2011年アメリカ映画。

 観始めて20カットくらいで、「ああ、これはいい」と思わず声を上げた。

 アメリカ映画であるが、舞台のほとんどはイタリア。バチカンのあるローマである。
 そのせいだろうか、フィルムの感触がアメリカ映画というよりイタリア映画、エットーレ・スコラやヴィットリオ・ストラーロを思わせるような艶やかで上品なタッチと色彩感覚。目立たないけれど、切れ味のいいカメラワークもすばらしい。

 実話を基にしたというストーリー自体はそれほどユニークなものではないが、脚本もセリフも洗練されているし、主役の青年(コリン・オドノヒュー)の演技も的確で、顔も姿も良い。父親役にルドガー・ハウアーを持ってくるという念の入り用。
 この監督、ただものではない。


 アンソニー・ホプキンズについてはもうなにをかいわんや。
 ハンニバル・レクターという映画史上屈指の悪役にして難役を演じきったあとには、悪魔に取り憑かれる神父(エクソシスト)の役など赤子の手をひねるようなもの。(物語で実際にひねったのは自分の手であるが…。) 
 前半の、顔の皺一本一本に信仰生活の垢がこびりついているような、老獪にして、どこか憎めないイタリア親父くさいエクソシストぶりも達者を感じさせるが、後半、ほんの心の隙間から悪魔を呼びいけてしまったあとの凄まじい変貌ぶりは、やはり「サー」(爵位のこと、愛ちゃんの気合ではない)に恥じない名優というほかない。


 クライマックスの青年v.s.悪魔のバトルにおいて、なんとも驚異を覚えるのは、ホプキンズの演技で最も怖いシーンが、この種の悪魔祓いものに欠かせないCGを使った顔の毒々しい変化や有り得ないような体のねじれ、下品で醜怪な言動の炸裂する部分ではなくて、いったん大人しくなった悪魔=神父=ホプキンズが、何もしないで椅子に座ってこちらを睨んでいる、その姿から漂ってくる何とも言えない汚れた気配なのである。ただ椅子に腰掛けているだけで、ここまでの邪悪さ・淫蕩さ・剣呑さ・不気味さを感じさせる演技が可能とはまさに「神がかって」否「悪魔がかって」いる。これに匹敵しうるのは、『シャイニング』のジャック・ニコルソンか、『ガラスの仮面』の月影千草くらいだろう。

 この凄まじい憑依のリアリティがあればこそ、信仰への迷いのあった主人公の青年は悪魔の存在を確信し、ひるがえって神の存在をも確信するに至るのである。
 悪魔は、神の存在と優越性を人間に信じさせるための、なくてはならない神の一部なのである。アメリカと悪の枢軸国みたいな関係だ。


 それにしても、ポプキンズはいつからあんなにイタリア語がペラペラになったのだろう? 何かが取り憑いているとしか思えん。やはり。


評価: B+

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
         「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
         「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 
         「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」
         「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」
         「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
         「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 
         「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
         「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」
         「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 
         チャップリンの作品たち   


C+ ・・・・・ 退屈しのぎにはちょうどよい。レンタルで十分。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
         「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 「ロッキー・シリーズ」

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。 「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
         「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。もう二度とこの監督にはつかまらない。金返せ~!!