ソルティはかた、かく語りき

首都圏に住まうオス猫ブロガー。 還暦まで生きて、もはやバケ猫化している。 本を読み、映画を観て、音楽を聴いて、神社仏閣に詣で、 旅に出て、山に登って、瞑想して、デモに行って、 無いアタマでものを考えて・・・・ そんな平凡な日常の記録である。

三國連太郎

● 三國連太郎は立派な男です 映画:『善魔』(木下惠介監督)

1951年松竹。

 昭和の名優三國連太郎のデビュー作。このときの役名がそのまま芸名になった。
 共演は、やはり名優にして暗き瞳のダンディな森雅之と、名優にしてコケティッシュな瞳が蠱惑的な淡島千景。そして、永遠の朴訥にして泰然自若たる笠智衆。
 この存在感抜群な4人の演技合戦が最大の見物である。物語自体は出来は良くないし、一瞬社会派ドラマあるいはドストエフスキーばりの形至上学を匂わせる「善魔」というテーマの描き方も不発で、木下恵介の得意とするのは喜劇や風刺劇や人情劇であっても社会派ドラマや不条理劇ではない、ということを改めて認識する。ちなみに、善魔とは「人は善を貫くために時に魔の心を必要とする」といった意味合いの造語である。
 
 4人の演技合戦と書いたが、勝負ははじめから明白である。森雅之と淡島千景が圧倒的にいい。演技は巧いし、滴るようなデカダンの魅力に終始惹きつけられる。
 新人の三國連太郎が演技下手なのは仕方ないが、驚くのは我らが笠智衆も匹敵するくらい下手なんである。まったく、この作品が小津安二郎『晩春』(1949年)のあとに撮られているとは信じられない。『晩春』における笠の名演がウソのよう。小津マジックによって‘名優’と勘違いされたのは、実は原節子以上に笠智衆なのだと思う。
 もちろんソルティは原節子も笠智衆も大好き。三國連太郎も。
 スターの一番の魅力とは、演技力でなくて、醸し出す雰囲気(=個性)にある。
 新人の三國連太郎がまれに見るスター性を有しているのを確認できること。それがこの作品を観る価値あるものにしている最大の理由である。



評価:B-
 
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 
 
 

● 武士道を‘斬る’! 映画:『切腹』(小林正樹監督)

1962年松竹。

 小林正樹作品は『怪談』(1965年)に次ぎ、二作目の鑑賞となる。
 やっぱり日本が世界に誇る名監督である。小津、黒澤、溝口、木下に並んで、もっと評価・称賛されても良いと思う。名前が平凡なのが割を食っている一因だろうか。
 
 この作品も一級のサスペンスドラマに仕上がっている。黒澤の『天国と地獄』に勝るとも劣らない。
 二人の男の会話の応酬を中心としながら、ラストの謎の解明と破壊的悲劇に向けて、次第に募りゆく圧倒的緊迫感。三國連太郎と仲代達矢の重厚にして凄みある演技。丹波哲郎の独特の風格。この役者は演技そのものは決して巧くないのだが、演出家が使いたくなるような‘何かもっている’人だ。霊的な‘何か’?
 何より称賛すべきは、脚本の巧みさ。謎の解明と同時に‘生きて’くる伏線をそれとなく張り巡らしながら、緊迫感を醸成するセリフや構成でドラマを形作っていく。さすが空前絶後の天才脚本家・橋本忍。橋本と小林が組んだ時点で、この作品の成功は決まったというべきだろう。 

 『怪談』で魅せた様式美はここでも健在である。
 武家屋敷の簡素で清潔な建築美。侍達の無駄のない振る舞いの美しさ。殺陣の美しさ。それらを十全に生かす演出と照明とカメラワーク。ウィキによると、小林監督は大学時代東洋美術を専攻していたらしい。美的センスは生来のものなのだろう。
 
