてことないシーンなのだが、ガルボがあちこちの家具を愛おしそうに触りながら典雅な風情で部屋を歩き回るとき、我々の目はアントニオ同様、彼女の動きに釘付けになってしまう。こんなふうにただ歩くだけで多彩で豊穣なニュアンスを画面にもたらしてしまう女優なぞ、滅多にいまい。
ガルボの美には独特の個性がある。
ハンガリア出身の作家、映画理論家のベラ・バラージュ(1884-1949)はこう語っている。
ガルボの「異邦人」性。ガルボの美しさはたんに線の調和ではなく、たんに顔の道具立てでもない。ガルボの美しさのなかには、或る特定の心の状態をあらわす相貌が表現されているのだ。
・・・・・・・
われわれはグレタ・ガルボの美しさを、より高貴なもの、より優雅なものとして受け取る。それはじつに、そのなかにあの異邦人のもつ哀愁、孤独者の哀愁があらわれているからにほかならない。何の屈託もなく、楽しげに、いかにも幸福そうに笑っている顔の線が、どんなに美しく整っていようと、そのような笑い顔が、今日の、この社会のなかで、いかにも楽しく幸福そうに見えるとすれば、それはその人間が精神的にきわめて幼稚な人間であることを示すだけであろう。今日では、政治意識を全然もたぬ小市民でさえ、この汚れた世界に触れることにおぞ毛をふるかのようなジェスチュアや、もの悲しい苦悩の美は、その人間がより高級な、魂のより純潔な、精神的により高貴な人間であることを示すものだと感じている。ガルボの美は今日のブルジョア社会に敵対する美である。
(ベラ・バラージュ『映画の理論』、學藝書林)
それは、ハリウッドの中のスウェーデン人というところにあったのではなかろう。
ヘテロ社会の中のマイノリティであったところに由来するように思う。
評価:B+
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!