ソルティはかた、かく語りき

東京近郊に住まうオス猫である。 半世紀以上生き延びて、もはやバケ猫化しているとの噂あり。 本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、芝居や落語に興じ、 旅に出て、山に登って、仏教を学んで瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

ロマン・ポランスキー

● 映画:『オリバー・ツイスト』(ロマン・ポランスキー監督)

2005年イギリス、チェコ、フランス、イタリア制作。
上映時間 128分 

出演
  • オリバー・ツイスト: バーニー・クラーク  
  • フェイギン: ベン・キングズレー
  • アートフル・ドジャー: ハリー・イーデン  
  • ビル・サイクス: ジェイミー・フォアマン  

 近所のTUTAYAで見かけて気になっていたのだが、慎泰俊の『ルポ 児童相談所』を読んだのが後押しした。
 チャールズ・ディケンズ原作の19世紀ロンドン下町が舞台の少年の成長物語である。下層社会の人々に多大なる関心と愛情を持ち、上流階級の作る社会制度の欠陥や腐敗に厳しい批判の目を向けたディケンズの面目躍如たる代表作。
 登場人物一人一人がユニークで生き生きと描かれているのはディケンズ最大の特徴であるが、この映画でもそこがうまく踏襲されている。
 見どころの一番は役者の演技合戦にある。
 
 主演のバーニー・クラークは、純粋で気高い心と生まれついての賢さを持つ美少年としてオリバーを造型しているが、これは演技力というよりも‘地’であろう。
 
 虐待を受けて田舎からロンドンに逃げてきたオリバーが市場で出会い、オリバーを少年窃盗団の親方であるフェイギンに引き合わせるのがドジャー少年である。演じるハリー・イーデンが素晴らしい。周囲の大人役者を食う存在感とふてぶてしい魅力を放っている。THE END 後も「あの子はその後どうなったんだろう?」と気になってしまうほどの愛着を観る者に抱かせる。ウィキによると、イーデンはミュージカル『オリバー!』でまさにこのドジャー役を見たのがきっかけで役者を目指すことにしたそうだ。入魂の演技もうなづける。
 
 オリバー、ドジャーら少年たちに寝床と食事を与え、泥棒として教育し、老後の資金をしこたま貯めているのがフェイギン。原作でも最も印象に残るキャラクターである。演じるベン・キングズレーは、『ガンジー』(1982)でアカデミー主演男優賞を受賞した名優。さすがに凄い役作りである。人懐っこさと残忍さ、優しさと卑劣さ、楽天主義と悲観主義、したたかさと愚かさ、明るさと暗さ・・・光線の具合によって複雑な色合いを見せる織物のように、一見矛盾し合う人間性の様々な面を包含する人物としてフェイギンを描き出している。悪党なのに憎めない。
 
 そして、こちらは紛れもない悪党ビル・サイクス。怒りにまかせて自分の情婦を殴り殺し、最後はオリバーを人質にとって追っ手からの逃走を図るも事故死してしまう。単純な‘善悪図式’にはまる悪役であり、『レ・ミゼラブル』のジャベール警部ほどの、あるいは同じディケンズの『エドゥイン・ドルードの謎』に出てくるジョン・ジャスパーほどの複雑な心理的背景や意味深なセリフは与えられていない。2012年の『レ・ミゼ』におけるラッセル・クロウばりの心理描写や性格造型を期待される余地はない。
 だが、ここでのジェイミー・フォアマンの演技は神がかっている。とくに、情婦を殺し、人生ただ一人(一匹)の相棒であった飼い犬に逃げられてからのサイクスの鬼気迫る表情は、それまでどことなく牧歌的であった画面を一気にサスペンス方向にしめる。警察の探索から身を隠すフェイギンと少年たちの家に、陰気なオーラーをまとったサイクスが一人戻ってくる場面は、オリバーやドジャーならずともゾッとする。ここから主役は完全にサイクスになる。最終的にロープが首にからまって空中で縊死する衝撃的シーンまで、オリバーはもとよりドジャーやフェイギンも抑えて、観る者にもっとも強いインパクトを与える役者はジェイミー・フォアマンである。

 ところが、どっこい。
 
 物語の最後、オリバーが死刑囚の獄屋を訪れるシーンで、どんでん返しが起こる。死刑を待つ狂ったフェイギンの、なんとも哀れな、なんとも苦痛に満ちた、なんとも痛ましい言動に、観る者は胸を射抜かれる。それはユダヤ人であり、泥棒であり、老残の身であり、今や死刑囚である孤独なフェイギンの全生涯が凝縮された、フェイギンという一人の人間の精神と肉体の履歴をまざまざと映し出す瞬間であり、ベン・キングズレーの役者としての力量のまぎれもない証明である。

 最後の最後にテーブルの札をさらっていったのはガンジーであった。



評価:B-
 
 
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!




● 映画:『ゴーストライター』(ロマン・ポランスキー監督)

 2010年フランス、ドイツ、イギリス制作。

 この映画はベルリン国際映画祭監督賞をはじめセザール賞やヨーロッパ映画賞など、いろいろな賞をもらっている。
 まずそこのところが謎である。

 確かに手慣れた演出と破綻のないストーリー運びで手堅く仕上げてはいる。演技陣も悪くない。
 しかし、凡庸である。
 一種のミステリーなのだが、パズルストーリーに慣れている人間ならば真相はすぐに見抜けるだろう。どんでん返しの意外な結末なんてものではない。
 演出やカメラワークが斬新かと言えば、そんなこともない。凡庸である。
 現代的で深い人間ドラマが描かれているかと言えば、そうでもない。
 ユーモアもない。
 すべてにおいて凡庸である。
 と言って、B級映画にもなりきれていない。
 始末が悪い。
 ポランスキーにとって、この映画を撮る必然性はどこにあるのだろう?

 受賞リストの長さは、過去(60~70年代)の偉大な監督ロマン・ポランスキーへの功労賞的な意味合いなのかなと思ってしまう。
 主演のユアン・マクレガーやキム・キャトラル(『セックス・アンド・シティ』のサマンサ)も映画・演劇青年だった時代に憧れた偉大な監督の作品に単に出演したかったと言う理由で、役を引き受けたのではないだろうか。
 


評価:D+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
    
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!

 
 
 
 
 

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