 平和な江戸の世、仕官先を失い生活に窮した武士が、大名屋敷を訪れて「切腹したいから庭先を貸してくれ」と迫る。困った屋敷方は、彼に金子を与えて引き取り願う。これが世に広まって、引取り料目当ての狂言切腹が横行する。
 こうした世相の中、一人の武士津雲半四郎(仲代達矢)が名門井伊家を訪れて、庭先での切腹許可を申し出る。井伊家の家老斎藤勘解由(三國連太郎)は「その手には乗らず」と、本人の要望のままに切腹を許可する。
 だが、半四郎はただの金子目当ての狂言切腹ではなかった。
 いったい彼の目的は何か。
 
 謎が明かされるにしたがい、観る者は武家社会(封建制)の残酷さや本質的矛盾――武家社会が安定したら武士の存在(出番)は必要で無くなる――を察することになる。武士道の非情や‘張子の虎’のようなくだらないプライドばかりの上っ面加減を知ることになる。
 そしてまた、組織や制度というものが持つ人間性への抑圧を痛感することになる。
 社会のすべての矛盾の一番の犠牲となって苦しむのは常に弱者である。
 この映画では、出演者中ただ一人の女優であるうら若き岩下志麻(半四郎の娘の美保役)が、結核に侵され、乳飲み子と共にあばら家で死んでいく。美保の夫もまた井伊家の犠牲となった一人であった。
 単なる時代劇ではない。現代にも十分通用する社会派ドラマである。

 2011年に三池崇史監督が3Dで再映画化している。
 が、これほど最高のスタッフ陣を揃えた、これほど完成度の高い傑作を前に、はたしてその必要があったのだろうか。疑問である。


評価:A-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 

● 犬神人とは何者か 映画:『親鸞 白い道』(三國連太郎監督)

1987年松竹。

 浄土真宗の生みの親である親鸞上人の半生を描いた伝記映画。
 と同時に、中世の下層社会に生きる‘賤民’と言われる人々を、精密な考証に基づきリアリティ豊かに活写した日本映画史上稀に見る歴史&風俗ドラマとして、かけがえのない価値を持つ作品と言える。
 カンヌ映画祭審査員賞も十分頷けるのだが、国内においては公開当時も今も評価芳しくなく、残念なことである。観る前の自分がそうだったように、「功成り名を遂げた大物俳優の道楽」「信者の大量動員をねらった布教映画」と軽んじて敬遠していたら、大層もったいない。監督としての、いやいや芸術家としての三國連太郎の凄さに感嘆した。
 実際、これだけ見応えのある魅力的な映画は滅多あるものじゃない。140分の長尺を早送りもスキップもせず2回観てしまった。
 
 親鸞上人は、1173年京都の日野の里で公家の流れを汲む家系に生まれた。源平の争いが激しさを増す中、9歳で出家、名を範宴(はんねん)と改める。以後20年にわたり比叡山で厳しい修行を積むも、悟りに至ること叶わず、29歳で山を下り、専修念仏を説かれていた法然上人を訪ねる。
 法然上人の教えに目が開かれた親鸞は、「法然上人にだまされて地獄に堕ちても後悔しない」と他力本願、専修念仏の道を選ぶ。
 33歳のとき、名を善信と改める。
 専修念仏の教えが盛んになるに連れ、当時の仏教界を支配していた延暦寺、興福寺など既存仏教組織からの弾圧が激しくなる。1206年法然の門弟が開催した念仏集会に参加した後鳥羽院の女官が出家騒ぎを起こす。それが院の逆鱗にふれ、ついに1207年に専修念仏は禁止、関係した僧侶らは死罪となる。法然上人は還俗させられ土佐に、35歳の親鸞は藤井善信と名を改めさせられ越後に流罪となる。
 越後では、非僧非俗の立場で民衆に専修念仏の布教に励まれる。39才のとき越後の豪族三善為教の娘恵信と結婚、6人の子をもうける。
 1214年、他宗からの迫害を逃れるため妻子とともに越後を離れ、東国を点々とした挙句、常陸(茨城県)の稲田の草庵に落ちつく。
 
