ロージーがハリウッドにいる時に撮った『緑色の髪の少年』(→ブログ記事緑色の髪の少年)は「戦闘シーンのない反戦映画」と言われるが、この『銃殺』もまた、戦場が舞台であるにも関わらず、登場人物全員が軍服 を着た兵士であるにも関わらず、「戦闘シーンが一切出てこない反戦映画」である。
最もテーマに直結する主要な場面をあえて描かず、周辺を丁寧に描き込んでいくことでテーマをより効果的に表現するのは、実に洗練された、観る者の想像力を喚起する高度なテクニックと言える。すぐに思い浮かぶのはルネ・クレマン『禁じられた遊び』だろうか。
ロージーの作品は、こういった寓意的な、暗喩的な、象徴的な、婉曲的な、煙幕的なスタイルを特徴としている。
そして作家のスタイルというものは、多かれ少なかれ、作家のアイデンティティであるわけだから、ロージー自身が「赤狩りでハリウッドを追われた共産主義かぶれのアーティスト」以上の何かを当然持っていたのであろう。その「秘密」の存在ゆえに、彼の作品は表面上の物語を追うだけではすまされないような不可思議な魅力、奥行き、両義性に満ちていて、一筋縄ではいかない感じを観る者にそのたび与えるのである。
その「秘密」が何なのかはよく知らないけれど、おそらく、ロージーの「秘密」をもっとも理解し、演技として表現する才能に長けていたのがダーク・ボガードであったのは間違いない。この映画を最後まで観て一番印象に残るのは、脱走の罪で銃殺刑となるハンプ二等兵(トム・コー トネイ)の不運でも、ハンプの刑を決める軍法会議のスリリングな展開でも、「反戦」といったテーマですらなく、ハンプの弁護人となったダーク・ボガードの演技、いや存在感そのものなのである。
ボガードの存在感が、他のすべての役者、すべての演技、すべてのセリフ、すべてのエピソード、すべての物語を超越して、画面になんだか一種なまめかしいような湿気を与えている。その湿り気は、駐屯地に降る雨の描写によって煙幕のように緩和されているけれども、そうでなければドライな空気が支配するのが通常である男だけの舞台に、ボガートの漂わすウエット感(色気と言い換えてもよいが)はただならぬ不穏を連帯に及ぼさずにはすむまい。物語をまったく別の方向に持って行きかねない破壊力である。
スピリチュアルの世界で有名な人物に、サン・ジェルマン伯爵という、ルイ15世に仕えた貴族で不老不死の力を持つ男がいる。(左肖像)
ヨーロッパ史上最大の謎の人物とされている。
映画の中のダーク・ボガードを見ていると、このサン・ジェルマンを思い出す。市井の人間とはかけ離れた、家族や恋人や故郷の存在をなぜだか思いつかせない、不可思議な魅力を醸している。
その意味では、ダーク・ボガートにこそ、ヴァンパイアを演じてもらいたかったと思う。
もっとも、彼の代表作である『ベニスに死す』(ヴィスコンティ監督)は、見ようによっては、若い美少年のエキスを追い求める老いたヴァンパイアの姿と言えるかもしれない。あの作品のボガートこそ、もっとも素の自分に近かったのかもしれない。
ところで、ウィキによると、サン・ジェルマンは1984年から日本に滞在しているという。
評価:B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
ヒッチコックの作品たち
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
「ボーイズ・ドント・クライ」
チャップリンの作品たち
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!