ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

ラース・フォン・トリアー

● 北の大地の因縁 映画:『死闘の伝説』(木下惠介監督)

1963年松竹。

監督・脚本 木下惠介
音楽 木下忠司
出演
  • 園部梅乃:  毛利菊枝
  • 園部静子:  田中絹代
  • 園部黄枝子:  岩下志麻
  • 園部秀行:  加藤剛
  • 清水信太郎:  加藤嘉
  • 清水百合:  加賀まりこ
  • 鷹森金兵衛:  石黒達也
  • 鷹森剛一:  菅原文太
  • 源さん:  坂本武
  • 林巡査:  野々村潔

 木下恵介にしては珍しいバイオレンスアクション。

 岩下志麻が出ている!
 なんだか呼ばれるかのように志麻サマの作品を追っているなあ。
 そして、ここでも父娘共演。万年脇役の野々村潔は、スターである娘の演技をどんな思いで見ていたのだろう?
 
 イケメンというよりハンサムな加藤剛と、ほぼ主役と言っていい出番の多さと見せ場を与えられている加藤嘉の2ショットは、もちろん、同じ松竹の名作『砂の器』を連想させる。とにかく加藤嘉の名優ぶりが光っている。
 
 六本木の小悪魔・加賀まりこは、やはり、顔立ちやスタイルや雰囲気が都会的過ぎる。鄙まれな美人というレベルではない。加藤嘉の娘にも見えない。ミスキャストな気もするが、もう一人の鄙まれ・岩下志麻との対比、役の上での棲み分けを考えると、これで良かったのかもしれない。クライマックスで銃を構える凛々しい姿は、昔日の薬師丸ひろ子(in『セーラー服と機関銃』)にも似て可愛い。

 他に、毛利菊枝田中絹代、坂本武といったベテラン俳優陣を配して、演出にはみじんの揺ぎも無い。完成度も高い。
 
 興味深いのは、菅原文太である。
 仁侠映画やトラック野郎など東映の大スターだった文太兄いの珍しい松竹出演作なのである。1967年に東映に移る前に6年ばかり松竹に在籍していたのだ。木下作品にはあと岡田茉莉子主演の『香華』に出ている。
 本作では、村の大地主のドラ息子の役で、岩下志麻演じる黄枝子に懸想するも振られて、怒りから権力をかさに黄枝子一家を窮地に追い詰め、最後は力づくで黄枝子を強姦しようとするが逆に頭を殴られ殺されてしまうという、典型的な悪役、嫌われ役、おマヌケな役を演じている。
 菅原文太はモデル出身なだけに間違いなくハンサムなのだが、加藤剛のような甘いマスクやハーレクイーンロマンスな雰囲気は持っていない。女よりも男に持てるイケメンだ。
 松竹から東映に移って大正解だった。

 さて、この物語は太平洋戦争末期に北海道のある部落で起きた暴動を描いている(おそらくフィクションだろう)。
 暴動と言っても、虐げられた村人たちが地主や政府や軍などの抑圧者に反抗するといった秩父事件的な勇ましいもの・誇らしいものではない。
 
 本州から疎開してきた園部一家は、村の権力者に睨まれたのがもとで共同体から孤立する。権力に阿る村人らは園部一家に嫌がらせするようになる。次第に敗戦の色濃くなると、これまで戦時下の窮乏を耐えてきたストレスと、あいつぐ家族の戦死の知らせに遣りどころのない怒りと悲しみを抱えた村人たちの鬱憤は一気に爆発し、園部一家を標的に山狩りを始める。

 つまり、一つの家族に対する集団リンチがテーマである。
 
 なんて残酷な、なんて恐ろしい映画を木下は撮ったのだろう!
 共同体における自己保身と仲間意識から、よそ者に対する村人の敵意がじょじょに高まり、陰険な陰口や行為(畑を荒らす)を生み、戦時下の日常生活で蓄積された怒りとシンクロして、あるきっかけをもとに暴動が勃発する。
 人間性に潜む個的・集団的心理の怖さや醜さを、木下恵介は、実に鋭く、丹念に、サディスティックなまでに(見方を変えるとマゾヒスティなまでに)容赦なく、救いなき非情さで描き出している。観ていて、ラース・フォン・トリアー監督、ニコール・キッドマン主演の『ドッグヴィル』(2003)を想起したのであるが、そう言えば木下恵介とラース・フォン・トリアーは何となく作風が似ている。一見、ヒューマニストっぽく見えて性悪説なところが・・・。