 映画では、親鸞らが越後を脱出するシーンから始まって、稲田に落ち着くまでを描く。つまり、親鸞の生涯における最大の苦境の時である。
  
 まず、親鸞(この時期はまだ‘善信’)を演じる無名の新人森山潤久が素晴らしい。
 親鸞の人の良さ、やさしさ、誠実さ、謙虚さ、芯の強さ、悟りきれない迷いなどが、作為なく顔つきに投影されている。三國監督が演技力でなく、雰囲気や顔立ちで森山を抜擢したのは間違いあるまい。
 この映画以後、森山はいくつかの映画や芝居に出たらしいが、ほとんど話題になることはなかった。現在は札幌の浄土真宗大谷派のお寺で住職をしているそうである。なんという因縁!
 他の役者たちも適材適所で素晴らしい。
 妻・恵信を演じた大楠道代をはじめ、泉谷しげる、ガッツ石松、小松方正、盲目の老女を演じた原泉はまさに助演女優賞級の名演、小沢栄太郎、蟹江敬三、丹波哲郎、フランキー堺・・・。一癖も二癖もある個性的な役者たちが、中世の身分社会のそれぞれの階層に似つかわしい雰囲気と表情と所作とでもって、人間臭さを撒き散らしている。これを観ると、昨今のNHK大河ドラマの出演者を含めるスタッフたち、そして視聴者が、いかに浅い人間理解と平板な演技に満足しているかを、つくづく感じる。

 親鸞を取り巻き、膝と膝とを突きあわせ、説法に耳を傾けるのは、化外の民、被差別の民である。
 太子信仰の猟師、葬送人(泣き男)、ハンセン病患者、盲目の琵琶法師(『怪談』で耳なし芳一を演じた中村嘉葎雄が演じている!)、「はいち」と呼ばれる巫女から転落した遊女、皮剥ぎ職人、渡し守、「たたらもの」と呼ばれる製鉄職人、そして特筆すべき・・・犬神人(いぬじにん)。
 
 中世、京都祇園八坂神社に隷属して、社領内の治安警察ならびに清掃などの雑役に従事した者。鴨の河原に近い祇園あたりに集居。日頃は弓弦や矢の製作、販売などを業とし「弦召 (つるめそ) 」とも呼ばれた。また、境内、社頭、祇園祭の神幸路の清掃のほか、戦乱、飢饉などの際の死体の処理権、葬送権をもち、死者の衣服や副葬品を取って利益としており、応安4(1371)年には、類似の権利を主張する河原者と衝突している。(ブリタニカ国際大百科「犬神人」)

 映画に出てくる犬神人・宝来は、既存の体制派仏教の手先として親鸞や念仏衆の動向を探り、スパイのごとく暗躍する役目を果たしている。法師姿で赤い布衣、白い布で眼だけ出して覆面し、八角棒を持つ。つまり、被差別者(=非人)であることを衆目にさらしながら生活することを宿命づけられている。
 この宝来がなんとも光っている。覆面からのぞく不気味な目の光が、差別され、忌み嫌われる者の卑屈さ、悲しみ、抑えつけられた怒り、諦め、狡知さ・・・といった様々な感情を映し出していて、そんじょそこらの役者じゃ、到底つとまらない難役である。
 いったい誰が演じているんだろう???

犬神人_本願寺聖人伝絵
 
--と思っていたら、宝来、最後の最後に親鸞の前で覆面を取って素顔を晒した。
 真っ白く塗った顔に黒々した髭、額には「犬」の文字の入れ墨。
 三國連太郎その人であった。
 なるほど、この役を演じるのに三國連太郎以上にふさわしい者はいまい。
 三國の養父は被差別部落の出身であり、三國自身、差別問題に関する著作、講演活動等を行っている。民俗研究者の沖浦和光との対談本『「芸能と差別」の深層』(ちくま文庫)を読めば、三國がいかに広く深く被差別の民について研究し、そこで得たものを演技や演出に生かしているかが伺える。
 宝来こそは、三國連太郎の分身なのであろう。
「親鸞の半生を描くことは、すなわち、被差別の民を描くことにほかならない」と、三國監督は教えてくれる。

