上演日時 2000年3月14-17日
上演劇場 ミラノ・スカラ座(イタリア)
キャスト
指揮 リッカルド・ムーティ
演出 ルカ・ロンコーニ
出演 トスカ ・・・・・・・マリア・グレギーナ(ソプラノ)
マリオ・カヴァラドッシ ・・・・・サルヴァトーレ・リチートラ(テノール)
スカルピア ・・・・・レオ・ヌッチ
オケ&合唱 ミアノ・スカラ座管弦楽団&合唱団
オペラハウスとして世界最高峰のスカラ座で、名実共に現代最高峰の指揮者であるムーティが、マリア・グレギーナはじめ当代最高峰の歌手を揃えて創り上げた舞台なので、それこそ現代最高の『トスカ』となっても不思議ではないはずなのだが、どういうわけか退屈な舞台である。
歌手は素晴らしい。
マリア・グレギーナははじめて観た(聴いた)が、高音から低音まで非常に良くコントロールされた豊麗な声の持ち主で、演技もなかなか。決して美人ではないが堂々とした舞台姿は、プリマドンナの名にふさわしい貫禄とオーラがある。トスカはまさにはまり役。
テノールのリチートラも、パバロッティを彷彿とさせるような癖のないまっすぐな歌い方と輝かしい高音で好感持てる。
レオ・ヌッチのスカルピアは、謹厳実直な高級官僚のような外見と慇懃無礼な振舞いの中に異常なセクシュアリティを隠し持ち、現代的な性的逸脱者の姿を映し出す。マリア・カラスとのコンビで一世を風靡したティト・ゴッビのスカルピア(いかにもSMチックな黒光りする革ブーツ)とは対照的である。
演出もごく普通である。
なんで退屈なのだろう?
思うに、ムーティの指揮が上品過ぎるからである。
この作品はぶっちゃけ、陰惨で残酷で下品な内容である。トスカの歌う全曲中もっとも有名なアリア『恋に生き、歌に生き』だって、よく考えれば「恋人を助ける代償として一回だけでいいからやらせろと迫るサド男の言葉に途方にくれて」身の上を嘆く歌である。
哀れ、というより下品でしょう?
この曲に限らず、プッチーニのオペラにはどことなくSMチックなところがある。
『ラ・ボエーム』しかり、『蝶々夫人』しかり、『トゥーランドット』しかり・・・。
内容的にもそうだが、曲調もなんとなく痛めつけるような、締め付けるような、窒息させるような不自然なところがある。「そこが甘美だ」という人も多いのだろうが・・・。
いずれにせよ、プッチーニのオペラに「上品」という言葉は当たらない。
舞台が映えるためには、聴衆を熱狂させるためには、あえてドラマチックに(ベタに)振ったほうが面白いのがプッチーニなのではないか。