 音楽は実弟の木下忠司。アイヌの伝統楽器ムックリを使うことにより、緊迫感を高め、同時に北海道という土地に込められた因縁を観る者に感得させるのに成功している。ビョンビョンビョンという音が、見終わった後もしばらくは耳について離れない。

 『カルメン故郷に帰る』でいくら牧歌的な田舎の風景や陽気で素朴な人間を描こうが、木下恵介が血縁や地縁を絆とする日本的共同体(=村社会)に、希望を見ていなかったことは確かである。



評価:B+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!






● 美しい畸形 映画:『メランコリア』(ラース・フォン・トリアー監督)

 2011年デンマーク映画。

 ラース・フォン・トリアー監督は、へんてこな映画ばかり撮る。この監督は、キ印か変態かヤク中か精神病患者じゃないかと思うのだが、どういうわけかカンヌグランプリをもらったりして、傑作ヒューマンドラマを取る監督と思われているフシがある。
 なんか失礼な言い方をしているようだが、この監督の作品を見るたびに、単純にヒューマンドラマとか芸術大作とくくってしまう世間的評価はズレているような気がしてならない。世界的な名声を得た『奇跡の海』(1996)然り、パルム・ドールに輝いたビョーク主演の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』然り。
 不当な評価を得ているというのではない。映画監督としての才能はたいへんなものである。天才と言ってもよかろう。
 ただ、その天才性は、多くの人を感動させるヒューマンドラマの名手(たとえばスピルバーグや黒澤明のような)というところにあるのではなく、映画芸術そのものが持つ畸形性をこの監督がそのまま体現しているところにあるような気がするのである。ゴダールのように。フェリーニのように。溝口健二のように。

 映画の畸形性とはなにか。
 それはショット(画面)の連鎖によって紡がれていく「目には見えない」物語(=プロット)以上に、「目に見える」ショットそのものが図らずも「何か」を観る者に伝えてしまうところにある。物語にとっては余剰であり過剰でもある「何か」こそが、映画を映画たらしめる監督の個性であると同時に花押(かきはん)である。 
 ラース・フォン・トリアー監督の作品にはその「何か」が豊饒にある。

 『メランコリア』も単純な物語としては破綻している。
 一見、心の病を負った一人の美しい女性の結婚披露宴とその崩壊をめぐる一連の出来事を追った人間ドラマである。奇天烈な家庭環境に育った主人公ジャスティンの人格障害としか言いようのない奇矯なふるまいが丹念に描かれる。それだけなら物語として破綻は生じない。
 ラース・フォン・トリアはそこにどういうわけか、地球に近づいてくる惑星メランコリアの物語を重ねる。メランコリアは最後には地球に衝突し、人類は破滅する。当然、ジャスティンもジャスティンに振り回されている家族も死ぬ。
 物語が破綻するのは、地球が破滅するラストが用意されているときに、ジャスティンの結婚式のいざこざとか子供のころの家庭環境に端を発する人格障害なんて瑣末なエピソードは描かれるだけの価値を持たないであろう、と観る者は思ってしまうからだ。
 この不可思議なアンバランスは通常なら失敗作と烙印されてもおかしくはない。
 にもかかわらず、魅力は満載である。
 ピーター・グリナウェイを思わせる映像美。その美を浸透させるワーグナー『トリスタンとイゾルデ』の用い方。キーファー・サザランド、シャルロット・ゲーンズブル、シャーロット・ランプリングといった魅力たっぷりの錚々たる出演陣。紋切り型をいっさい廃した台詞。
 
 美しい畸形は、ともすれば、美しい健常よりも人を陶酔させる。


評価:B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」    

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

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