 それにしても、親鸞が比叡山での20年に及ぶ修行で悟れなかったのは、末法の世(1052年が元年とされる)に入ったからではない。それが大乗仏教の限界だったからである。
 悟りに至る方法をブッダはちゃんと説いていて、その経典も残っているのだが、それが日本に伝わらなかった。中国を通して伝えられたのは、阿弥陀如来が極楽浄土にいてどうのこうの・・・とか、56億7千万年後に弥勒菩薩が現われてどうのこうの・・・とか、悟りとは関係ない壮大なお伽噺ばかりであった。
 親鸞が迷ったのも無理はなかった。
 親鸞がもしブッダの教えをそのまま伝える原始仏教の経典の数々を目にしていたら、日本の宗教史はどれほど変わっていただろう。日本人の宗教観はどれほど今と違っていたことだろう。
 それを思うと「歴史とは因果で残酷なものよ」と思うけれど、それもまた因縁なのだろう。
 今日我々は親鸞が見たら驚喜で卒倒するような原始経典を邦訳で読むことができる。悟りに至る瞑想法を修することができる。

サードゥ、 サードゥ、サードゥ
 


評価:A-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 

● お~い、そこの人! 映画:『怪談』(小林正樹監督)

1965年東宝

 梅雨明けして本格的な夏になったから・・・・というわけではないが、TUTAYAの棚を渉猟していたら『怪談』にすっと手が伸びた。
 第18回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した名作である。
 小林正樹は、『人間の条件』(1959-1961)、『切腹』(1962)、『上意討ち 拝領妻始末』(1967)を撮った日本が世界に誇る名監督の一人なのだが、自分はまったく観ていない。真野響子が主演した『燃える秋』(1978)はハイ・ファイ・セットが唄った主題歌のみ覚えている。
 これからおいおい観ていくつもりだ。 

 本作は、小泉八雲原作『怪談』に収録されている「黒髪」「雪女」「耳なし芳一」「茶碗の中」の4編を映像化したものである。日本人ならどこかで耳にしたことのある馴染みある物語である。その意味で、ストーリーそのものへの関心ではなく、どんなふうに演出されているか、どんなふうに映像化されているか、に焦点を当てて楽しむことができる。つまり、純然と‘映画的’に・・・。

 4編とも完成度の高い見応えのある‘映画’に仕上がっている。
 なんと言っても讃えるべきは、映像美。ダリやキリコを思わせるシュールレアリズム風の幻想的な色彩と表象(たとえば空に浮かぶ目の模様)と構図とが、観る者の無意識を刺激して、怪奇と共に不安を抱かせ、非日常へと誘う。
 「ああ、これこそ映画だ」と思わず唸り、嬉しくなってくる。
 とりわけ、『耳なし芳一』で壇ノ浦に滅んだ平家の武者や女房たち一門の亡霊が正装して居並ぶシーンの美しさは、黒澤明の後期カラー作品群(『影武者』『こんな夢を見た』ほか)を軽く凌駕し、日本映画史における最高美を焼き付けている。これ一編だけでも観る価値が十分ある。
 いや、日本映画を語る者なら観なくてはなるまい。
 役者の魅力も尋常(ハンパ)でない。
 「黒髪」の三國連太郎の凄絶な老醜ぶりと鬼気迫る演技、「雪女」の岸恵子の清潔感と直感的な語りの冴え、「耳なし芳一」の中村嘉津雄と丹波哲郎の他の役者が考えられないほどの適役ぶり。ほかにも新珠三千代、仲代達矢、田中邦衛、村松英子、中村翫右衛門、杉村春子が強い印象を残す。
 脚本は水木洋子、音楽が武満徹。
 これだけ贅沢なスタッフを集めた映画は、もう作れないだろう。
 傑作である。 

 ときに、小泉八雲の『怪談』は子どもの頃、少年少女講談社文庫ふくろうの本シリーズで読んだ。
 これがとても怖かったのである。
 「耳なし芳一」「むじな」「鳥取のふとん」など小泉八雲の代表的作品のほか、上田秋成「雨月物語」、岡本綺堂「すいか」など、寝小便が止まらぬほどの名作・怪作ぞろいであった。
 だが、もっとも怖かったのは日本の怪談ではなかった。
 一緒に収録されていたウィリアム・ジェイコブス「猿の手」、チャールズ・ディケンズ「魔のトンネル」といった初めて接する海外の怪談が眠れなくなるほどに怖かった。とくに、「魔のトンネル」は、これまでに自分が読んだり観たり聞いたりした数知れぬ怪談・ホラー・怪奇ドラマの中で、今に至るまでトップの座を譲らない‘鉄板’の悪魔的傑作である。ユーモア小説の大家ディケンズは、ホラー小説の名手でもあったのだ。
 ディケンズは最後の小説『エドゥイン・ドルードの謎』を未完のまま亡くなった。数年後、アメリカに住む無学の一青年が何かに取付かれたようにその続きを書き始め、いわゆる‘自動書記’によって作品を完成させた。書かれたものは、文体も綴り方の癖もディケンズそのままで、事情を知らない人が読んだら別人が書いたものとはわからないと言う。(ソルティ未読)
 やっぱり大作家は何か違う。


評価:A-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!



 


 

● 日本映画最良の布陣 映画:『破戒』(市川昆監督)

 1962年、大映制作。

 キャスト・スタッフの顔ぶれがすごい。
 主演の市川雷蔵は、生真面目な暗い眼差しが被差別部落出身の負い目を持つ瀬川丑松に過不足なくはまっている。正義感あふれる友人の土屋銀之助役に若き長門裕之。なるほどサザンの桑田そっくりだ。解放運動家・猪子蓮太郎役に三國連太郎。白黒の画面に映える洋風な凛々しい風貌が印象的。後年、三國は自らの出自(養父が非人であった)をカミングアウトしたが、抑制されたうちにも思いの籠もった品格ある演技である。中村鴈治郎、岸田今日子、杉村春子、『砂の器』ではハンセン病患者を名演した加藤嘉、落ちぶれた士族になりきった船越英二、この映画が女優デビューとなった初々しい藤村志保(原作者の島崎「藤村」+役名「志保」が芸名の由来だそうだ)。錚々たる役者たちの素晴らしい演技合戦が堪能できる。
 脚本(和田夏十)も素晴らしい。音楽はやはり『砂の器』の芥川也寸志。
 そして、そして、なんと言ってもこの映画を傑作に仕立て上げた最大の立役者は、撮影
の宮川一夫である。

 市川昆の映画というより、宮川一夫の映画と言ってもいいんじゃないかと思うほど、カメラが圧倒的に素晴らしい。この撮影手腕を見るだけでも、この映画は観る価値がある。
 下手に映像が良すぎると物語や演技を食ってしまい、全体としてバランスを欠いた残念なものになってしまうケースがおいおいにしてある。が、この作品の場合、もともとのストーリが強烈である上に、役者達の演技も素晴らしいので、見事に映像と物語が釣り合っている。丑松が生徒たちに自らの出自を告白するシーンなど、白黒のくっきり際立つ教室空間で丑松の背後に見える窓の格子が、まるで十字架のようにせりあがって見え、象徴的表現の深みにまで達しているかのようだ。
 市川昆監督が狙った以上のものを、宮川カメラマンが到達して表現してしまったのではないかという気さえする。


 「丑松思想」の悪名高き原作の結末を、いったいどう処理するのだろうと懸念していたら、やはり大きく変えていた。
 原作では、丑松は自分の教え子の前で出自を隠していたことを土下座し、アメリカに発つ。いわば日本から避げるのである。悪いことをしたわけでもないのに習俗ゆえに厳しい差別を受けてきた人間が、なぜ謝らなければならないのか。なぜ逃げなくてはならないのか。藤村の書いた結末は、当時としては現実的なものだったのかもしれないが、当事者にとってみれば希望の持てるものではない。

 時代は変わった。生徒の前で土下座するシーンこそ残されているが、友人である土屋が自らの偏見を反省し丑松への変わらぬ友情を表明するシーン、東京へ去っていく丑松を生徒たちが変わらぬ敬慕の眼差しで見送るシーン、丑松が猪子蓮太郎の遺志を継ぎ部落開放運動に飛び込む決心をするシーンなど、新たに作られた場面は感動的であると同時に、希望を感じさせる。

 差別する人々、無理解な人々がいかに沢山いようとも、理解し励まし一緒に声を上げてくれる一握りの仲間がいれば、人はどん底からでも這い上がり、前に向かって歩くことができる。
 そのメッセージが心を打つ。 
 



評価: A-

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 

「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。

「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」 「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。

「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。

「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」 「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)

「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。

「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった

「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!


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